『新宿スワン』綾野剛&沢尻エリカ&伊勢谷友介 単独インタビュー
歌舞伎町の「裏の世界」を垣間見た
取材・文:斉藤博昭 写真:平岩亨
原作は和久井健の人気漫画で、監督は、『ラブ&ピース』『リアル鬼ごっこ』『映画 みんな!エスパーだよ!』など新作が続々控える園子温。新宿・歌舞伎町を舞台に、スカウトマンたちの戦いを描いた『新宿スワン』は、キャストたちのイメージを一新する熱演も話題だ。スカウトマンとしてのし上がる主人公・白鳥龍彦役に金髪姿で挑んだ綾野剛、風俗嬢アゲハを体当たりで演じた沢尻エリカ、そして龍彦の先輩格、真虎(まこ)役をクールに演じた伊勢谷友介。過酷なアクションもあったという撮影現場での化学反応を三人が振り返った。
『ヘルタースケルター』の沢尻エリカはコワかった!?
Q:歌舞伎町のスカウトマンや風俗嬢を演じる上で、どのような思いで撮影現場に入ったのか、聞かせてください。
綾野剛(以下、綾野):もちろん原作からの情報も受けつつ、自分の中の「リミッター」を外した状態で龍彦を演じました。思い付いたことを、惜しまず表現する感じでしょうか。そのシーン、そのシーンに、集中して取り組みました。
伊勢谷友介(以下、伊勢谷):綾野くんが「龍彦らしいな」と思ったのは、現場の空気感を作っていた点ですね。最初は役に自分の性格を寄せているのかと思って眺めていました。でも実は、素顔もそうなんだと発覚して(笑)。龍彦みたいに陽気な部分もあって、素の自分を出していたという感じだったよね。
沢尻エリカ(以下、沢尻):そうそう(笑)。綾野くんとは以前、『ヘルタースケルター』で共演したんですけど、わたしは役に入り込むタイプなので、そのときは綾野くんとは現場でしゃべった記憶もなくて(笑)。
綾野:あのときのエリカは怖かった。
伊勢谷:それは確かに戸惑う状況だね(笑)。
綾野:でも『ヘルター~』で僕が演じたのは戸惑う役だったので、あれはあれで良かったんです。あのときからエリカは、役に入り切る女優で、作品と真っすぐ向き合う人だと思っていました。
沢尻:今回、わたしが演じたアゲハは「龍彦が全て」なキャラクターなので、現場に行くのが楽しかったです。役の関係が違うと、ここまで気分も変わるんだと実感しました。龍彦のキャラが、わたしの緊張も解きほぐしてくれたんです。
綾野、下着姿で街を疾走した沢尻の女優魂を絶賛
Q:伊勢谷さん、沢尻さんは、それぞれ役へのアプローチをどのように行いましたか?
伊勢谷:真虎は一見、軽くてフラットな感じだけど、ベースには黒い部分もあるキャラクターです。ただ、映画ではその黒い部分までは見せていないので、ある種、軽さを表現しました。例えば、原作に龍彦が騒動を起こしているのを見て、目が点になっている描写があったりして、そういうところも意識しましたね。
沢尻:わたしは今回、特に役づくりはしていないです。現場に入って、その空気感に合わせようと思いました。原作のイメージを膨らませた部分もありましたが、特にアゲハのピュアな気持ちを大切に演じようと意識しました。
Q:沢尻さんは歌舞伎町の路上をはだしで走るといった過酷なシーンもありましたが……。
綾野:「足、危ない」とか一切、気にしていなかったよね。
沢尻:全然オッケーです。まさかランジェリー姿で走ることになるとは思っていなかったけど(笑)。
綾野:あの根性は、スゴかったな。
Q:足の裏は大丈夫だったんですか?
沢尻:全然、大丈夫。
綾野:それもびっくりだよね。
沢尻:普段からわたし、気付いたらはだしで過ごしていることが多いからかな(笑)。
園監督は夜になると豹変する!?
Q:綾野さんは激しい乱闘シーンが何度もありましたね。
伊勢谷:横で見ていても、かなり激しかったよね。でも心配して声を掛けると「いや、こういうの好きなんですよ。ヤバい瞬間もあるけど、やっていて楽しいんで」なんて言っていたから安心した(笑)。
沢尻:わたしは見ていて、かなりヒヤヒヤしたけど……。
綾野:確かに何度か危険を感じることはありましたけど、実は一番冷静に芝居をしているのが、アクションシーンだったかも。力の加減を考えて、ギリギリで判断する。壁に頭をぶつけるシーンなんて、「オデコからいくと割れる可能性がある」と瞬時に考えて、向きを変えたりしました。軽い脳しんとうが起こったくらいですね。
沢尻:服で見えなかったけど、青アザだらけだったよね? あまりに壮絶過ぎて、「そこまでやる?」と軽く引いちゃったぐらい……(笑)。
Q:園子温監督の撮影現場は特殊なんでしょうか?
伊勢谷:監督が街で出会ったキャバ嬢を起用したり、どんどん変更もあって、それに僕ら役者も対応する。そんな刺激的な現場でしたね。
綾野:園さんは役者への愛がものすごく深いんです。チャーミングで純粋な人でした。
沢尻:昼間はシャイだけど、夜になると性格が変わる(笑)。監督もピュアだから、わたしも自分をさらけ出して演じられた気がします。
現在のスカウトはLINEが主流?
Q:本作に出演して、歌舞伎町や、そこに生きる人々のイメージは変わりましたか?
伊勢谷:歌舞伎町の怖さは実感できたかも(笑)。こんな裏の世界があるんだと……。
沢尻:このようなハードな世界ってあるんだなってリアルに感じました。
綾野:僕は歌舞伎町を肯定も否定もしたくない。街自体をどうこう判断するより、そこに生きる人々と接することが圧倒的に大事だと、今回あらためて気付きました。
Q:ただ、現在の歌舞伎町はどんどん変化を遂げています。
綾野:今はLINEでスカウトする時代らしいです。直接本人と会わず、紹介するだけで稼いでいる人もいるとか。
伊勢谷:この映画みたいに男同士が表立ってケンカする光景が消えただけ、という気もします。社会には、ルールにのっとって形成されている部分と、その逆も存在する。全員がルールに従う社会で生きられるわけじゃないし、その状況で、龍彦みたいに「誰かを幸せにしたい」というモチベーションで生きている人間もいるんですよね。
Q:最後に、完成作を観た印象を聞かせてください。
沢尻:とにかく、びっくりしました。原作の漫画から飛び出してきたみたいに、皆さん役に成り切っていましたから。
伊勢谷:幅広い層に届きそうな作品に仕上がっていると思います。
沢尻:男女共に楽しめる作品だと思います。
伊勢谷:全く違う世界に生きている人も、裏の世界で頑張っている龍彦から「それぞれの世界で諦めるな」とエールを送られるんじゃないかな。
綾野:この世界を生きているカッコいい男と、カッコいい女を、ぜひ目撃してほしいです。
それぞれの役に体当たりで挑んだ三人は、園子温監督の撮影現場を心から楽しんだようだ。誰かに話を向けると、他の二人がすぐにその言葉に反応するなど、「何でも言い合える」関係が築かれていることがしっかりと伝わってくる。この最高のチームワークは、もちろん完成した作品の中で、絶妙な共演シーンとして刻印されている。
【綾野剛】
スタイリスト:長瀬哲朗/ヘアメイク:井村曜子
【沢尻エリカ】
スタイリスト:関志保美/ヘアメイク:冨沢ノボル
【伊勢谷友介】
スタイリスト:葛西信博/ヘアメイク:ShinYa(プライマル)
映画『新宿スワン』は5月30日よりTOHOシネマズ新宿ほかにて全国公開