『マザー』片岡愛之助&楳図かずお監督 単独インタビュー
予想を裏切るような役にチャレンジしたい
取材・文:くれい響 写真:金井尭子
「まことちゃん」「漂流教室」「おろち」など、独特な世界観の作品で、国内外で高い評価を受ける漫画家・楳図かずおが、77歳(撮影当時)にして初めて映画監督に挑戦した『マザー』。自叙伝の出版が決まったことを機に怪現象に悩まされ、その裏でうごめく亡き母の怨念を知ることになるという自叙伝的なストーリーで楳図を演じる歌舞伎俳優・片岡愛之助と、1995年以降、休筆を続けるホラー漫画のマエストロの異色対談が、ここに実現!!
楳図作品の大ファンだった!
Q:愛之助さんは楳図さんの「まことちゃん」の大ファンだったそうですね。
片岡愛之助(以下、愛之助):はい。その後も、成長していく中で「漂流教室」や「おろち」を読んで、先生の作品にある楽しさだけじゃなく怖さや狂気みたいなものを知っていきましたね。でも、先生、今思うと、当時マネしていた「まことちゃん」に出てくるグワシやサバラのようなポーズって、歌舞伎の見えと同じような意味合いがあると思うんですよ。
楳図かずお監督(以下、監督):グワシのような決めポーズは、ここがシーンの盛り上がりであると同時に、ひと区切りですよ、とハッキリ読み手にわかってもらうような意味合いがありますから。それがないと、見ている方もダラダラしてしまう。歌舞伎から派生した時代劇のチャンバラはもちろんですが、ダンスでもピタッとカッコよくポーズを決めることって大事なんですよ。
Q:愛之助さんが楳図さんのトレードマークである赤白のボーダー柄シャツを着られたときのお気持ちは?
愛之助:私生活ではあまりボーダー柄を着ないので、大丈夫かな? と思っていたんですが、いざ着たら意外としっくりきましたね。パッと見と違って、どこか落ち着くんですよ。それに元禄(歌舞伎)の衣装は派手で原色系が多いですし、これを機に普段からボーダーを着るのもいいかなって。
監督:気持ちもなんとなくハイになるでしょ? 服の色は不思議なもので、着る人の気持ちを変える力もあるんですよね。あと、歌舞伎では白塗りにした顔に、赤で隈(くま)取りを描きますよね。だから、愛之助さんには赤白のボーダーを着て隈取をしてもらいたいですね(笑)。
愛之助:それは飛び抜けて面白いアイデアですね!
赤白ボーダーに隠された秘密とは?
Q:ちなみに、愛之助さんは以前から楳図先生が集められている赤白ボーダーグッズについて、疑問に思われていたことがあったそうで……。
愛之助:そうなんですよ。いつも決まったお店で買われているのか、それともオーダーメイドで作られているのか。それで先生から街で見つけるたびに買われていることをお聞きした後、たまたま入った服屋さんで、ヴィトンの赤白ボーダー柄ストールを見つけたときには、もううれしくて……。すぐに先生にクリスマスプレゼントとして贈らせていただきました。
監督:それだけでもうれしいのに、その箱に描かれた愛之助さんのグワシの絵がとてもうまくてビックリしちゃったんですよ! 今度、その横に愛之助さんのサインも入れていただけないでしょうかね。
Q:劇中での愛之助さんのペンさばきもかなりのものでしたが、楳図監督の演出はどのような感じだったのでしょうか。
愛之助:最初、先生から脚本を読んで感じたままに演じてください、と言っていただいた程度で、その後は特に演技指導みたいなものはありませんでしたね。でも、やっぱりどこか不安なので、先生が普段お話している雰囲気などを研究して、作り上げていきました。それに、先生が描かれた絵コンテがとてもわかりやすくて、それで方向性が見えてきました。現場では先生の画に筆を入れさせていただいたことも光栄でした。
監督:でも、あの絵はコピーですから(笑)。演技に関しては、皆さんプロの役者さんなので、ストーリーの内容さえのみ込んでいただければ、問題ないと思っていました。絵コンテに関しては、わかりやすい絵コンテがあれば、役者さんだけでなく、例えば現場の状況が全然違ったときに、すぐにスタッフさんが作り替えることができるんですよ。あの絵コンテ、ちゃんと愛之助さんに似せて描いたんですよ。
ホラーの現場は笑顔だらけ!
Q:本作はホラーですが、現場の雰囲気はいかがでしたか?
愛之助:先生はこのように明るい方なので、現場でもスタッフ、キャストがみんな和気あいあいとされていて、楽しい環境でした。だから、これでホラー映画になるのかな、と思っていたんですが、観たらビックリするぐらいホラーになっていた、というか完全に楳図ワールドで、うれしかったですね。
監督:それは僕もそうでした(笑)。ホラー映画って完成しないとわからない部分が大きいと思うんですよ。だけど、やっぱり怖いシーンは見せ場なので、どのようにしたら、しっかりお客さんに怖がってもらえるかというところに集中しました。あと、あまり偉そうなことは言えないですが、僕の漫画はこれまでにもほかの監督さんで映像化されていますけど、僕が観て気になったところを修整したというか、同じ失敗はしたくないなと。それから、もっと別の理由もあって、この映画がヒットする自信があるんです!
Q:それは具体的にどういうことでしょうか?
愛之助:最初にお会いする直前に先生が頭にケガされて、入院されてしまったんです。僕もこの話はなくなってしまうかも、と思ったんですが、先生はスゴい回復力で退院された。でも、その手術した箇所は映画でヒロインのさくらがケガする箇所と同じだったんです。それを知って怖くなったのですが、先生いわくこういう現象が起こるときは、必ずヒットするらしいです。
監督:そうなんですよ。だから、この映画をヒットさせて、早く2作目を撮りたい気持ちはありますけれど、慌てませんよ。ゆっくり休んで、もうちょっと体力つけなきゃいけませんね。でも、家でゆっくりしたくはないです。
愛之助:先生、どれだけパワフルなんですか! 今考えても、退院直後の病み上がりから、あんなタイトなスケジュールで、こんなスゴい映画を撮ってしまうなんて、頭が下がります。
二人の異才、あくなきチャレンジ精神!
Q:今年、愛之助さんは仮面ライダーも演じられ、楳図先生も今回あえてオリジナル作品を監督されたわけですが、そんなあくなきチャレンジ精神はどこから来るのでしょうか?
愛之助:この間も三谷幸喜さんから「愛之助さんは普通の作品には出ないんですか?」と聞かれたばかり(笑)。でも、そこにチャレンジさせていただける幸せはありますし、やっぱり役者としてのやりがいもあります。二枚目や王子様的な役ばかりじゃつまらないじゃないですか! それに僕自身、誰もが想像がつくような俳優にはひかれないし、そういう作品は観たくないんですよ。つまり、僕自身も全然違う片岡愛之助を見たいんです。だから今後も喜んで、皆さんの予想を裏切るような役にチャレンジしたいです。
監督:僕の場合、難しいことは全然考えていなくて、プロデューサーさんとお話しているうちに、これまでの作品じゃなくて、新たなオリジナル作品を映画化しよう、という話になっただけなんです。でも、それで良かったと思うんですね。僕が今まで描いた作品を映画化すると、僕が“作品を作る”ことに対して、どこか一歩前に踏み出していない感じがしますから。だから、『マザー』は漫画も映画もひっくるめて、「14歳」以来、僕の約20年ぶりの新作、と胸を張って言えるんです!
テレビドラマ「半沢直樹」出演を機に時の人となった歌舞伎俳優の愛之助と、漫画だけでなくミュージシャンやタレントとしても活躍する楳図。そんなボーダーレスな活動をしている二人のボーダートークには笑いが絶えず、会話の合間に必ず冗談やツッコミを挟んでくる楳図のサービス精神には思わず脱帽! 取材後の写真撮影では、楳図の冗談に対して、愛之助のムチャブリからオネエキャラで知られるまな弟子・片岡愛一郎が乗っかってくるハプニングも!? 今度は違うコラボも見てみたいと思わされた、一筋縄ではいかない二人だった。
(C) 「マザー」製作委員会
映画『マザー』は9月27日より新宿ピカデリーほかにて全国公開