『予告犯』戸田恵梨香&鈴木亮平 単独インタビュー
自分の人生は、きちんとジャッジしなければいけない
取材・文:斉藤由紀子 写真:金井尭子
筒井哲也の同名漫画を、生田斗真主演で映画化した『予告犯』。新聞紙のマスクをかぶり、動画投稿サイトで犯罪予告をするグループ「シンブンシ」と、警視庁サイバー犯罪対策課との頭脳戦を、映画『ゴールデンスランバー』『白ゆき姫殺人事件』などの中村義洋監督がスリリングに描き出す。事件を追うエリート刑事・吉野を演じた戸田恵梨香と、シンブンシのメンバー・カンサイにふんした鈴木亮平が、作品への思いや撮影時のエピソードをフランクに語り合った。
戸田はサスペンス担当、鈴木は人間ドラマ担当
Q:本格的なサスペンスかと思っていたら、青春ムービーでもあって驚きました。
戸田恵梨香(以下、戸田):わたしも完成版を観てビックリしたんです。犯人側の心情を伝える回想シーンが多くて、改めてただの犯罪物ではないのだと感じました。
鈴木亮平(以下、鈴木):戸田さんはサスペンスブロック担当だからね。僕は逆に人間ドラマとして演じていたので、「こんなにサスペンスタッチなんだ!」って思いました。サスペンスからテイストがガラッと変わり、最後にさらなるツイストがあるのが面白かったですね。
Q:演じるにあたって、原作漫画は参考にされましたか?
鈴木:僕は、漫画が原作の作品に出演することが多いんですけど、たいてい1回だけ読みます。そして、読後感を忠実に再現したいと思っているんです。そのまんまというよりも、イメージを大事にしますね。そこさえ合っていれば、原作ファンの人も納得してくれる気がするんです。
戸田:わたしも原作に沿って役をつくっていくことが多いんですけど、今回監督は原作と違う吉野を求めていて、最初は少し戸惑いましたが、撮影の中で監督と話しながら吉野をつくっていきました。
鈴木が唱える「生田斗真・最強男説」とは!?
Q:中村監督の撮影現場はいかがでしたか?
戸田:現場のインスピレーションを大事にしている方なのかなと思いました。前もって決め込んでいるというよりは、画(え)を撮ってみて感じたことを、演出として受け入れていらっしゃるように感じました。
鈴木:監督がシンブンシのメンバー(生田斗真、濱田岳、荒川良々)が一緒にいるときの空気感を大事にされていて、アドリブを入れてほしいと言われることが結構ありました。基本的に、周りの人たちのことを感じて演じる俳優ばかりだったのですが、荒川さんが予測不可能なものをボンと投げてくださったので、僕らも乗っかっていきやすかったですね。アドリブの前にキーワードだけ決めておくなど、監督がうまく俳優陣をコントロールしてくださいました。
Q:荒川さんのアドリブが面白すぎて、NGを出してしまう方も多いと伺いましたが?
鈴木:ほんと、笑ってしまいますよ(笑)。ほのぼのとしたシーンだけじゃなくて、真面目なシーンでも面白いことをやるんです。リアクションをいちいち声に出してくるんですよ。「あぁ?」とか「ほえぇ」とか(笑)。
戸田:そうそう。あれ、狙ってやっていますよね(笑)。わたし、荒川さんとは何度か共演させてもらっているんですけど、何十回もNGを出してしまったことがあって……。でも、最近はさすがに慣れてきました(笑)。
Q:主役を務めた生田斗真さんの印象を教えてください。
戸田:すごく柔軟で、アツいものを持っている方だなと思いました。監督が現場で演出されることへの対応も早いし、頭の良い人ですね。
鈴木:彼はストイックですね。そういうところは普段まったく見せないんですけど、真剣さと遊び心とのバランスがいいんですよね。僕は「生田斗真・最強男説」を唱えているんです。人への心遣いを忘れないんですよ。例えば、みんなで食事をしていても、つまらなそうな人がいたらそれを瞬時に察知して、その人に話を振る。それが彼の喜びなんです。僕が女だったらホレちゃうだろうな(笑)。
戸田の肉体改造に鈴木がアドバイス!
Q:鈴木さんは、関西出身の肉体労働者という役柄でしたが、あの関西弁は地なんですか?
鈴木:はい。僕は関西出身なので、今回は昔の自分を思い出しながら演じていました。東京で仕事をしていると、きちんとしている部分を自分で作り上げていたりするんですけど、今回はそこを取り払って、地元にいた頃のある種の泥くささを、いかに出せるかを意識しました。
戸田:鈴木さん、現場で関西弁をやたらイジられていたんですよ(笑)。
鈴木:そうなんです。みんながエセ関西弁で話し掛けてくるんですよ。「なんとかでんがな!」とか(笑)。それで僕の反応をうかがうんです。僕としては、うまくイジられたいんですけど、普段あんまりイジられることがないので、うまく反応ができない自分にヘコんでいました(苦笑)。
Q:鈴木さんは役柄によって体重を増減させることでも知られていますね。戸田さんは鈴木さんに肉体改造のアドバイスを求めたことがあるとか?
戸田:別の仕事で腕に筋肉をつける必要があって、去年の12月ぐらいから筋トレをやりだしたんです。ちょうどその頃に鈴木さんと会う機会があって、「太りたいんだけど」って相談したんですよ。で、何をどのくらい食べたか聞かれたので答えたら、「それじゃ全然ダメ。寝る前にラーメンを食べなきゃ」って言われちゃって(笑)。
鈴木:太るのって、実は減量と同じくらい大変で、自分が思っている以上に食べないとダメなんですよ。「ちょっと食べすぎたなー」くらいじゃダメなんです。
戸田:それで、1食でお米を1合くらい食べて、体重は1キロ増えたんです。でも、筋トレで腕が締まっちゃって、逆に細く見えてしまったという(苦笑)。
鈴木:その話を『予告犯』の現場で聞いて、「僕のアドバイスはなんだったんだ!」って思いました(笑)。
社会のゆがみに落ちてしまった者たちの犯罪
Q:動画投稿サイトで犯罪を予告し、法律では罰を与えられない人の罪を裁くシンブンシ一味。彼らの行為について、どう感じましたか?
戸田:犯罪は犯罪ですからね。でも、周りに救ってくれる人がいなかったことが、彼らの不運だったのかもしれないとは思います。誰かの言葉だったり、存在だったり、何か一つでもあれば、こんな罪を犯すことにはならなかったかなと。
鈴木:彼らは、社会を維持するために犯してはならないことをしているので、賛成はできないんですけど、共感できてしまうところがあるんです。それは、彼らが自分のためではなくて、誰かのためになると思い、その確信のもとに動いているからなんですよね。法律や福祉など、社会の仕組みは完璧ではなくて、救い上げられないものというのは、どこの国にもある。そのゆがみに落ち込んでしまった彼らには、こういう選択肢しかなかったんでしょう。ただ一方で、彼らが他人のためだけにやっていたのかというと、そうではない気がする。社会に対する復讐(しゅう)とか、エゴもあると思うんです。美談では終わらないところが、この映画の面白さですよね。
戸田:本当に、たくさんのメッセージが詰まっている作品です。「自分の人生は、きちんとジャッジしなければいけない」ということが、観てくださる方に伝わるといいなと思います。
同郷(兵庫)ということもあってか、会話のノリとテンポが絶妙な戸田と鈴木。お互いが爆笑ネタを披露したかと思えば、真剣かつ深く作品のテーマについて語るなど、息の合ったトークを繰り広げていた。二人が言う通り、さまざまなメッセージを含みつつも、サスペンス、人間ドラマ、さらにはミステリー的なギミックもあり、エンタメ要素が集約されている本作。観る際には、怪優・荒川良々の、オトボケだけではないエモーショナルな演技にも注目だ。
(C) 2015映画「予告犯」製作委員会 (C) 筒井哲也/集英社
映画『予告犯』は6月6日より全国公開