『の・ようなもの のようなもの』松山ケンイチ&北川景子 単独インタビュー
故・森田芳光監督を慕う森田組復活!
取材・文:斉藤由紀子 写真:高野広美
故・森田芳光監督が落語界を舞台にした劇場デビュー作『の・ようなもの』(1981)のその後を描くオリジナル作品が完成。松山ケンイチ、北川景子、そして、森田組助監督出身の杉山泰一監督ほか、森田監督を慕うキャスト・スタッフが集結して作り上げた青春ドラマだ。師匠の家に住み込んで落語家修業をする真面目だがさえない志ん田(しんでん)を演じた松山と、志ん田の師匠の娘・夕美を演じた北川が、本作への思いをじっくりと語った。
森田組、奇跡の復活!
Q:森田監督の遺作となった『僕達急行 A列車で行こう』(2012)で主演を務めた松山さんにとって、本作には特別な思いがあったのでは?
松山ケンイチ(以下、松山):森田監督が亡くなってから、どうなるんだろう? と思っていたんです。このお話が来て、単純にビックリしましたね。森田監督劇場デビュー作の『の・ようなもの』に出てきた登場人物のその後を描くなんてすごいことですし、その中に自分が入っていくことがただただ驚きでした。またこうやって森田組の仲間と作品を作れて、自分が参加できることが本当にありがたいと思いましたね。
Q:森田監督の『間宮兄弟』(2006)でスクリーンデビューを果たした北川さんも、感慨深いものがあったのでしょうね?
北川景子(以下、北川):初めてお話をいただいたときは、まだ台本もできあがっていなかったんです。でも、森田組の仲間との作品に参加できるのであれば、内容や役柄は関係ないと思いました。本当にたくさんの女優さんが森田監督とお仕事をしていらっしゃる中で、声を掛けていただけるのが光栄でしたし、何よりも、わたし自身が森田組の雰囲気がとても好きだったので、またあの中に入れることがうれしかったです。あとは、作品のためにちゃんと力になりたいと、身の引き締まる思いを感じました。
森田監督は、唯一無二の存在
Q:お二人から見た森田監督は、どんな方だったんですか?
松山:監督の感性には追いつけないですね。やっぱり、すごく演出方法も面白いんですよ。『僕達急行 A列車で行こう』のときに、監督の前で本読みをしたんです。そしたら、「もうちょっと個性的なほうがいいんだよな」って、監督が演じてみせるんです。
北川:あー、わかる! そう、森田さんってそうなんですよね。
松山:それがムチャクチャ面白いんですよ。だから、そのあとがやりづらいんです(苦笑)。僕らも一生懸命やるんですけど、監督があまりにも個性的だから、つい笑っちゃったりして。とんでもないものを出されるから、追いつかないといけないって思ってしまうんですよね。最後までそういった感覚でした。監督に「もうちょっとこうしたらどうでしょうか」とか、意見を言えることもなく。そこがすごく悔しいし難しいところでした。
北川:本当に頭の中がどうなっているんだろうって思うくらい、遊び心があって、おもちゃ箱じゃないんですけど、「次に何が飛び出してくるんだろう」ってワクワクさせてくれる方でした。わたし、『間宮兄弟』のクランクアップのときに、「女優を辞めないでください」と森田さんに言われたんです。実は、初めての映画のお芝居だったので、自分が思うようにやれなくて、悩むことがあったんですね。森田さんは、そんなわたしの気持ちを汲み取ってくださったのかもしれません。だから、「次はもっと成長します、もう一度ご一緒したいです」って、ずっと願っていたんです。
もしもクラブのママだったら、億万長者に!?
Q:35年前に制作されたオリジナルを観たときは、何を感じましたか?
松山:今観ても35年前の映画だとは思えないですよね。女の子がみんなかわいかったし、みんなが飲んで帰っていく最後のシーンが本当に良かったんです。たとえ前半部分で寝てしまったとしても(笑)、あのラストだけですべてが伝わってくるくらいインパクトがあった。そのラストで流れた尾藤イサオさんの歌(「シー・ユー・アゲイン雰囲気」)が、今回の続編のラストでも流れるんです。なんだかグッと来てしまいました。
北川:『間宮兄弟』のオーディションに受かったあと、『の・ようなもの』の秋吉(久美子)さんが演じた役を見てください、あなたにピッタリだと思いますと、森田さんから伝言があったんです。どういう意味でおっしゃっていたのか、考えながら観たんですけど、すごく新鮮でしたね。長回しのシーンとか、登場人物たちのリアルな存在感とか、人間の生活をドキュメンタリーで切り取ったかのような映画でした。森田作品のヒロインって、完ぺきなマドンナタイプではないんですよね。すごく人間味があるキャラクターだから、そういった瑞々しさとか、生々しさを監督は求めていらしたのかなと思ったりしました。
Q:本作で北川さんが演じた夕美も、すごくかわいかったです!
松山:うん、カワイイ。
北川:ほんと? やった! すごくうれしい。
松山:なんかね、クラブのママっぽいんですよ。なぜか引き出されてしまって、何でもしゃべっちゃう、みたいな。夕美はクラブをやったら億万長者になれるんじゃないかな(笑)。
北川:えー! そんなこと初めて言われた(笑)。
松山:いや、どこかで言いたいって、ずっと思っていて(笑)。
北川:わたし、現場では意外と壁があるタイプなんですよ。でも、ケンイチくんだとなぜか安心できるんです。
松山:そうなの!? 本当に意外。僕たち、森田監督の『サウスバウンド』(2007)以来、7年ぶりくらいの共演なんですけど、話をしていて時間の感覚を感じないんですよ。今回の現場は、スタッフも含めて垣根がないから、すごく面白かった。あまり役のことは考えないで、景子ちゃんとずっと話していたような気がしますね。
北川:そう、待ち時間のあいだ、ずっとゲームの話とかしていたよね。家に帰ってから、「あれ? わたしってケンイチくんとこんなに仲良かったっけ?」って思うことがあったくらい、距離が近かったです(笑)。
松山の落語を北川が大絶賛!
Q:松山さんが劇中で披露した落語が、とても流暢(りゅうちょう)で魅力的でした。
松山:落語はやるのは大変ですけど、楽しいですよ。僕、今でも聞いているほど落語にハマってしまいました。「初天神」という演目をやったんですが、言葉も美しいし、登場する人物が魅力的なんです。バカなんだけど、すごくやさしくて、男らしくて。そういう人間になりたいなって、ついつい思ってしまいますね。酒を飲んでバカやってみたいとか。自分は酒、飲めないんだけど(笑)。落語は頭の中で映像を浮かべるので、映画とかドラマとかとは違いますけど、同じような面白さがあります。
北川:わたし、ケンイチくんのお芝居で初めて落語を聞いたんですけど、頭の中に情景が浮かぶんです。わたしのような落語の素人が言うのもどうかと思いますが、ケンイチくんは本当にお上手なんですよ。きっと事前にかなり勉強されて、研究されたからなんでしょうね。いま落語の中のような男になりたいっておっしゃっていましたけど、ケンイチくんご自身がすごく真っ直ぐで、時々不器用なところがあって、あったかい人なんだと思います……でも、覚えるのは大変だったでしょうね。
松山:そうですね。落語の前座って、10分くらいしか持ち時間がないらしくて、でも実際の落語で、10分以内に終わる演目ってないんです。だから、ある部分をカットしたり、自分で編集して10分に収めるんですね。今回の映画でも、その作業を自分でやったんですけど、すごく楽しかったです。
北川:わたし、テストで何回もケンイチくんの「初天神」を聞いたんですけど、何度聞いても飽きないんです。本当に、すごい表現力だなと思いました。ケンイチくんには、また落語家の役をやってほしいな(笑)。
取材中、落語の名作を聞いているかのような気持ちのいいトークを繰り広げ、劇中でも驚くほど自然で息の合ったやり取りを見せている松山と北川。森田監督への思慕が言葉の端々からあふれ出てきた二人が、単なる共演者とは異なる深い絆で結ばれていることは明白だ。映画を愛し、独創的な世界を創り上げた森田監督のスピリッツは、今なおスクリーンの中で生き続けているのだと、本作を観た誰もが実感するに違いない。
映画『の・ようなもの のようなもの』は2016年1月16日より新宿ピカデリーほか全国公開