『ちはやふる -下の句-』広瀬すず&松岡茉優 単独インタビュー
負けず嫌いなところが似た者同士
取材・文:イソガイマサト 写真:高野広美
末次由紀の人気コミックを2部作で実写化した『ちはやふる』。前編の『上の句』ではヒロイン・綾瀬千早と幼なじみの真島太一、綿谷新との友情や恋、瑞沢高校競技かるた部の誕生から5人の部員の絆や葛藤の日々が描かれたが、後編の『下の句』では千早と競技かるたの最強クイーン・若宮詩暢とのガチンコ対決が最大の見どころに。果たして、千早役の広瀬すずと詩暢役の松岡茉優は『下の句』にどう臨んだのか? 撮影を振り返った。
撮影とわかっていても本気モードに
Q:お二人は本作で初めて共演したんですよね。
広瀬すず(以下、広瀬):そうです。茉優ちゃんと今回の『ちはや』で初めて会ったのは、かるたの練習のときだったよね。
松岡茉優(以下、松岡):そうだね。
広瀬:千早は畳の上のかるたをまとめて全部はらう取り方だけど、茉優ちゃんが演じた詩暢ちゃんは1枚だけを音を立てずに取る180度違うタイプで。
松岡:千早が取ると札が全部飛び散るので、もう一度やるのが大変だったよね(笑)。ちゃんと並べ直さないといけないから。
Q:詩暢が千早から1枚だけ取るシーンは、高度なテクニックが必要ですよね。
松岡:そうなんですよ。二人の息を合わせるだけではなくて、お互いに本気にならないと詩暢が千早からギリギリ1枚だけを取る(緊迫感のある)画が撮れなくて。でも、先に札をはらい始めている千早の隙を突いて、わたしが1枚抜く手のアップを撮ったときに奇跡的に成功したんです。それで「やったー! すずー!」と言いながら、抱きついてくると思って手を広げたんだけど、すずは悔しそうにムスーッとした顔をしていて(笑)。欲しかった画が撮れたからこれでいいじゃん! これが正解じゃん! って思うんだけど、本気で悔しがっていたんです。
広瀬:本当に悔しいんですよ。撮影とわかっていても、かるたの試合を本当にやっているモードになっちゃうんです(笑)。
松岡:その気持ちはすごくわかる。わたしも千早に「しのぶれど……」の札を抜かれるシーンのときは本当に悔しかったです。
広瀬:「しのぶれど」の札を取った後に茉優ちゃんの顔を見たら、笑顔なのに、なんや、コイツ! みたいな目をしていて(笑)。それでもふん! って全然平気な態度でいるところは千早に似ていると思いました。
松岡:似てるよね、千早と詩暢ちゃんは。
お互いに悔しかったからこそ白熱のシーンに
広瀬:わたしと茉優ちゃんも似ていると思う。
松岡:すずはよくそう言うけれど、わたしにはよくわかんない。
広瀬:わたしはほとんど適当だけど、芯にあるものやこれだけは絶対に譲らないと思っているものが近い気がして。茉優ちゃんの方がもちろん深く考えているし、わたしよりもいろいろな経験をしていてそれが強さになっていると思うけど、基本、負けたくないと思っているんです!
松岡:うん。
広瀬:わたしはちょっとでもマイナス思考になったら負けだと思っているんですけど、茉優ちゃんも弱いところを見せるのがたぶん好きじゃないだろうし、自分にすごく厳しい人だから似ていると思ったの。
松岡:確かにわたしも負けず嫌いだね! お互いに負けず嫌いだったから、あの試合のシーンが白熱したものになったのは確かだよね。
広瀬:普段の茉優ちゃんは声に出してワーッと笑うのに、詩暢になると目尻がクイッと上がった感じになっていて(笑)。
松岡:なってないよ~(笑)。
広瀬:笑っていても、目は殺されるんじゃないか、ぐらいの感じになってたよ。
松岡:ト書きにそう書いてあったからね。
広瀬:こういうふうにしてくるんだ? さっきまでの茉優ちゃんじゃない! スゴい! と思った。
松岡:いや、別に目尻を上げてみようなんて思ってないよ(笑)。
広瀬:本当に? そこに神経がいくんだと思っちゃった、わたし(笑)。
松岡:そこに神経がいっていたんだ? って、自分でもいま初めて気づいた。ただ、監督から「不敵な笑みをください」と言われたときは困りました。詩暢ちゃんは「不敵な笑み」をしようと思って笑っているわけじゃないし。わたしの中で自分の詩暢がバラバラになっちゃうから、そこは監督と話し合って詰めていきました。
広瀬すずはこの時代、この世界に求められている
Q:松岡さんが逆に広瀬さんに驚かされたことは?
松岡:いろいろあるけど、すずの最大の魅力はみんなから好かれるところ。絶対に嫌いになれない笑顔で笑うしね。でも、一方ではすごくストイックだし、4年くらい前にお姉ちゃんのアリスから「妹も(芸能活動を)始めたんだよ~」と聞いたときは「そうなんだ」って思っただけだけど、お姉ちゃんにくっついてデビューしたわけでは絶対にない。この時代が、この世界がすずを求めているんだなって今回共演して強く思った。すずにとって、この仕事は天職なんじゃないのかな。
広瀬:本当にそう思ってる?
松岡:本当よ! わたしも妹がいるから、そりゃ最初は妹ちゃんも始めたのねくらいに思ったけど、楽しいでしょ、仕事? お芝居好きでしょ?
広瀬:うん。
松岡:だから、呼ばれたんだと思うよ。
広瀬:その目!
松岡:えっ?
広瀬:好き! ありがとう(笑)!
松岡:何だよ~(笑)!
広瀬:嬉しい。お姉ちゃんがいるから、いまだにフワフワしているところがあるし、普通の生活をした方が楽になるなと思う瞬間も正直あるんだけど、負けず嫌いだから、お芝居がうまくできないことが精神的なバネになっているような気がする。周りの人から「アリスの妹」って言われ続けて、悔しい思いもずっとしてきたから、そう言われて本当に嬉しかった。
松岡:え~っと、いまは9時40分。
広瀬:一生忘れない。この日の9時40分を(笑)!
写真撮影のときも無邪気にじゃれ合っていた二人はとっても仲良しだが、映画や芝居の話になると一瞬にしてキリッとした女優の顔に。広瀬は憧れていた先輩の松岡を尊敬のまなざしで見つめ、松岡は広瀬に少し前の自分の姿を重ねていたのかもしれない。『ちはやふる -下の句-』には、千早と詩暢が乗り移った彼女たちの真剣勝負が焼きつけられている。本物の気迫と熱量だから、観る者は心を揺さぶられるのだ。
(C) 2016 映画「ちはやふる」製作委員会 (C) 末次由紀/講談社
映画『ちはやふる -下の句-』は4月29日より全国公開