『劇場霊』AKB48島崎遥香 単独インタビュー
女優ができるという自信はまだない
取材・文:浅見祥子 写真:尾鷲陽介
『女優霊』『リング』を放ったジャパニーズホラーの巨匠、中田秀夫監督の最新作『劇場霊』が公開される。役に恵まれなかった若手女優がオーディションで手にした舞台の稽古場に小道具として球体関節人形が持ち込まれてから、奇妙な事件が続発する……。劇場を舞台にしたこのホラー映画で、役柄同様にオーディションによってヒロイン役を手にしたのはAKB48の島崎遥香。中田監督のもとで演技と格闘した日々を振り返り、今の心境、卒業について思うことを語った。
オーディションでヒロイン役をゲット!
Q:AKB48グループ、全メンバーを対象にしたオーディションで主役に抜てきされたそうですね?
最初のうちはまさか、こんなに大きな作品だとは思わず、メンバーの誰もがちょっと軽い感覚でオーディションを受けていました。その場にいらっしゃらなかったので監督が誰かもわかりませんでしたし、どんな映画かも教えられていなくて。会場へ行ってその場でセリフの書かれた紙を渡され、3人1組になってそれを読み合いました。そのあとさらに2回ほどオーディションを重ね、だんだんとどんな映画かわかっていったんです。
Q:主人公である沙羅役に決まったときはどう思いましたか?
とにかくビックリしました(笑)。主役のプレッシャーみたいなものは、特に感じませんでしたけど。
Q:演じることは好きですか?
これがほとんど初めての本格的なお芝居で、好きとか嫌いというのは全然わかりません。とにかく監督のアドバイスをどれだけ理解して表現できるか。そのことに集中していました。細かいことを考えている暇もなく、「もうやるしかない!」って感じで。
Q:中田秀夫監督から演出を受けた印象は?
どのシーンでも「このときはこういう状況で、沙羅はこういう気持ち」などと、とても細かく教えて頂きました。怖がらせるお芝居の仕方というものがあるわけではなく、そのときに沙羅が抱いた感情を理解するしかないんですよね。それで「今の倍で!」とか「集中!」と言われ続けました。一方で、わたしが演技に集中できる環境も作っていただきました。「まだ新人でオンとオフの切り替えもできないだろうから、共演者とおしゃべりをするために気を使ったりしなくていい。自分の役柄のことだけを考えて」と。そうした心遣いのおかげで、とても集中できました。
撮影は自分自身と演技との闘い
Q:撮影でつらかったことは?
全部です(笑)。とにかくもうどうしていいかわからず、大変でつらくて……という日々でした。撮影の合間も私語は許されないし、ホラーということもあって、役柄のことを考えているとどんどん暗くなってしまうんです。そうした精神面も大変でした。慣れない環境で、初めてのことだらけで、毎日が自分自身と演技との闘いでした。
Q:町田啓太さんとの共演はどうでしたか?
格好よかったです(笑)。初めてお会いしたときは優しそうな方だなって思いました。町田さんに限らず、わたし以外の俳優さんは演技一筋でやっている方が多く、そうした方の演技を近くで見られたことはとてもいい経験になりました。人それぞれ発声の仕方も違うし、表現方法はさまざまなんだなって。
Q:ご自身も劇中、舞台の稽古でのシーンは発声の仕方が他のシーンとは違っていましたよね。事前にボイストレーニングを?
撮影前に舞台の場面についてリハーサルがありました。発声そのものを習うのではなく、セリフを言いながら動きをつけてもらったりして。歌がうまい人ならちゃんと腹式呼吸ができて舞台での演技にも役立つでしょうけど、わたしは歌が苦手な方で。腹式呼吸というのは簡単にできるものでもないですし。
Q:女優とアイドル、仕事面で共通点はありますか?
AKB48のライブでは当日に新しい発表があったり、いきなり台本が届いたりします。直前に資料を渡され、それを覚えて確実にファンの方へ届けなければいけないことが多いんです。それを経験してきたので、映画でもセリフを覚えたりすることに役立ったかなと思います。そこは自然と鍛えられていました。
Q:完成した映画を観ていかがでしたか?
恥ずかしかったです。普段も自分が出たテレビ番組を観ないので、映画を観ていて目をつぶりたくなりました(笑)。映画を観るのは大好きだし、これからも出てみたいと思いますけど、出来上がったものを観て自信をなくしてしまって(笑)。
今現在の女優業への思い
Q:では、観客として好きな映画は?
最近面白かったのは『八日目の蝉』と映画館で観た『ソロモンの偽証』です。
Q:成島出監督の作品がお好きなんですね。
え、二作とも同じ監督なんですか!? じゃあ成島出監督が好きなのかも。女優さんでは宮崎あおいさんが好きです。出演作を何本か観ていますが、最近『ツレがうつになりまして。』を観て、あらためてナチュラルな雰囲気がいいなって。邦画をよく観ますが、洋画だと『そんな彼なら捨てちゃえば?』とか『LIFE!/ライフ』が面白かったですね。あと韓国の映画で面白いのがあったんですけど……タイトルを忘れちゃいました(笑)。
Q:女優という仕事に対して、今どんな気持ちを抱いていますか?
日本のホラー映画界でも有数の監督である中田さんから驚く表情などを直接学べたのですから、そこは自信を持ってもいいのかなとは思うんです。でも、自分に女優ができるという自信はまだありません。まずは経験だなと。今回のようにもし機会を頂けたら、どんどん経験を積んでいけたらいいなと思います。
Q:AKB48でセンターを務めたり、今回のように映画の主役に抜てきされても自信にはつながらないのでしょうか?
自信にはならないです。アイドルって歌やダンスだけじゃなく、今回のように映画に出させてもらったりコントをやったり、毎日違う種類のお仕事ができます。中でもカワイイお洋服を着てカワイイ写真を撮ってもらうのが好きですけど、スタイルも特に良くないので、本格的なモデルになりたいわけじゃないんですよね。そこにも自信がありません。
Q:AKB48を卒業することは考えます?
卒業は考えないようにしています。一人でやっていけるという自信がついたら考えるかもしれませんね。
インタビュー中はどこかふわっとした空気を漂わせ、自分を必要以上に飾ったり盛ったりすることなく、正直に話そうとしているのが伝わってきた。「自信がない」という言葉を何度も口にしていたのが印象的だが、お芝居と格闘した日々を正直に話していた。そうして完成した映画は“女優・島崎遥香”の誕生を目撃できる貴重な作品になったことは間違いない。
ヘアメイク:George
スタイリスト:Risa Kato(CUBE)
映画『劇場霊』は11月21日より全国公開