『ブルックリンの恋人たち』アン・ハサウェイ 単独インタビュー
夫婦2人で手掛けた主演&初プロデュース作
取材・文:細谷佳史
ハリウッド超大作『インターステラー』に続くアン・ハサウェイの新作は、それとは真逆の低予算インディーズ作品『ブルックリンの恋人たち』。音楽を通して、偶然に出会った二人の恋を甘く切なく描いたラブストーリーだ。監督と脚本は、『プラダを着た悪魔』で監督アシスタントを務めていたケイト・バーカー・フロイランド。夫のアダム・シュルマンと共に、初プロデュースを手掛け、主演も務めたアンが今作への思いを語った。
作品の大小は関係ない
Q:大作だけでなく、こういった規模の小さい作品に出演することも大事にしているのですか?
映画を選ぶときに作品のサイズのことを考えたりしないわ。脚本にどのくらい惹(ひ)き付けられるかが大事なの。『インターステラー』の脚本を読んだときは、その中で描かれている人生やスピリチュアルな部分に震えるものを感じた。この作品はそれとはまったく違うスケールで、違う目的を持った作品だけど、同じように惹(ひ)き付けられるものを感じたの。
Q:この脚本のどういった部分に、特に惹(ひ)き付けられたのですか?
これまでわたしが映画の中で見たことのない人生の瞬間を扱っていることね。途方に暮れたときに、見知らぬ人だけが助けになるという経験を描いているの。それと音楽が心を癒やしてくれるということね。そういうのはとても陳腐に聞こえるかもしれないけど、この映画の中では決して陳腐には感じられないわ。
Q:どうやってこの脚本を見つけたのですか?
(製作の)ジョナサン・デミがこの脚本をわたしの夫に送ってきたの。彼は、この作品の監督、脚本家であるケイトと数年間にわたって、この脚本を練っていたわ。そして脚本が仕上がったとき、わたしたちにこの作品をプロデュースしないかと持ち掛けてきたの。
Q:つまり最初は、あなたはこの作品に出演する予定ではなかったということですか?
出演の話はもう少し後で出てきたことなの。わたしたちは最初プロデューサーとして参加する予定だったの。でもその後、自分がフラニーのキャラクターにほれ込んでいることに気付いて、ケイトに『わたしがこの役を演じてもいいかしら?』って聞いたの。なぜなら、この役はもともと24歳として書かれていたからよ。ありがたいことに彼女はこの役をわたしのために少し年上の役として書き直してくれたわ。
Q:ジョナサン・デミはなぜ、あなたたちに脚本を送ってきたのですか?
彼は『レイチェルの結婚』を監督したし、わたしと夫の親しい友人で、わたしの先生の一人でもあるの。わたしたちは以前、彼と映画のプロデュースについて話したことがあって、それで彼は(プロデューサーとして)わたしたちがこの作品に興味を持つかもしれないと思ったみたい。
新しい家族ができた撮影現場
Q:演技がとても自然に感じましたが、アドリブも多かったのでしょうか?
アドリブはまったくしなかった。少し言いやすいようにセリフを調整することはあったけど、全ては脚本にあったものよ。
Q:あなたが歌う部分もそうなんですか?
そうなの。あそこは即興でやったように感じさせたかった。撮影前にそういった部分をかなり準備したわ。実際自分が書いた歌詞でとても誇りに感じているものもあったの。でもケイトは、そういう歌詞はフラニーとは違う感じがすると言って、カットしてしまったわ(笑)。
Q:あなたの相手役を務めたジョニー・フリンとの仕事について聞かせてください。彼は本物のミュージシャンなんですよね?
そうなの。そして役者でもあるの。わたしたちは、彼が送ってきたオーディションテープを見て、彼に興味を持ったわ。でも、わたしたちが彼と会えるのは、ちょうどわたしたちのハネムーンの間だけだった。それでわたしと夫とケイトはロンドンに飛んで、ハネムーンの最初の数日間を一緒に過ごしたわけ。そして、彼が「十二夜」のヴァイオラを舞台で演じるのを見て、オーディションをして彼に決めたの。
Q:撮影現場の様子はいかがでしたか?
映画の現場を離れるときに、一人でも新しい友達ができたらラッキーなの。でもこの映画では、新しい家族ができたという感じだった。わたしは映画に関わっている全ての人たちと親しくなったわ。誰もがとてもオープンで、情熱にあふれていた。この作品ができたのは、みんながそういった態度で、毎日仕事をしたからなの。現場は音楽にあふれていて、テイクの間に歌を歌ったり、新しい曲を覚えたり、ジョニーからギターの弾き方を教えてもらったりしていた。わたしはウクレレを手に入れて、彼がその弾き方を教えてくれたの。真夏のブルックリンでの撮影だったけど、とてもスペシャルな体験だったわ。
『プラダを着た悪魔』続編の可能性は
Q:監督のケイトとの仕事はどうでしたか? 『プラダを着た悪魔』のときに、初めて出会ったんですね?
そうなの。その作品で知り合ったんだけど、その後、何年も会っていなかった。でも共通の友人がいて、その人を通して、彼女が何をしているかは何となく聞いていたの。それでジョナサンがこの脚本を送ってきたときに、そこに彼女の名前を見つけて興奮したの。『プラダ』のときは、まだそんなに彼女のことをよく知らなかったけど、この作品で彼女のことをとてもよく知ることになったわ。彼女は人間的に素晴らしい人で、お互いすごく気が合ったの。
Q:『プラダを着た悪魔』の続編となる「Revenge Wears Prada: The Devil Returns」という本が出ていますが、その続編が、あなたたちの次回作になるという可能性はありますか?
ケイトはもう監督のアシスタントは卒業したと思うし、誰もわたしに(主人公の)アンディ・サックスをまた演じてほしいと頼んできていないから、その作品は期待しないで。でもだからといって、ないとは限らないけどね。
Q:この映画のどんなところを、日本のファンに楽しんでもらいたいですか?
感傷的になり過ぎずに優しさが感じられる映画というのは、実はあまりないと思うの。この作品を健全な映画というわけじゃないけど、ものすごくたくさんのハートが詰まっているわ。本当に誠実な作品なの。人々が皮肉なものを評価することが多い時代においてね。わたしがこの映画に惹(ひ)かれたことの一つは、とても誠実に感じられ、気取っていない点だった。これは、そういったことが期待できる作品なの。
「映画の中で歌を歌うのは好き」というアンが、アカデミー賞助演女優賞に輝いた『レ・ミゼラブル』に続いて、本作の中でも少しだけ歌声を披露している。お互いに惹(ひ)かれ合うフラニーとジェイムズが、夜のブルックリンから、エンパイア・ステート・ビルを眺めながら歌を口ずさむシーンは大きな見どころだ。音楽デュオ、ジェニー・アンド・ジョニーが手掛けたオリジナルソングや、ロックバンド・アメリカの「I Need You」など、全編を通して素晴らしい音楽が胸を打つ。作り手たちの、音楽とニューヨーク、家族と恋人に対する愛にあふれた必見のラブストーリーになっている。
写真:Retna / Abaca USA / アフロ
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映画『ブルックリンの恋人たち』は3月13日より全国公開