『セーラー服と機関銃 -卒業-』橋本環奈 単独インタビュー
銃撃戦はつらくてむなしかった
取材・文:斉藤由紀子 写真:尾鷲陽介
1981年に薬師丸ひろ子主演で映画化され、社会現象となった赤川次郎の「セーラー服と機関銃」。その続編の映画版が公開となる。弱小ヤクザ・目高組4代目組長である女子高生・星泉(ほしいずみ)が、組同士の抗争や大人たちの陰謀に果敢に立ち向かい、悩み、傷つきながらも成長していく様を描く。監督は『夫婦フーフー日記』の前田弘二。主役を務めたのは橋本環奈。映画初主演ながら泉を堂々と演じきった橋本が、星泉という役とどのように向き合ったのか、熱く語った。
撮影中は、完全に橋本環奈を忘れていた
Q:ついに映像化された、小説「セーラー服と機関銃」の続編。完成版をご覧になっていかがでしたか?
なるべく一つの作品として観ようとしたんですけど、やっぱり自分が出ているので客観的には観られなかったです。ただ、高崎で撮影したワンシーンワンシーンが、とてもきれいに紡がれていて、ああ、こんな風になるんだなって、感無量でした。いまは、この映画に関わってくださったすべての方に感謝の気持ちでいっぱいです。
Q:薬師丸ひろ子さんが主演した作品とは作風も泉のキャラクターも違うので、とても新鮮でした。
もちろん、前の作品は観させていただいたのですが、真似をするのではなく、まったく新しい『セーラー服と機関銃』にしたかったんです。内容的にも、違法ドラッグやモデル詐欺といった現代の社会問題に着目していて、新しさが出ているのではないかと思います。
Q:4代目・星泉を演じるというプレッシャーを、どのように乗り越えたのでしょう?
わたし、「プレッシャーは封印します」って撮影前の会見で言ったんです。そうしないと、泉を演じきれないなと思ったんです。もちろん、撮影で緊張はしましたけど、いい意味での緊張感だった気がします。泉は、どんな大人にも屈しないし、周りの目も気にしない。本当は女子高生だから、くじけそうになることもあると思いますが、それを人前では出さないんです。そんな泉になり切って、負けられない気持ちを大事にしていたので、自分も自然とそうなったのかもしれません。
Q:役を通して自分自身を出していった部分もあったのでは?
出ています(笑)。境目がよくわからないくらい、役と同一化していました。現場でスタッフの皆さんから「組長」とか「泉」って呼ばれていたこともあって、完全に“橋本環奈”を忘れていました(笑)。だからこそ、気持ちが込められたのかな。わたし自身も、どんな現場でも「意外と堂々としてるね」って言われるタイプですし、負けず嫌いなので、そこは本当に似ているなと思います。
アドリブ、アクション、すべてが初挑戦!
Q:泉が行動を共にする、ちょっとオトボケな子分コンビ、晴雄と祐次。演じた宇野祥平さんと大野拓朗さんとの息がピッタリでしたね。
ホントですか! うれしい。撮影本番に入る前に、宇野さんと大野さんと何度もリハーサルをしながら泉の役に入っていったんです。2か月くらいかけて、自分らしい泉ってなんだろうと探りながら、皆さんと一緒に役を作っていきました。晴雄くんと祐次くんとのシーンは、映画では一部分しか描かれていないけど、泉にとってはずっと前から続いていた日常なんですよね。リハで一緒に時間を過ごした分、三人の空気感が出せたような気がしています。
Q:三人のコントトリオのようなやりとりが、とても面白かったです。
あれはアドリブだったんです。監督から、カットがかかるまでやってくださいって言われて、ずーっと三人で楽しくしゃべり続けていました。「組長、器がちっちゃい! 背もちっちゃいけど」「いやいや、晴雄くんに言われたくないわ」とか(笑)。あのとき晴雄くんと祐次くんは、落ち込んでいる泉を慰めようとしていたんです。彼らが泉のことを思ってやってくれているのが分かっていたので、わたし自身も、カメラを忘れて自然に笑っていました。
Q:そんなほほ笑ましい日常があるからこそ、晴雄と祐次が泉を守って銃弾に倒れるシーンは、胸に迫りますね。
あの銃撃戦は切なかったです。周りの人がどんどん犠牲になっていくことが、本当につらくてむなしかった……。みんなとの関係がちゃんとできていたからこそ、本当に気持ちが入ってしまいました。今回、初めてアクションシーンに挑戦したのですが、どの俳優さんも気迫がすごいんです。倒れるときは、顔からバーンって突っ込んでいくその姿がとてもカッコいいんです。本気で倒れるからカッコいいんですよね。
Q:泉が機関銃を撃つシーンも爽快でした。
機関銃って、ずっしりと重みがあるんです。発射音がすごく大きいせいか、撃っているという感覚はあまりないのですが、悪を倒すという意味では、機関銃を撃つとスカッとしますね(笑)。
愛憎の感情を体現して、女優の魅力に開眼!
Q:泉と深く関わることになる謎めいた男・月永を、長谷川博己さんがクールに演じていましたね。
長谷川さんには、テレビドラマ「デート ~恋とはどんなものかしら~」で演じていた恋愛ベタな男性のイメージがあって、フワッとした面白い方なのかなと思っていたんです。でも、初めてお会いしたとき、「月永さんだ!」って思いました。イメージが全然違いました。とにかく鋭いんです。自分が泉として見ていたからかもしれないのですが、そこにいたのは長谷川さんではなくて、月永さんでした。撮影の合間に気さくに話しかけてくださるんですけど、長谷川さんご自身も、どこか月永さんとして話していたところがあったように感じました。
Q:泉が月永と唇を重ね合わすシーンが印象に残ります。撮影はいかがでしたか?
あまり身構えることはなかったです。ごく自然にできました。あれは、泉にとって愛憎の行為だったのかなと思いました。泉は月永さんに対して、大人の男性への憧れを感じていた。でも、憎まずにはいられない出来事があって……。すごく複雑な、まさに愛憎入り交じるというシーンでした。
Q:今回の作品を経て、お芝居の魅力に目覚めてしまったのでは?
そうですね。本格的に女優のお仕事をさせていただいたので、いろいろな役ができるような女優になれたらいいなと思います。さまざまなキャラクターを演じながらも、しっかりと芯のある女優になれたらいいですね。
Q:最後に、卒業というタイトルにちなんで、そろそろ卒業したいな、と思っていることがあったら教えてください。
朝が苦手なことを、できれば卒業したいんです(笑)。仕事も学校も朝が早いので。いまのところはもちろん、遅刻したりすることはないんですけど、寝起きのあまりよくないところを改めていきたいですね。
取材現場でも関係者から「組長!」と声をかけられ、にこやかに応じていた橋本には、“ギャップ萌え”という形容詞がよく似合う。天使すぎるキュートな容姿とは相反する、落ち着いた物腰と圧倒的な存在感。独特のハスキーボイスで語る、作品への思い入れと細やかな解釈。思わず「姉御!」と呼んでしまいたくなるほど、彼女はすでに大人の女優だ。それは、過酷でなかったはずがない本作の撮影を通して、進化した姿だったのかもしれない。恐るべし17歳、橋本環奈。今後が楽しみでならない。
スタイリスト:鈴江英夫(H)
ヘアメイク:森本淳子(GON.)
(C) 2016「セーラー服と機関銃 -卒業-」製作委員会
映画『セーラー服と機関銃 -卒業-』は3月5日より全国公開