『トワイライト ささらさや』新垣結衣&大泉洋 単独インタビュー
慣れない新米ママぶりが放っておけない
取材・文:編集部 森田真帆 写真:高野広美
加納朋子の小説「ささら さや」を、『神様のカルテ』の深川栄洋監督が映像化。一人で息子を抱える主人公サヤを心配した落語家の夫が、死後も成仏できずにいろいろな人の体に乗り移り、妻と息子を守ろうと奮闘する姿を描く一方、のどかでどこか不思議な町“ささら”の人々や夫の愛に助けられながら、母親として成長していく主人公の姿が温かな感動を呼ぶ。自身初の母親役に挑んだ新垣結衣と、他人の体を借りて彼女を助けようとする夫役の大泉洋が撮影を振り返った。
大泉洋、別れのシーンでは泣き疲れた!
Q:笑える要素もたくさんありましたが、映画のラスト近くは試写室でも泣き声が響いていました。
新垣結衣(以下、新垣):実はわたしが客観的に観て、自分自身が共感する役柄は夫であるユウちゃん(大泉演じるユウタロウ)だったんです。あの人が一生懸命汗をかきながら落語をしている姿を見ているだけですごく涙が出ましたね。撮影のときは自然だったのですが、試写では、ユウタロウが乗り移ったそれぞれの皆さんとサヤが会話をするシーンを観て、「何て変なシーンなんだろう。おかしな景色だなあ」とすごく不思議な気持ちになりました。
大泉洋(以下、大泉):深川(栄洋)監督の映画を観て泣かされることが多いんですが、今回も力を感じさせられました。自分が演じて泣いているシーンを観て、同じタイミングで泣いてしまっている自分が居ました。今回は台本に「涙を流すユウタロウ」とか、「ここで泣いてください」という指示みたいなものは一つもなくて、泣くシーンはなかった。でも撮影になると泣いてしまって、結局一日中泣いていたシーンもありました(笑)。
新垣:最近は働いているお母さんも多いから、そういう女性は父親目線で観られるかもしれないですよね。
大泉:僕には3歳の娘がいますから、撮影のときも、映画を観ているときも父親としてはつらかったですね。この作品が出来上がって一番最初に試写を観た日、家に帰って妻に「健康診断とかちゃんと受けろよ」って言っちゃいました。それで自分の娘には「パパ死なないから」って伝えようとしたんですが、もう寝てました(笑)。
慣れない母親サヤに対する本気のパパらしさ!
Q:大泉さんとの共演、しかも夫婦役というのはいかがでしたか?
新垣:映画の撮影中、自分がサヤを演じているときは、大泉さんが演じているユウタロウがとにかく魅力的でした。だからこそ(ユウタロウが周囲の人に乗り移るシーンで)ほかの俳優さんたちが演じているユウちゃんのことも愛せたと思っていますから、もう大泉さまさまですね!
大泉:新垣さんがサヤを素直に演じてくださっていたので、僕自身も素直にユウタロウという役の思いに入れたんです。サヤが母親として十分に成長したことを悟ったユウタロウが別れを告げるシーンでは、演じていたときも、もう一度映画を観たときも本当に涙が出ましたね。
Q:新垣さんは初めてのお母さん役でしたがいかがでしたか?
新垣:もちろんわたしは母親になったことがないので、何もわからなかったんです。でも新米のママさんたちも最初は何もわからないところから始めるわけだから、上手じゃなくてもいいんじゃないかと思って。
大泉:確かに、初めは慣れない新米ママぶりがすごくよく出ていましてね。だから放っておけないんですよね。自分が幽霊としてサヤを見ているときというのは、常に切ない気持ちでいっぱいでした。あんなに大好きだった奥さんが、見知らぬ土地で、一生懸命子育てをして、慣れないことだらけの中で頑張っているわけじゃないですか。今、新垣さんがおっしゃったように、ユウタロウが亡くなったばかりのサヤというのは、まだ子育てを始めたばかりの新米ママですからね。それを目の当たりにしているにもかかわらず、何もしてあげられないというのはつらかったですねえ。
全員で一人の「ユウタロウ」を作り上げた!
Q:お二人の夫婦ゲンカのシーンがとてもステキでした。
新垣:あ! ここにもいた(笑)。結構こんがらがっちゃう人が多いのですが、実際にちゃぶ台をはさんで夫婦ゲンカをしているところって、相手は大泉さんではないんですよ。
大泉:そうそう。本格的なケンカになる前に僕は富司純子さんと交代しているんですよ。あのシーンについては、結構映画を観た方から「夫婦ゲンカのシーン良かったね!」って言われるんですけど、僕はそのシーンには実は参加していないという(笑)。
新垣:でもたぶん観客の方も、ユウタロウとして観ているからごちゃごちゃになっちゃうんですよね。
大泉:そう。大泉洋と新垣結衣が演じる夫婦ゲンカ、じゃなくて、ユウタロウとサヤが夫婦ゲンカしているってふうに観てくれているってことなんだよね。でも富司さんや、中村蒼くんに僕の演技を観てもらってまねしていただくためのビデオを撮影しているので、そのシーンを演じた記憶もあるから、こっちまでややこしくなってくる(笑)。
新垣:中村くんのシーンも結構そういうところがあって。いつもみたいに夫婦ゲンカをしているときは中村くん相手なんですけど、ケンカがすぱって止まったときに、サヤには完全にユウタロウに見え始めて、大泉さんが交代で出てくる。
大泉:そうだったよね。僕は夫婦ゲンカが治まったときに、すっと交代して抱き締めるだけなんです。でもあのシーンおかしくてね! リハーサルでは、途中から僕に交代するはずだったんですけど、監督がカットをかけ損ねたのか、ずっと蒼くんが演じ続けていて、「あれ?」って(笑)。僕がサヤを抱き締めるはずが、気が付いたら蒼くんがサヤを抱き締めていて。「えっ、そこは僕だよね!」って思いながら観ていたんです。「あれ? 一番大事なとこやっちゃってる?? そこ僕だよ。代わってくれる?」って(笑)。本番はかなり長い時間をかけて撮ったからもう泣き疲れました。
新垣:そうですね。あのシーンは本当に丁寧に撮影したという印象があります。撮影中に監督からアイデアが生まれて、それを採用して撮影したら、また切なさがグンと増したんです。時間をかけて撮っただけあったなって思うんですよね。だから一番印象に残っているシーンでもあります。あの乗り移りをどんなふうに見せるかというのは、最後までずっと試行錯誤を繰り返していた感じですよね。わたし自身、富司さんや中村くんに大泉さんの影をすごく感じていました。だから、お客さんがどこからどこまでが洋さんなんだっけ? ってなっちゃうのはちょっとうれしい。
大泉:僕はそんなに出演シーンが多くないはずなのにずっと出演していた感じがするんです(笑)。それは本当に皆さんの努力の成果だなって思いますね。僕は皆さんのシーンをリハーサルで演じて、新垣さんもそのリハーサルで僕にも役者の皆さんにも付き合ってくださったし、役者の皆さんもビデオを観て僕の特徴をちゃんと勉強してくださった。全員で一人の「ユウタロウ」として見えているってことは、役者全員のチームワークの成果だなって思いますね。
新垣結衣と大泉洋、年の差もあって夫婦役に驚きの声も上がりそうだが、一緒に立っているだけで「夫婦」と瞬時に納得してしまうほどお似合いの二人。インタビューでも、写真撮影のときに大泉が新垣を大笑いさせるなど仲の良さがうかがえた。
映画『トワイライト ささらさや』は11月8日(土)より全国公開