『ボクは坊さん。』伊藤淳史&山本美月 単独インタビュー
たまたまお坊さんだったけど青春をしっかり描いている
取材・文:斉藤由紀子 写真:高野広美
糸井重里が主宰する「ほぼ日刊イトイ新聞」で実在の住職がつづった人気エッセイを、『ALWAYS 三丁目の夕日』のスタッフが映画化した『ボクは坊さん。』。24歳の若さで四国八十八ヶ所霊場、第57番札所・栄福寺の住職になった主人公の白方光円を演じるのは、『チーム・バチスタ』シリーズをはじめテレビドラマ、映画の両方で活躍を続ける伊藤淳史。光円がほのかな想いを寄せる幼なじみの越智京子を、女優でモデルの女優の山本美月が演じている。ロケ先ですっかり仲良くなったという伊藤と山本が、撮影時のエピソードを和やかに語り合った。
31歳の伊藤と24歳の山本が幼なじみ役に
Q:お坊さんという、誰もが知りながらも暮らしぶりはほとんど知られていない職業にスポットを当てた本作。オファーを受けたときのお気持ちは?
伊藤淳史(以下、伊藤):どんな話だろうと思って台本を読ませていただいたら、僕らにとっての非日常であるお坊さんの日常が描かれてあって、光円と幼なじみの友人関係とか、ちゃんと人間らしい部分がとても掘り下げられていました。これは魅力的な映画になりそうだなと感じました。
山本美月(以下、山本):初めは「お坊さんの話? なんでわたしに?」って思ったんです。でも台本を読んだら、お坊さんって神秘的な存在だと思っていたのに、自分たちと全然変わらないんだなということが伝わってきました。
伊藤:職業がたまたまお坊さんだっただけで、一人の青年の青春や成長をきちんと描いているお話なんですよね。
Q:幼なじみ同士を演じましたが、実際の伊藤さんは山本さんの7つ年上なんですよね?
伊藤:初めは、あまりに年の差があるから大丈夫かなと思ったんです。僕が31歳で美月ちゃんが24歳なのに、幼なじみって「どういうこと?」って。でも実際にお会いしたら、美月ちゃんがすごくサバサバした落ち着いた女性で、これは大丈夫だと思いました。
山本:わたし、大人なんで(笑)。
伊藤:じゃあ、そういうことにしておこう(笑)。
山本:本当は、わたしが大人というよりも、伊藤さんが接しやすくしてくださったんです。溝端淳平さん(もう一人の幼なじみ・桧垣真治役)もそうなんですけど、お二人ともどこかヤンチャな一面もあって、気さくに話しかけてくださいました。だから、軽く毒が吐けるくらいに仲良くなれました(笑)。
伊藤:そうそう。僕、7つ上なんだけどな……と思うくらい美月ちゃんが毒を吐いてくれて(笑)、すごく楽しかったです。
山本:でも気を許し過ぎるわけではなく、本番はスイッチが入ってみんなが真剣になる。ちゃんとメリハリがあって気持ちのいい関係でした。
お坊さんの衣装と白無垢(むく)の花嫁姿に挑戦!
Q:原作は、愛媛県今治市・栄福寺の住職、白川密成氏が「ほぼ日刊イトイ新聞」で連載した実話エッセイ。実際に栄福寺でロケをされ、白川氏にもお会いになったそうですね?
伊藤:ええ。エッセイを読んだときに感じるものと、実際にお会いした白川密成さんは、すごく近いものがありました。笑顔がとてもステキなんです。もともと、お坊さんを身近に感じてもらいたいという思いで書かれたエッセイだとお聞きしているので、ご自身もすごく親しみやすい方でした。
山本:ふんわりした空気感にエッセイと通じるものがありました。撮影でお会いしたときは、奥様のお腹が大きかったんですけど、先日またお会いしたら、かわいい赤ちゃんが生まれていたんですよ。自分も子どもを身ごもる役だったので、すごく感慨深いものがありました。
Q:山本さんは劇中で、白無垢(むく)の花嫁姿を披露しました。とてもお似合いでしたね。
山本:自分ではあまり似合っているような気がしていなかったんです。カツラを被った自分の顔に違和感があって。でも、皆さんが褒めてくださるので、本当に結婚式をするならドレスだけではなくて和装もしてみたいなと思いました。
伊藤:本当に似合っていて、キレイでしたね。
山本:伊藤さんも、お坊さんの衣装がよく似合っていましたよ。冠が王様みたいでかわいかったです。
伊藤:お坊さんが冠婚葬祭で着る衣装って、すっごく重いんですよ。しかも、同じように見えて細かく色や柄の違うものが、何種類もあるんです。お坊さんの世界は深いなと思いました。
お経は気持ちを込めて読んではダメ!
Q:伊藤さんはお経の唱え方、山本さんは今治の方言など、努力されたことも多かったのでは?
伊藤:僕は所作とか読経とか、実際に密成さんがやっていらっしゃるところを撮っていただいて、その映像を見ながら勉強したのですが、かなり大変でしたね。真言宗のお経は読み方のニュアンスが難しくて。気持ちを込めて読んではダメ。さらさらと雨が降っていくように、それこそ無になって読まないといけない。僕は普段お芝居にどれだけ気持ちを入れられるかを大事にしていて、それとは真逆でしたから、ちょっと苦労しました。
山本:わたしも方言を使い慣れていないので「ただ言っているだけになっていないかな、ちゃんと気持ちを乗せて話せているかな」と不安でした。方言でせりふを読んでくださっている方の音源をいただいて練習していたんですけど、それが男の人の声だったんです。「え、なんで女の人じゃないの?」って少し違和感があって最初は戸惑いました(苦笑)。
伊藤:確かに、それは戸惑うね(笑)。
山本:でも今考えると、わざと男の人の音源をくださったのかもしれないですね。もしも女の人だったら、その方のマネをしたお芝居になってしまうから、あえてそうしたのかなと思っています。
Q:方言を話す山本さんも、すごくキュートでした。
伊藤:美月ちゃん、すごく頑張っていたよね。ちょっとしたイントネーションの違いでも「あ、間違っちゃった!」って、自分でダメ出しをするんです。そこがかわいかった。僕らは方言自体に疎いので、どこが間違いなのかわからないんですけど。
山本:伊藤さんがちゃんとお坊さんに見えるように努力されたのと同じですよ。今治の方が見ても不自然ではないようにしたかったんです。
Q:最後に、名言がたくさん登場する本作で、特に印象に残った言葉があったら教えてください。
伊藤:やはり「自分は自分一人で自分なのではない。周りの世界があってここにある」という言葉(弘法大師の教え)ですね。あと「僕にはまだまだできないことがある」という光円の最後のセリフがいいんですよ。僕自身、今の自分にできることは少ないけど、目の前のことをコツコツやろうとずっと思ってきたので、それを再確認できました。人間ってずっと成長していくものだと思うから、すごく心に残っています。
少年のような純粋さと大人の包容力を併せ持っている伊藤と、少女のような無邪気さと鋭い視点を兼ね備えた山本。幼なじみというより、仲の良い兄妹といった様子の二人。それぞれがどれだけ真摯(しんし)に作品と向き合っていたのかが、読経や方言への取り組み方からだけでも十分に伝わってくる。笑いあり、涙ありの青春ストーリーであると同時に、お寺やお坊さんを身近に感じるお仕事モノでもある本作は、幅広い世代の人々を魅了することだろう。
映画『ボクは坊さん。』は10月17日より四国先行公開、10月24日より全国公開