『さらば あぶない刑事』舘ひろし&柴田恭兵 単独インタビュー
完結編で目指したのは原点回帰
取材&文:浅見祥子 写真:高野広美
1986年に連続ドラマ「あぶない刑事」がスタート。以後映画『あぶない刑事』に『またまたあぶない刑事』、ドラマ「もっとあぶない刑事」と時代を超え、繰り返し息を吹き返してきたシリーズが映画『さらば あぶない刑事』で完結する。舘ひろし演じる女性に優しいダンディー鷹山と柴田恭兵ふんする意外な人情派のセクシー大下の名コンビによる年齢を超えた超絶アクション&おちゃらけトークは健在! 30年にわたる彼らの足跡を振り返った。
原点回帰を目指して
Q:最初に企画を聞いた印象は?
舘ひろし(以下、舘):すごくうれしかったです。また4人で、特にこの恭サマと一緒にできるってことが。
柴田恭兵(以下、柴田):僕ももちろんうれしかったですね。最後なのだからやるからにはこれまで応援してくれたファンの方が納得できる、本当にいい作品にしたいという思いがありました。そんなときに舘さんが「ちょっとみんなで集まって話しませんか?」と。
舘:「あぶデカ」始まって以来だよね。
柴田:監督、プロデューサー、シナリオライター、そして僕と舘さんで集まって、物語のベースとなるものを話し合いました。それはミサイルが飛んでくるとかタンカーが突っ込んでくるくらい……のものではなくて(笑)。そこからもう、楽しくなりそうだなという手応えがあったんです。
舘:原点回帰したかったんですよ。このところ荒唐無稽(むけい)になり過ぎたところもあった気がして、最初に長谷部安春監督のつくった『あぶデカ』に戻るべきだなと。僕のなかで『あぶデカ』はハードボイルドでスタイリッシュでファッショナブルな作品。この3本柱をきっちり踏まえた脚本をつくり、その上でオーナメントのようにアドリブをのせていきたいなと思って。
Q:映画で舘さんはハーレーに乗りながら両手を離してショットガンを撃ちますよね。こんなことができるなんて! と思ったのですが、最初のシリーズの最終回ですでにやっていて驚きました。
舘:だからやっていることは何も変わってないんです。
柴田:僕も、ただず~っと走っています(笑)。
「お約束」はキッチリと
Q:今回もかなり走っていましたが、問題はなかったのですか?
柴田:いや問題ありましたよ! 走っているときに「実年齢64歳」とテロップを入れてほしいくらい(笑)。でも『あぶデカ』でユージが走るのはお約束ですから。自分で決めちゃったのだからそれはやらないと。
Q:アドリブも「お約束」ですよね?
柴田:まあ(笑)。アドリブは舘さんに向けて言っています。舘さんが面白がってくれることに命を懸けているので。でも僕だけが考えているのではないんですよ。「Aというアドリブはどうですか?」と聞くと舘さんが「Bもあるかもしれない」と。それで僕がBをやると「Cも面白いね」などと、舘さんと一緒に膨らませていきます。
舘:例えば僕が面白いセリフを思いつくとしますよね。でもそれを僕が言うより、恭サマに言ってもらったほうが数十倍面白くなるんです。恭サマのアドリブを聞いているとお芝居をしていてもすごく楽しい。それでたまに本番で笑っちゃってNGになることもありますけど。
Q:クライマックスのユージの一言には笑いました。
舘:秀逸でしょう? セリフを思いついたのは僕なのですが、恭サマがあの状況であの目線で言うからいい。あんなお芝居のできる人は彼しかいません。
柴田:だから僕は舘さんがその場で喜んでくれることに命を懸けていますから!
舘:いや恭サマの才能です(笑)。
Q:今回の映画を観てあたらめて、ユージって人情派だったのだなと。
柴田:実は最初のシリーズの第1話からウエットな所があったんですよ。あまりにアドリブをいっぱいやって、僕も忘れちゃっていたけど(笑)。それでもベースにはいつでも真剣に、お互いに何かあったら絶対に命を懸けて守るという思いがある。でもなんかふざけているんですよね。そういう余裕みたいなものが楽しかったり格好よかったり、ステキなことなんじゃないかなと思って……今回ユージが「イッツショータイム!」と言った後に、鷹山がふっとハーレーで現れるシーンがありますよね。僕自身が映画を観ていて、あそこで鳥肌が立ちました。来てくれた! 格好いい! って(笑)。あらためて舘さんで良かったなと思ったんですよね。
舘ひろしのNGにそわそわしていた「あぶデカ」スタッフ
Q:完成した映画を観た感想は?
舘:まあ……いいんじゃないですか(笑)。最初にイメージしたような映画、ハードボイルドでスタイリッシュでファッショナブルなものにはなったのかなと。
柴田:映画を観ていても舘さんがセリフを間違えるんじゃないかと思って……冗談です。
舘:はっはっは。
柴田:うれしかったというか、ああ良かったなと思いました。皆さんにちゃんと最後のプレゼントができたのかなって。
Q:エンドロールには本当に驚きました。
柴田:1980年代でね、CGじゃないですよ。お金がないですから(笑)。同じ俳優として、この作品に懸ける気持ちが……命懸けですもん。
舘:セリフを間違えるので、何かでお返ししなきゃいけないと思って。
Q:あれは体を張ったお返しですか!?
舘:はい(笑)。
柴田:そうやって、やるときはキチンとやるからみんながついていくんですよね。
Q:実際にNGが多いのですか?
舘:NGは多いし……昔は長いシーンを1カットで撮るとき、最後の方に僕のセリフがあると大変だったよ。半分を過ぎた辺りでみんながそわそわしはじめちゃって。なんでかっていうと、その一言を僕が間違えるとまた最初からやり直さなくちゃいけないから。その緊張感たるや……面白いシーンのはずなのに、みんながやたらに緊張しているという(笑)。
柴田:セリフを間違えてもアフレコすればいいように、カメラに背中を向けたりして。
舘:口を隠して言ったりね(笑)。
次なる共演作の可能性は!?
Q:長い付き合いだからこそ知っている、お互いの知られざる一面を教えて下さい。
柴田:それはナイショですよ。ここでは言えません(笑)。
舘:ただ30年やってきて、お互いの距離感というか領域というのは年を重ねるごとにハッキリしてきました。それはお芝居をしていてもそうです。ここを恭サマはこういうふうにする、僕はこうと区分けが自然とできている。カオル(浅野温子)やトオル(仲村トオル)もそうで、その上でお芝居をしていくのはすごく気持ちがいいです。
柴田:もう……愛し合っていますからね。
舘:はっはっは。
柴田:なにを考えているかがわかるんです。目がうるんでいるなとか。
舘:……ちょっと飽きてきているなとか? ははは。
Q:まったく異なる役柄で共演するのはアリですか?
舘:二人で? まったく違う作品を? ああ……僕は恭サマと一緒だったらなんでもできる気がする。別のキャラクターでもなんでも……どうせ僕がやったらなんでも同じですから(笑)。
柴田:今考えていたんだけど、それは大変だな~と。
舘:(笑)。恭サマがしめてくれると信じているから、俺はなんでもオーケーなのよ。
Q:そういう関係性なんですね。柴田さんがアドリブで攻め、それを舘さんが受け止めているのかと思っていました。
舘:いや全然。アドリブで攻められても僕はどうしようもない、ただのでくのぼうになっちゃうだけなので。
Q:でも今回の映画でも柴田さんのアドリブを余裕で切り返していましたよね?
舘:いや、返してなんていないですよ。ううう……ってなるだけで。
Q:いずれにしろバランスがいいってことですね?
舘:そう。二人でやると、とてもバランスがいいんです。
柴田:(笑)。
まるで『カイロの紫のバラ』のようだった。劇中の衣装をつけた舘ひろし&柴田恭兵は、タカ&ユージがスクリーンからそのまま抜け出たよう。この人たちに年齢のことを言うのは野暮だが、舘ひろし65歳で柴田恭兵64歳……うそでしょ!? 撮影をすればどのポーズにも隙がなく、足を組んでも、ただ靴下を上げてもキマってしまう。そうして二人が話す様子には、30年(!)も共に作品をつくってきた仲なのに慣れ合いの空気が皆無なことに驚かされる。あるのは相手への敬意と愛情……「あぶデカ」が30年続いた理由は、そんなところにあるのかもしれない。
映画『さらば あぶない刑事』は全国公開中