『イン・ザ・ヒーロー』唐沢寿明&福士蒼汰 単独インタビュー
まるで自分自身を演じるようだった
取材・文:進藤良彦 写真:谷岡康則
唐沢寿明、5年ぶりの主演映画『イン・ザ・ヒーロー』は、映画やドラマで特撮ヒーローのスーツや怪獣の着ぐるみなどを着て演じる特殊な技能を持った俳優=スーツアクターを題材にした作品だ。10代の頃から実際にスーツアクターを務めていた経験のある唐沢が、自身とも重なる主人公・本城渉を、激しいアクションにも自ら挑戦して演じている。アイドル俳優の一ノ瀬リョウ役で共演する福士蒼汰もまた「仮面ライダーフォーゼ」で主演を務めた特撮出身者。共に実体験と強い思い入れを持つ題材に挑んだ二人が、作品に込めた思いを語った。
過去の自分たちとリンクする役柄
Q:『イン・ザ・ヒーロー』の物語に、率直にどんな感想を持たれましたか?
唐沢寿明(以下、唐沢):かつて自分が経験していた世界の話だったので、ここに出てくる人たち……スーツアクターだけじゃなくて、裏方のスタッフまでみんなの気持ちが僕はよくわかります。役柄というより自分自身を演じるようでした。
福士蒼汰(以下、福士):僕も特撮物に出ることになる俳優の役ということで、「仮面ライダー」の経験がある分、自分とリンクするところが多くて、台本を読んでいてもイメージしやすかったです。
唐沢:さすがに、50歳を過ぎて今またこれをやるのか、というのはちょっと考えましたけどね(笑)。昔を思い出してやればできるだろうとは思ったけど、やっぱりある程度は体を張ってやらなきゃいけないわけじゃないですか。今の自分にその体力があるんだろうか、と。迷いはしなかったけど、この年になってもう一度、宙返りしたり高い所から飛び降りたりするのは、ある意味僕らしいかなと思いました。
Q:主人公の本城渉はまさに、ずっとスーツアクターを続けていたもう一人の唐沢さんを見るようでした。
唐沢:やっぱりスーツアクターの時代があったからこそ今の自分があるわけで、そのことをつくづく思い直しましたね。福士はデビューした年に「仮面ライダー」シリーズの主演をやっているので、初めからスター候補生だったわけです。僕は決してそうではなかったし、別にそこに(俳優として)差があるとは当時から思っていなかったけど、少なくとも、俳優をやり始めた頃の僕にファンレターは来ませんでしたよね(笑)。でも、みんながみんな同じ経験をして俳優として成長していくわけじゃないし、やっぱりあの時代にスーツアクターを経験したことは、僕にとってはよかったんだなと思います。
Q:福士さんが演じた一ノ瀬リョウは、初めのうちは特撮物を「子供向け」だとばかにしているようなキャラクターでしたね。
福士:そこは自分とは違う部分でしたけど、リョウ自身が幼い弟妹を自分が養っていかなきゃいけないんだという、家族を思う気持ちによって突き動かされているところは、自分とも重なるものがありました。リョウは不器用だから、自分が強くないといけない、負けられないという気持ちが先に立って、周りとぶつかってしまう。そんなリョウの心を、本城さんがアクションを通じて解かしていってくれるんだろうなと思って演じていました。「仮面ライダーフォーゼ」の時は、スーツアクターの方と2人で1人のキャラクターを演じているという意識でずっとやっていたんですけど、やっぱり顔が出るのは自分だけじゃないですか。それでもスタントの方たちは、デビューしたばかりのド新人の僕を立ててくださって、アクションのこともいろいろ教えてくれました。本当に感謝しています。
アクションシーンへの挑戦
Q:劇中では当然いろんなアクションシーンが登場しますけれども、かなり実際にご自身で挑戦されたんじゃないですか?
唐沢:まあ、僕は昔やっていたことを同じようにやっていただけですけどね。30年ぶりなのにずいぶん高い所まで連れていくんだな、というのはありましたけど(笑)、今回はスタッフも含めて、スーツアクター時代に現場で一緒だった方たちと再会できたのが楽しかったですね。
福士:僕は殺陣が初体験だったので、劇中と同じように剣の振り方など、唐沢さんからいろいろ教えていただきました。
唐沢:彼(福士)は事務所の後輩だからね。そこはちゃんと教えないと。できていなくても「いいよー」って見守るだけかもしれないけど(笑)。
福士:トランポリンを使った宙返りとか、横にクルクル回りながら吹っ飛ぶ「バタフライツイスト」という技にも挑戦したんですけど、忍者の格好をしているので視野が狭くて、この狭い視界で完璧なアクションをこなすスタントの方たちが、いかにすごいかということも実感しました。
昔できたことができなくなっていた!?
Q:トレーニングはあらためてなさったんですか?
唐沢:筋力トレーニングはしばらくやりましたけど、特に鍛えたというほどではないですね。どうしても昔と同じような感覚でやるとけがしちゃうんで、そこは気を付けよう、と。実際、練習の時には何度もけがしましたから。もうちょっと準備の時間があれば、もっといろいろやりたいこともあったんだけど、若い頃ならできていた技ができなくなっているのが悲しかったですね。やっぱり年取ったんだなと思った(笑)。あとは福士みたいな若い世代に託すよ。
福士:(笑)
Q:福士さんは普段から鍛えていらしたりするんですか?
福士:最近はなかなか時間がなくてできていないんですけど、暇があったらジムに行って、マシンを使ったりランニングしたりはしていました。以前に『図書館戦争』という映画で岡田准一さんと共演させていただいたんですけど、岡田さんも、ものすごいアクションをなさるじゃないですか。
唐沢:(大きくうなずく)
福士:その時に、アクションって面白いんだなとあらためて思って、そこからちょっと僕も格闘技をやってみようかなとか、もっとアクション物に目を向けてみようかなと思っていたところだったんです。ですから今回の撮影は、ちょうど自分の中でアクションの火が付いたタイミングとも合っていました。
俳優として必要なセンス
Q:今回、唐沢さんと和久井映見さん(本城の元妻役)のツーショットを見ていて、何とも言えない感慨がありました。1994年のテレビドラマ『妹よ』で共演されてから、もう20年になるんですね。
唐沢:そうですね。彼女は本当にお芝居がうまくて素晴らしい。何度共演しても、そのたびに彼女に助けてもらった、ありがたいなと思います。今回はアクションばかりがフィーチャーされますけど、本城とリョウの関係も、本城とリョウそれぞれの家族の物語も、非常に見応えのある人間ドラマになっていると思うんですよ。素晴らしい共演者の皆さんのおかげです。
Q:本城とリョウの関係といえば、アクションを通してまさに師弟関係のようになっていくわけですけど、実際のお二人は、現場でお互いどんな印象でしたか?
唐沢:こういう役柄同士だったから、昔の自分を見ているような感じでしたね。姿形はだいぶ違うけど(笑)。福士は今、本当に忙しくて大変だろうけど、僕も若い頃は寝ないで働いて、それでもなんやかんやで乗り切ってきたから大丈夫。そもそも僕が今の福士みたいに大変だった時期は、もうちょっと年くっていた頃だしね(笑)。今は特にいろんなものを背負って生きていかなきゃいけないんだろうけど、ぜひ寝ないで働き続けてください。
福士:わかりました(笑)。
Q:福士さんは、共演されてみて唐沢さんから何を感じましたか?
福士:自分自身で体調管理や、どこまでアクションができるのかを常に考えていらして、やれるものにはどんどん挑戦していく。そこはものすごく刺激になりました。僕も40歳、50歳になった時にそういう男でありたいと思いました。
唐沢:自分の目でいろんなものを見て、盗んでいけばいい。俳優には、何が自分に足りないのかに気付くセンスが必要なんです。あとは自分が調子悪かったり、勝ち負けで言えば負けた時があったとしても、そこで見て見ぬふりをしないこと。負けることは決して悪くないし、負けたことのない人は最終的に勝てないから、いっぱいつまずいて、けがしたほうがいいんですよ。
福士:はい。これから先、どうしても逃げたくなる瞬間もあると思うんですけど、そんな時に今の唐沢さんの言葉を思い出して、自分の糧にできたらいいなと思います。
自身のスーツアクター時代の経験や俳優としての現在の思いを、終始、ジョークも交えながら包み隠さず語る唐沢。事務所の直接の先輩でもあり、年齢もキャリアもはるかに上回るそんな唐沢を前にした、福士の緊張した面持ちと素朴な語り口が印象的だった。迷いや間違いを抱えたまま走ろうとする「若者」をさりげなく正しい道へと導く「師」という構図は、古今のさまざまな物語でも描かれてきたものだが、劇中だけでなく、唐沢と福士の関係も同じなのだろう。
(C) 2014 Team REAL HERO
映画『イン・ザ・ヒーロー』は9月6日より全国公開