『夫婦フーフー日記』佐々木蔵之介&永作博美 単独インタビュー
見ているだけでほほ笑ましい、最高のカップル
取材・文:高山亜紀 写真:高野広美
17年間友達だった二人が結婚した途端、妊娠、そしてヨメのガンが発覚。その後、彼女は死んだものの何事もなかったようにダンナの前に現れる。実在の闘病ブログから生まれた映画は、まさかの泣けるコメディー。まるでボケとツッコミの漫才コンビのようにぴったりの息で夫婦を演じたのは、佐々木蔵之介と永作博美。10年ぶりに夫婦役で再共演を果たした二人が、怒涛(どとう)のように進んだという、一風変わった本作の製作過程を明かした。
20年前から変わらぬかわいさの永作ミラクル
Q:10年ぶりの夫婦共演はいかがでしたか。
永作博美(以下、永作):そんなにすごく変わった様子はなかったですね。久しぶりにお会いして、相変わらず男らしくて、男気のある佐々木さんだと思いました。
佐々木蔵之介(以下、佐々木):僕の印象も変わらないですね。永作さんはribbonのときから、ずっとかわいいまま。20年も前ですけど(笑)。僕がまだ関西にいたころ、「ribbonが劇団☆新感線に出るぞ」って小劇場の裏では話題になっていたんです。
永作:それは知らなかった(笑)。面白い話ですね。
佐々木:「あの扇町ミュージアムスクエアの屋上で、稽古しているんだよ」「マジか!? あんな連中の中に放り込んで、大丈夫なのか」みたいに僕らは言っていたんです。あのころから、まったく変わらない。その間ずっと、舞台を務めてきていらっしゃるから、今回も事前に何か特に打ち合わせするわけでもなく、本当にその場で芝居を作っていけました。
Q:夫婦漫才のように息が合っていましたが、打ち合わせはしなかったんですか。
永作:お芝居について、お話しすることは特になかったですね。それが佐々木さんのやり方なんだろうと思ったし、わたしも「まず、やってみましょうか」という方が、どちらかというと好み。二人の嗜好(しこう)だからか、「せーの」でやることに違和感はなかったです。
佐々木:そうですね。やってみて、「あ、ヨメはそうくるのか」というのを楽しみながら、そのシーンの最終的な着地点みたいなところを目指していく。リハーサルをすることもあれば、本番一発のときもあって、撮影を重ねて、変わっていくこともありました。結局、最後は監督に委ねていました。現場は監督を頼りにどんどん進んでいきました。怒涛(どとう)のような勢いで3週間が過ぎていった気がします。闘病物ではありますが、つらさばかりじゃなく、笑いもあったので、へこんでもいられない。だから、永作さんはしんどかったと思いますよ。病気の役を演じるだけじゃなく、気分を上げていなくてはならなかったから。
永作:監督にしっかりしたビジョンがあったので、OKが出るまで、わたしたちはそこを求め続けるしかなかったです。それはどこの現場も変わらないですね。
佐々木のイクメンぶりに永作が太鼓判
Q:闘病シーンはそれまでのトーンとはがらりと変わりますが、どのように役づくりをしていったのですか。
永作:なるべく時系列に沿って撮影していたのですが、3週間の撮影の中には現在と過去が混在している箇所もあったんですね。自分では、あとから出てきたときに、病の影が見えるのは嫌だったので、完全にやせることはできませんでした。それでも両方成立させたくて、闘病シーンはとにかくフラットな状態で、そう見えればいいと思っていました。意図的な悲しいシーンにしないように、気分を上げることを意識して。監督もずっと「上げて、上げて」と言っていたし、ゆっくり丁寧に見せる手法の作品ではないので、リアルな時間が過ぎていく感じを大事にしたかったんです。
Q:「過去の二人を見ている現在の二人」という構図がユニークでしたが、時系列に沿って、撮影していたんですね。
永作:取りあえず、バーッと過去を撮って、それをベースにして、スタジオで現在の二人を一気に撮っていきました。だから現場で撮っているときは、終わると必ず「動かないで」って言われて、測量して、位置を全部、数字で起こしながら、1シーン1シーンを終えていく。かなり細かい作業をしていました。後から俯瞰(ふかん)で見ている二人以外に関しては、割と順撮りに近い形です。
佐々木:過去の分を撮り切って、現在を撮るという手法が良かったのだと思います。どっちも一気に撮ったら、かえって大変だったろうし、やっていたことを客観的には見られなかったと思うんです。二人の関係を二人が客観視しているところが、この映画の醍醐味(だいごみ)でもある。思っていても言えなかったことを二人で俯瞰(ふかん)で見ながら、「そうだったのか」と気付くこともある。台本を読んだときはどう表現するのかと思っていたんですが、監督が実に見事に一本の作品にしてくださいました。
Q:そう聞くと、佐々木さんの赤ちゃんの抱き方がだんだん慣れていったのも、納得できます。
佐々木:実は息子のペ~は3代いるんですが、知らないおっちゃんに抱かれている感じにならないように、現場に入ったら、必ずぺ~と話したり、スキンシップをするように心掛けていました。そのうちの一人の赤ちゃんは、前に仕事でご一緒したカメラマンアシスタントのお子さんだったんです。ずっと一緒に撮影していた仲間のお子さんだったので、ちょっと遠い親戚のおじさんのような感覚で対応しようかな、と。もちろん、そんなおじさんの言うことをペ~は聞いてはくれないわけなんですけど(苦笑)。でも、たまにすごくいい笑顔を見せてくれると、現場はものすごく幸せな空気に包まれましたね。そういうときはダンナと同じ気持ちになりました、「この笑顔に救われる」って。
Q:永作さんは何かアドバイスしたんですか。
永作:いえいえ、わたしがアドバイスするようなことはなかったです。最初からあまり怖がらずに抱いていらっしゃるから、すごいなという印象でした。男性の方って、慣れていないと触るのが怖い方がいるじゃないですか。特に乳幼児に対して。でも、佐々木さんは何の問題もなかったです。
佐々木:そういうのって子供はすぐわかるから、怖がらないように、気を付けていました。
Q:イクメンの練習になりましたか。
佐々木:いやあ、育児って大変ですよ。僕は映画の中だけですけど、子供が泣いて、ミルクを持って行ったら、ミルクじゃない。一体なんで泣いているのか、わからない。赤ちゃんは僕らとはまったく違うサイクルで生きているんですから、当然ですよね。劇中ではおじいちゃん、おばあちゃんや友達がダンナをサポートしてくれますが、現実問題、周りの人の支えがいかに必要か、考えさせられました。
男性は女性にリードされたがっている!?
Q:周囲の人にとても愛されているヨメとダンナですが、二人にはどう映りましたか。
永作:いつも笑い声が絶えず、きちんと言いたいことを言い合う。常にダンナを後押しするヨメと、それに応えようとするダンナ。見ているだけで、ほほ笑んでしまう。ステキだなと思います。ヨメは自分が思ったことにまい進していった人だと思うんです。ダンナの才能も彼女ははっきりと理解していて、彼を押せるのは自分しかいないと思ったんでしょうね。
佐々木:17年間ずっと友達でいて、隙あらば後ろを向こうとするダンナをヨメはリードして引っ張っていく。が、いざ結婚してみると、ダンナは意外にもヨメからの言葉をかわしつつ返すという技を身に付けだす。そして、お互いなんやかんやボケたり、ツッコんだりしながら、本当に笑いの絶えない関係を築いていく。相手とわかり合えているから、べったりではなく、ちょっと引いて見ている。思っていることを察し合っている感じが美しくもあり、後から見ると切なくもあり。最高にステキなカップルだなと思いましたね。
Q:男性は女性にリードされた方が楽という方もいますが、男性から見たらどうでしょう?
佐々木:自分のことをわかってくれているからこそだと思うんです。私利私欲のためでなく、あなたのため、わたしたちの関係のため、将来のため、そして子供のために、あなたを引っ張っていきますということだと思うから、そういう女性は全面的に信頼できますよね。委ねたいと思うし、そういう方のほうが言い方は悪いですけど、楽チンです(笑)。
変わらぬ美しさが話題の永作だが、なんと20年も前から変わらなかったとは! そして、いつも男らしい佐々木。劇中ではちょっと頼りないダンナを演じ、ノリツッコミ上等のさすがのコメディーセンスを見せる。もちろん、サエないダンナを叱咤(しった)激励するのは、強くてかわいい永作ヨメ。言いたいことを言い、笑いが絶えず、ケンカをしても互いのため。二人がつくり上げた理想の夫婦像は、きっと誰の目にもステキな二人に映るに違いない。
【佐々木蔵之介】
ヘアメイク:白石義人(ima.)
スタイリスト:勝見宜人(Koa Hole inc.)
【永作博美】
ヘアメイク:市川土筆
スタイリスト:古牧ゆかり
(C) 2015 川崎フーフ・小学館/「夫婦フーフー日記」製作委員会
映画『夫婦フーフー日記』は5月30日より全国公開