『レインツリーの国』西内まりや 単独インタビュー
甘えベタが自分と似ている
取材・文:須永貴子 写真:高野広美
人気作家・有川浩の小説が原作の映画『レインツリーの国』は、20代の男女がある小説をきっかけにブログを通じて出会い、傷つけ合いながらも惹かれ合うピュアな恋愛ストーリーだ。感音性難聴になってから自分の殻に閉じこもるヒロイン・ひとみを演じるのは、これが映画初出演となる西内まりや。モデル・歌手・女優として幅広く活躍する彼女が、初めての映画の撮影現場について、そして仕事への情熱を語った。
ひとみの人生を自分も送るつもりで演じた
Q:初めての映画出演にどう取り組みましたか?
ドラマは何かをしながら見ている方もいらっしゃるので、伝わりやすいお芝居が求められると思うんです。その点、映画はその作品を観るために映画館に足を運んでスクリーンに集中するので、細かい動きや息遣いが生きてくると思ったので、繊細な演技をするよう気合を入れました。
Q:ヒロインのひとみはどういう女の子だと解釈して演じましたか?
難聴という悩みを抱えて心を閉ざしている彼女が、一人の男性に出会って恋をして、成長し、前を向いて進んでいく姿を、ひとみの人生を自分が送るかのように演じなければいけないなと思いました。ドラマよりも映画のほうが、撮り順がバラバラなので、成長していく過程をどう表現するか、シーンを撮る度に細かくチェックしました。
Q:どんな風に?
自分の記憶を頼りに、その前後のシーンを演じたときの感情を思い出してから、お芝居するようにしていました。
Q:難聴を抱える女性を演じるにあたり、どんな準備をしましたか?
難聴者の方に直接お会いしました。最初はどこまで聞いていいのか躊躇していたんですけど、いろいろな壁を乗り越えた方だからすごく明るくて、オープンで、こちらが変な気を使わずにどんどん質問できる雰囲気をつくってくださったので、いろいろと細かいことを質問しました。とはいえ、耳栓をしてお芝居をしても自分の声は聞こえますし、まったく同じ体験はできないので、どんな気持ちなのかを想像するしかなかったです。しかも感音性難聴は、まったく聞こえないというわけではなく、環境や体調によって聞こえるときと聞こえないときがあるというのがまた複雑だろうなって。
Q:実際に演じながら、感じるものがあったんですね。
撮影中、すごく辛かったです。ひとみは二年前に滑落事故に遭って難聴になった中途難聴者なので、一番悩む時期だと思いました。恋愛もあきらめかけているところで伸さん(玉森裕太)と出会って、普通の女の子として時間を過ごせて嬉しかったけれど、迷惑をかけたくないから会わなければよかったという気持ちもわかりましたし、難聴につけこまれてセクハラされたときや、伸さんがほかの女の子といるときも本当に辛くて……。だから、お母さん(麻生祐未)が無条件の愛情で抱きしめてくれたときは本当に切なくてうれしかったです。撮影中はずっと戦っていました。
壁にぶつかりながら挑んだエレベーターのシーン
Q:西内さんのファンは10代から同世代の女の子が多いと思います。この作品に出演すると決めたとき、彼女たちがこの作品をどう受け取るかを考えましたか?
たぶんみんな悩んだり葛藤したりしていると思うんです。何が正解かも、どうしたらいいかもわからない。一人でそれを乗り越えるのは難しいけれど、誰かが背中を押してくれたり、支えてくれたらここまで変われるんだってことを感じてもらいたい。人と支え合うことや、愛情を表現することは素敵なんだなって。
Q:甘え下手のひとみが伸と出会い、人に頼れるようになる。そこが大きな成長ですよね。
そうなんです。わたしも自分の悩みを打ち明けられないし、自分でなんとかしようとしてしまう甘え下手なので、そこは似ているなって思いました。でも、ようやく最近本音を語れる人に出会えて、自分の居場所を見つけることができた気がします。最終的に決めるのは自分だけど、背中を押して自信や勇気を与えてくれる存在って大切だなと思います。「誰も信じられない!」というときもあるけれど、それはそういうとき。難しいけれど、自分を信じるしかない。
Q:伸はとてもいい人ですよね。
真っ直ぐで、本音しか言えない人。こういう人になりたいと思う、理想の人間像です。
Q:伸を演じる玉森さんとの共演はいかがでしたか?
玉森さんが演じる伸さんは、優しさがにじみ出ていました。言葉の一つ一つに温かみがあったし、ひとみを思ってくれているんだなーって感じて、安心してお芝居ができました。玉森さんはふだんおしゃべりするほうじゃないと思うんですけど、それでも頑張って「出身はどちらですか?」と初日に話しかけてくれました。でもそのあとシーンとなってしまって、次の日にまた「初めまして」みたいな空気になっていました(笑)。玉森さん自身は「伸さんとは性格が逆だ」「こんな風に思ったことをすぐ言葉にできない」とおっしゃっていて。そう言える玉森さんだからこそできる伸さんだったと思います。表現の仕方が違うだけで、きっと玉森さんも一つの物事に一生懸命になる人だし、揺るがない心を持っている方だと思いました。
Q:印象的なシーンは?
エレベーターのところで伸さんに思いをさらけ出すシーンです。わたしはテストから本番へと回数を重ねるにつれてどんどんリアルなお芝居ができなくなってしまうところが、自分の克服すべき課題なんですね。その壁に、このシーンでまさにぶつかってしまって……。玉森さんやスタッフさんも付き合ってくれて、何度もやらせてくださいました。
自分にとってのレインツリーの国とは?
Q:伸とひとみはメールでやりとりしていたので、お互いの名前についてある勘違いをします。文章って、読み手の先入観で本意とズレが生じてしまうから難しいなと感じました。
そうなんです! ブログやツイッターも、良くも悪くも言葉一つで多くの人に影響するので、日々すごく意識しています。作り込みすぎると距離ができてしまうので、心の声をポンと出すときも必要だと思うのですが、わかりやすい言葉だけではつまらないと思うんです。特に歌詞を書くときは、すべてを言葉で伝えようとせず、曖昧な部分や、相手が想像する部分を残しておいたり。あと基本的な考えとして、言霊というのは感情に乗っかって伝わるものだと思っています。
Q:ひとみのブログのタイトルは「レインツリーの国」で、そこは彼女にとってワクワクする場所として描かれています。西内さんにとってのレインツリーの国はどんな場所や時間ですか?
やっぱりこのお仕事をしているとき。自分が何か表現しようとしているときにワクワクします。
Q:西内さんのレインツリーの国がさらにワクワクする場所になるために必要な条件とは?
うまくいっているときと、うまくいっていないときの両方がある状態だと思います。苦しさがないと幸せも感じられないし、幸せで満たされると欲がなくなってこなすだけになってしまいそうで怖い。悔しくて満足できないと闘志が湧いてくるので、その状態にワクワクします。
Q:さすがです! 雑誌「セブンティーン」の専属モデルを卒業し、シングルもリリースします。そして初出演映画が公開される現在の心境は?
うまくいっているときこそ、これが続くかどうかの戦いだと思っています。こうしていろいろとやっていてもちゃんと結果を残さないと続かないし、この世界に「絶対大丈夫」という保証はない。そういう不安を楽しみながら、常に2年後、3年後の自分のイメージを目標にしながら過ごしています。
Q:演じることに対する欲は?
まだまだあります。
Q:主演は?
挑戦したいですね。
西内まりやは、彼女が「理想の人間像」と表現した伸にも通じる真っ直ぐさの持ち主だ。インタビューではすべての質問に対し、逃げず、少しのごまかしもなく、丁寧に言葉を紡ぐ。それは、彼女がバドミントンで培ったスポーツマン精神に則っているのかもしれない。フェアで清々しい彼女が瞳を輝かせながら「映画で主演したい」と言うならば、どうしたって応援したくなってしまう。
スタイリスト:田中ルミ
ヘアメイク:paku☆chan(Three Peace)
映画『レインツリーの国』は11月21日より全国公開