『恋する・ヴァンパイア』桐谷美玲 単独インタビュー
「世界で最も美しい顔」8位の実感はなし
取材・文:大小田真 写真:尾鷲陽介
桐谷美玲が演じるヴァンパイアのキイラは、「世界一のパン職人になる」という夢を抱くごくごく普通の女の子。幼なじみ・哲(戸塚祥太)への思いに胸を焦がす彼女の姿に、思わずキュン! となってしまう人は多いはずだ。原作・脚本を兼任した鈴木舞監督が構築したポップな世界観の中で、従来にないヴァンパイア像を作り出した桐谷が撮影を振り返った。
人間じゃなくなるのは一瞬だけ
Q:まずは率直に、ヴァンパイアを演じた感想を教えてください。
キイラはほとんど人間なんです。哲くんのことが好き過ぎて、その思いが高まると「血を吸いたい!」という本能に駆られてしまうだけなんです。劇中で何度かそういうシーンがあって、その瞬間、キイラの瞳がパープルに変わり、キバが生えてきちゃう(笑)。ヴァンパイア的な欲求が前面に出るそのシーンについては、監督から「とにかくガーッ! と行って」という指導がありました。そこは思い切って演じています。ただ、逆に言えば、それ以外の部分は本当に普通の女の子なんです。
Q:では、役づくりで苦労した点は特になかったのでしょうか?
そうですね。瞳の色はCG処理ですし、キバはちゃんと型取りをしてフィットするものを作っていただきました。強いて言えば、キバを付けるとやっぱり自分の歯よりは厚みが出るので、どうしてもモゴモゴとしかしゃべれなくなっちゃうんです。大変だったのはそこだけかな? キャラクターとして特に個性が強いというわけでもないですし、年齢的にもいわゆる等身大の女性でOKでした。誰にでもコンプレックスってあると思いますが、キイラの場合は、それがちょっとヴァンパイア的なだけなんです(笑)。
Q:確かに従来のヴァンパイア映画に比べて登場人物の性格や映像そのものが明るいですね。
キイラのおじいちゃん(柄本明)が開発した「アンチアンチエイジング」という薬の効果もありますね。人間と同じように年も取るし、日光に当たっても大丈夫なんですよ。普通に働き恋に悩みながら、爽やかな日差しの中を笑顔で歩いたりできる。ですから、ポップな恋愛映画みたいな映像になっています。後半になるとダークなシーンもありますけど、メインのシーンはほとんど昼間で、全体的に怖くなくてかわいい。そんなヴァンパイア映画、観たことないですよね。
国際色豊かなキャスト陣との共演
Q:今作ではアジア各国の俳優と共演されていますが、現場での様子を教えてください。
キイラと一緒にパン屋で働く留学生役のモン・ガンルーちゃんは、本当にかわいいんですよ。撮影を重ねるたびにどんどん日本語を覚えてくれて、現場のムードメーカー的存在でした。セリフの中に出てくる単語を使って、一生懸命しゃべってくれたり、覚えた日本語で遊んだり。とにかく人懐っこくて愛嬌(あいきょう)たっぷりで、役のまんまって感じでした。劇中でわたしが中国語を使うシーンがあるのですが、「これでOK?」ってセリフを確認してもらったり、大学の中国語のテスト勉強に協力してもらったこともありました(笑)。彼女は基本的に台湾で活動しているのでなかなか会えないんですけど、「I miss you!」ってメールでのやりとりは続いています。
Q:韓国のチェ・ジニョクさんと香港のイーキン・チェンさんの印象は?
ジニョクさんは敵対するヴァンパイアの役で出演されています。撮影中、スタッフさんから「ジニョクさんはすっごい体をしている!」って聞いたんです。それで、失礼とは思いながらも「ちょっと筋肉を触らせてください」ってお願いしました。おなかのあたりだったんですけど、すごかったですね。服の上からでも十分わかるぐらいの腹筋でした。チェンさんはヴァンパイアのボス役で、キイラの両親の敵でもあります。簡単に言えば、この作品の中で一番の「悪」なんですよ。でも、ご本人はものすごくジェントルマン。ヴァンパイアを演じているときの険しい表情と、オフの柔らかい笑顔とのギャップが魅力的でした。
Q:哲役の戸塚さん、キイラのおば夫婦役の大塚寧々さん、田辺誠一さんとはどんなコミュニケーションを取られましたか?
撮影がちょうどワールドカップの開催期間と重なっていたんです。戸塚さんとは、カットがかかるたびに試合の途中経過を一緒にチェックしていました。寧々さんと田辺さんは実生活でもご夫婦でありながら、役の上でも夫婦という設定でした。田辺さんとは何度も共演させていただいていますが、寧々さんとのリアル夫婦ぶりを目の当たりにできたのは貴重でしたね。撮影中に何度か「この場面、どうしようか」ってお二人で相談していたんですよ。もう、本当にほほ笑ましくて(笑)。
海外進出の野望はなし?
Q:少し前にアメリカの映画サイトが毎年発表する「世界で最も美しい顔100人」の第8位に選ばれたことが話題になりましたが、どんなお気持ちですか?
とても光栄なんですけど、率直に言えば『どうしてわたしが?』って感じです(苦笑)。何て言うんでしょう……。誰が、どういう基準で選んでくださったのかもわからないですし。本当にありがたいことですけど、正直、実感がないんですよね……。
Q:北京で演劇を学んだ鈴木監督の作品で、外国人キャストとの共演を経験した今、海外進出の夢も膨らんだのでは?
いえ、全然ないです! ストレート過ぎる答えでごめんなさい(笑)。海外の作品に出演するということは、当然、外国語を使って演技するわけですよね。それだけでも大変なのに、わたし、かなり人見知りなんです。仕事の経験としてはもちろん貴重なものになるはずですが、現時点では積極的に海外で活動したいという思いはありません。
Q:ちなみに、大学で学んだ中国語はセリフに生かされましたか?
どうでしょう……。セリフの内容としては「両親の敵!」みたいなものが多くて、あまり学校で勉強した種類の言葉じゃなかったので(笑)。ただ、言語指導の先生に「初心者にしては、発音がいいですよ」って褒めていただけたのはうれしかったです。モンちゃんの協力もあってのことです。
Q:最後に今作の見どころと今後の目標を教えてください。
キイラの心の動きに注目ですね。切なくなったり、キュンキュンしたり、また切なくなったり。鈴木監督の世界観は細部まで徹底されていて、美術や音楽も含めてかわいい作品として仕上がっています。一見、女性向きに思えるかもしれませんが、キイラや哲くんの真っすぐな気持ちは男性にも理解してもらえるはず。ヴァンパイア物ですが、とてもストレートな純愛映画だと思って観てください。個人的には、大学を卒業して25歳になった今、純愛物以外にもいろいろな作品や役と出会いたいですね。お母さん役とかもそろそろあるのかなあ。年齢的に役の幅が広くなってきたことは、率直にうれしく感じています。
「人見知りなんです」と話しながらも、外国人キャストとしっかり交流しながら女優としてさらに前進した桐谷。初監督作となった本作で彼女を起用した鈴木監督は「意思が強く、頭がいい方です。わたしの言葉足らずな演出でも、すごくスムーズに対応してくださいました」と評価している。映画を観ればそんな桐谷が演じるキュートなヴァンパイアに誰もがときめくだろう。
(C) 2015『恋する・ヴァンパイア』フィルムパートナーズ
映画『恋する・ヴァンパイア』は4月17日より全国公開