『GODZILLA ゴジラ』渡辺謙 単独インタビュー
ゴジラ人気の答えが見えた
取材・文:編集部 小松芙未 写真:高野広美
怪獣映画の金字塔『ゴジラ』(1954)誕生から60年。新鋭ギャレス・エドワーズ監督によって再びハリウッドで映画化された『GODZILLA ゴジラ』は、地球滅亡の危機にひんした家族の絆の物語と、シリーズ史上最大のゴジラの恐怖、さらに新たな脅威をもダイナミックに描いている。10年ぶりのゴジラ映画で人類の行く末に深く関わる科学者・芹沢博士を演じた渡辺謙が、出演の経緯や作品に込められた思い、そして俳優としての今後について語った。
出演を決めるまでの舞台裏
Q:日本より一足先に公開された世界各国で大ヒットを記録し、全米でも断トツの初登場1位を飾りましたね。
そうですね。全米で今年一番注目され、期待されている作品だという前評判は聞いていましたが、撮影中はワンシーン、ワンシーンを丁寧に撮っていくことに集中していました。こうやってふたを開けてみると、海外のメディアも非常に好意的に受け入れてくれていてそれなりの結果が出たので、正直ホッとしたというか、本当に良かったと思います。
Q:どのような経緯で出演することになったのですか?
僕の個人的な話になりますが、『インセプション』以降に震災が起こって2年半の間、ほとんどアメリカでは仕事をしていなかったんです。その間は、日本のお客さまに何を届けられるかということを主に考えていました。そして、そろそろ3年過ぎるころを迎えて、もう一度別な形で、ワールドワイドで何かをお見せできる機会が来たかなと思っていたときにこのお話をいただいたんです。
Q:そうだったのですね。
ただ、その中でも「うーん、それがゴジラか?」という気持ちがあったり、今この時代に何でゴジラなんだということに対する答えはそのときはなかったんです。でも、広島と長崎、そして福島があったという日本の状況を(監督の)ギャレスも非常に深く理解していたし、ゴジラの成り立ちも含めてちゃんとわかってくれているから身を委ねても大丈夫だと思い、一緒にやりましょうということになりました。
Q:『インセプション』以降、震災の影響から出演する作品を選んでいたのですか?
そうですね。今やるべきことは何なんだろうと常に自問自答するというか、時期や空気みたいなものがきちんと合うかどうかは、考えざるを得ないですね。
『GODZILLA ゴジラ』が提起するメッセージ
Q:本作には、原発の事故など、日本人にとっては震災を思い起こすようなシーンもありますが、描写についてはどう思いますか?
やっぱりハードルは高いと思います。でも、60年前に日本の映画人たちが、水爆実験や原子力爆弾を取り上げ、人類がどういう恐怖を持ち続けなければいけないのかということを提起する意味で『ゴジラ』を作りました。そして60年たった今でも同じ恐怖をわれわれは感じ続けているんです。その恐怖が今そこにあるのに、なかったことのようになってしまうことの恐ろしさを今、僕は感じます。もちろんエンターテインメント作品なので、単純にワーッと楽しんでもらえればいいんです。でも、何か一つチクッと刺さるトゲみたいなものをこの作品で提起できたら、痛みを忘れずにまた次の日につながる何かがあるような気がします。
Q:オリジナル版を継承しているという意味では、演じた芹沢猪四郎博士はオリジナル版の芹沢博士、下の名前は本多猪四郎監督と同じです。オマージュがささげられた役ですね。
キャラクターに関しては割と現代的で、現場に赴いていく科学者・生物学者として演じようと思っていました。ただ、単純に研究しているだけではなくて、自分がよかれと思ってやっていた研究が実はまた怪物を生み出してしまう、ある種の自責の念みたいなものを抱えながら、MUTO(新怪獣)を追い掛けていく。その辺が少し複雑で、科学を推し進めてはいるんだけど、結局コントロールできない。自然の脅威や力に対してある種、科学者としてひれ伏してしまう。そのあたりにやりがいがありましたね。
新ゴジラから見えてくる意味
僕は今までにゴジラ映画を分析したことはなかったんです。でも何でみんなこんなにゴジラ、ゴジラって言うんだろうとか、何で60年の間に30本近いシリーズ映画ができたのかなって疑問に思っていたのですが、今回インサイダーになってみて、答えがちょっと見えたような気がします。
Q:答えとは?
それは、ゴジラの複雑な波形の叫び声の中にただの脅かしや怒りだけじゃなく、苦しみが含まれていること。例えば怖い形相をした不動明王のような気がしました。だから、破壊行為やバイオレンスの後に訪れる安穏や平和をゴジラは内包していると思いました。
Q:今作のゴジラは足から少しずつじわじわと見せる演出ですよね。
来るかな? と思ったらまだ見せない、みたいなね。
Q:全体像を目にしたとき、どう感じましたか?
最初にひと鳴きするじゃないですか。もう「くわ~」って感じでしたよね。歌舞伎のような世界観で遠くから「よっ!」って声が掛かるような、そういう演出でしたね。
Q:もし、ゴジラのような圧倒的な力を手に入れたとしたら、何をしてみたいですか?
嫌だと思います。抑えの利かない力を持つということは、本当につらいことじゃないかな。やっぱりいろいろなものに抑制されているから「やっていこう」という意欲が湧く。何でもできてしまうということは、何にもできないということに等しいと思うので、そうはなりたくないですね。
Q:そういう意味ではMUTOも無敵でしたね。
でも、MUTOにしてみれば、「何か悪いことした?」という感じだと思うんです。ここにギャレスのすごさがあって、ただただ悪い怪獣だったら憎めば良いのだけど、彼らに悪意はなく、ただ生物として生きようとしただけ。MUTOも鳴きますが、それはとても切ない鳴き声で。人間に対して「何てことしてくれるんだ」っていう叫びですからね。奥が深い映画になったと思います。
ハリウッド俳優・渡辺謙の今後
Q:続編が決まったという報道が早速ありましたね。
僕にはまだ全然オファーが来ていないので、どうなるかはわかりません。でも、今回の作品を踏まえた上で、また新しい魅力的な台本を作らないと意味はないと思います。僕にとってはまず今作の内包しているテーマを日本にきちんと届けることが先決です。
Q:その他のハリウッド映画の出演も決まっていますが、向こうの映画に出演するというのは俳優としてどのようなお気持ちですか?
あまり日本とハリウッドを分けて考えてはいなくて、魅力的な脚本と魅力的な監督がいれば、どこでも良いと思っています。僕に興味を持って声を掛けてもらえることは、俳優としてうれしいことですからね。
Q:今後の目標などはありますか?
観客の皆さんもそうだと思いますが、僕自身も行くあてがわからない方が楽しいんです。「次に何をやるのか?」と思っていただけることが豊かなことだと思うので、期待を裏切らないように頑張ります。
自問自答しながら出演する作品を選ぶという渡辺。その姿勢には「自分に何が届けられるか?」という母国を思う熱い気持ちがあった。『GODZILLA ゴジラ』に渡辺が託したものは、恐怖をなかったことにするのではなく、痛みを忘れずに生きる勇気。「奥が深い映画になった」という渡辺の言葉が示す通り、単なる怪獣映画ではない新しいゴジラ映画の誕生を見逃す手はない。
映画『GODZILLA ゴジラ』は全国公開中