ADVERTISEMENT

『極道大戦争』市原隼人&三池崇史監督 単独インタビュー

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • ツイート
  • シェア
『極道大戦争』市原隼人&三池崇史監督 単独インタビュー

作りたい映画を作ったら生まれたクレイジーな作品

取材・文:須永貴子 写真:高野広美

かまれた人が次々とヤクザヴァンパイアになっていくという、荒唐無稽(むけい)なパンデミック・アクション・ムービー『極道大戦争』。このぶっ飛んだ作品を成立させたのは、主演・市原隼人三池崇史監督という、『神様のパズル』以来7年ぶりとなるコンビだ。市原という稀有(けう)な俳優と仕事をして三池監督が感じたことや、三池組に参加して市原が体験したことを二人が語った。

ADVERTISEMENT

自分たちに規制をかけない映画作り

市原隼人&三池崇史監督

Q:市原さんがタイで撮った監督・主演作『Butterfly』が、今回のキャスティングにつながっているそうですね。そもそも市原さんが短編映画を撮ったのはなぜですか?

市原隼人(以下、市原):昔からカメラを回して遊んでいたんです。ミニチュアとか犬とか友達を撮って、編集して。ちょうどアクショントレーニングをしていたころ、アクションを映像に収めたいな、せっかくだから前後のストーリーも付けたいな、日本だと現実的すぎるからタイで撮って世界観を作りたいなと考えて。気が付いたらああいう作品になっていました。

三池崇史監督(以下、三池監督):「撮りたい!」という少年のような衝動から撮っているわけじゃないですか。僕らがある明確な目的のために作らなきゃいけないものとは全然違うエネルギーにあふれている。これからも日本の商業映画に染まらないで、面白いものができたらいいですよね。

Q:『極道大戦争』もまさに「少年のような衝動」がキーワードじゃないですか? 自分たちに規制をかけず、作りたいものを作ったという意味で。

三池監督:そうですね。でも、「作りたいものがこれ!?」と聞かれると……これなんですけど(笑)。

市原:台本を読んで「ぶっ飛んでるな!」と思いましたし、「早く現場に行きたい!」と胸が高鳴りました。いざ現場に立ってみると、あらかじめ決めた枠にはめていくスタイルじゃなくて、三池さんやスタッフ、キャストが感じたことを出し合っていったんです。影山はカエルのキャラクター(KAERUくん)と戦ったり、カッパとかよくわからないキャラクターと向き合ったりするんですけど、生身の役者を相手にしているときと何ら変わりなく自然体で芝居ができました。そんな現場、なかなかないです。だから、キャラクターが本当に存在する人物のように生きていたし、いったいどんな出来上がりになるのかワクワクしました。

タイムスリップしてきたアウトロー

市原隼人&三池崇史監督

Q:そして出来上がった映画は?

市原:クレイジーでした(笑)。

三池監督:可能性やエネルギーがさく裂しやすいのって、やっぱりアウトローの世界なんですよね。俳優も皆さんアウトローじゃないですか。役者をやって生きていこうという時点でそうだし、実際にそれを成立させている人のエネルギーを借りて、こういうアウトロー物をやると、お祭りのようなエネルギーが渦巻いて作品が生き生きするんです。俺なんかはアウトローに憧れている立場なので、自分にできないことを、役者の皆さんに実現してもらっている。しかも、こういう世界の中でのリアリティーは台本じゃ出せない。キャラクターがリアルに見えるかどうかは演じる人にかかっている。非常に難しい部分です。

Q:ということは、市原さんもアウトローだと。

三池監督:アウトローでしょ! 合法的な(笑)。状況が状況だったら、ゼロ戦に乗って意識を保ったまま突っ込んでいける人ですよ。極端な例ですが。

市原:地元の仲間からは「おまえ、よく役者できてるな」とか「絶対早死にするよ」とか言われています(笑)。でも、自分の中では反発したり、グレたりしているつもりは全くないんです。「ありがとう」と思ったら「ありがとう」と言いたい。そんな気持ちで生きていると、「おまえ自由だな」とか言われます。

三池監督:本人が言われてうれしいかどうかは別として、僕は自分のオヤジ世代と仕事をしている感覚になりました。市原くんは、過去からタイムスリップしてきてポンっと現れた人のよう。現代に生まれて、どういう生き方をしたらこういう人間になるのかが理解できない(笑)。例えば高倉健さんとガチで殺し合う市原隼人って見てみたいじゃないですか。勝新太郎さんと軽妙なやりとりで笑わせた後にガチで暴れる市原隼人とか、『悪名』を二人でやったらどうなるのかな、といったように想像が尽きない。動物としての力があるから、『極道大戦争』みたいな世界観でようやく収まる。

市原:テーマパークにいるみたいな感覚でした。影山を中心に、ストーリーがあっちゃこっちゃ行っているのに、外れ過ぎているわけでもなく、最後にはちゃんと終わる。全てが濃くて、映画でこんな体験をしたことないです。

三池監督:今の若者たちを描いた話をやると、どうしても市原くんは力が余っちゃっている感じがある。作品に収まるのが役者の仕事だし、収まりやすい人が増えているんだけど、市原くんはそうじゃない。こういうフィクションも、市原隼人という役者を通すことでリアルになるんです。

Q:創作意欲を刺激する存在ですね。

三池監督:うん。作品を背負ってくれるから非常に武器になるし、こちらとしては「いやー、市原隼人だからこうなっちゃったんですよねー」って言える存在です(笑)。

市原:これからもそう言われるように、このスタイルでいきたいです。

スクリーンを通してフェロモンをにおわせる

市原隼人&三池崇史監督

Q:本作では、アクションが大きな魅力です。

三池監督:影山は「戦わざるを得ない状況で仕方なく戦っている」ので、アクションを見せ場にはしたくなかった。アクションのために各キャラクターの生きざまが存在するのではなく、キャラクターのフェロモンを、アクションシーンを通して伝えたかった。それを劇場にいる人が、スクリーンを通して感じることができるかどうかが自分的には今回の挑戦でした。男が感じるフェロモンを出す男性っているんです。それが、生身では感じられても、スクリーンに収まるとなかなかにおわない。でもこの映画の市原隼人からはフェロモンを感じると思う。

Q:それが成功したのはなぜでしょう?

三池監督:市原くんが命を懸けていたからじゃないでしょうか。人間って、「明日、死ぬかもしれない」という危険でやばい状況になってようやく動物的なフェロモンが出るんです。市原くんは映画の枠をはみ出すし、「そう見えればいい」という計算や次元を超えてしまうから、なかなか危険な男ですよ(笑)。

市原:アクションのときは特に気持ちが入っちゃっていますね(笑)。そういうときは相手の動きがスローに見えるし、相手の次の手を読もうとして、相手が息を吸った瞬間にビクッと動く体の部分を探す自分がいます。相手が自分の目を見ているのか、目の奥を見ているのか、心の中を見ているのか、見てくれを見ているのか、ビジョンの先を見ているのか、相手の目を見るとわかってくるんです。その目にはたいてい見覚えがあったりするんですけど、(本作で市原と壮絶なアクションシーンを見せる)ヤヤン・ルヒアンさんの目はなかなか見たことがない目でした。

三池監督:市原隼人がじっと何かを見ているまなざしは、編集をしていても「もうちょっと見ていたいな」と思って、思わず手が止まっちゃいました。KAERUくんを前にして「おまえか、待たせたな」と言うときの目がいい。着ぐるみのカエルを相手にあのまなざしはなかなかできません。

Q:ちなみにKAERUくんの目はどんな目でした?

市原:見たことのない目でした(笑)。

三池監督:見たことあったらやばいでしょ(笑)。


市原隼人&三池崇史監督

市原は監督とその組を尊敬し、全身全霊を込めた芝居で本作に貢献した。とにかく真面目な主演俳優。そして、彼の働きに100パーセント満足していることが伝わるほほ笑みを見せる、職人かたぎの三池監督。インタビューでの柔和さと、エクストリームな作品のギャップが、ますます“ヤバさ”を助長する。市原が「クレイジー」「ぶっ飛んでる」と発言するときの満面の笑みもまた、この作品がただものではないという何よりの証拠だろう。

映画『極道大戦争』は6月20日より全国公開

最新インタビュー

インタビュー一覧 »

ADVERTISEMENT