『ヒメアノ~ル』濱田岳&ムロツヨシ 単独インタビュー
10年来の友情を生かした芝居
取材・文:那須千里 写真:尾鷲陽介
1990年代に「行け!稲中卓球部」でブームを巻き起こした漫画家・古谷実。『ヒミズ』(2011)に続いて二本目の実写映画化となる『ヒメアノ~ル』はギャグ路線からの転向後に描かれた一作で、『銀の匙 Silver Spoon』(2013)などの吉田恵輔監督がメガホンを取った。本作でサイコキラーの森田(森田剛)が引き起こす殺人に巻き込まれる平凡な清掃員の岡田と、その職場の先輩・安藤を演じた濱田岳とムロツヨシ。実は私生活でも気心の知れた仲だという二人が、劇中の岡田と安藤にも負けない友情トークを繰り広げた。
原作と役づくりの関係は? 濱田岳から名言飛び出す
Q:あらためて見るとお二人は何だか雰囲気が似ていますね。……あれ、濱田さんは浮かない顔ですが?
ムロツヨシ(以下、ムロ):年齢は一回り違いますからね(笑)。干支が一緒ですから。
濱田岳(以下、濱田):ふーん。
ムロ:ふーん、じゃないよ。僕とキミの話だよ!
濱田:(笑)
Q:濱田さんは今回、原作と脚本の両方を読んで現場に臨まれたそうですね。
濱田:原作を先に読みました。伊坂幸太郎さんの作品であったり、「釣りバカ日誌 ~新入社員 浜崎伝助~」(2015)であったり、僕は原作ものの作品に多く出させていただいているんですけど、原作はいつもガイドのような存在というか。台本に書かれていることのバックボーンを教えてくれるガイドとして参考にすることが多いです。
ムロ:「ガイド」っていうのは、いい言葉ですねえ。
濱田:でしょ? 使っちゃダメですよ。絶対によそで自分の言葉として言わないでくださいね!(笑)
ムロ:あ、バレた? 僕は逆に原作ものの経験は少なくて。どうしても「役者・ムロツヨシ」そのものがどこかで強く出てしまうんですよ。だから自分を消す作業として原作を読み返したりすることはありました。でも今回の場合は原作の安藤も、ものすごくキャラが立っているじゃないですか。
濱田:確かに。
ムロ:なので、それだけキャラの立った人にならなければならない、という使命感がありました。そこは原作を読んで「ガイド」にしていたところがありましたね。
濱田:……って、やめてくださいよ! 一瞬聞き流していたよ。危ない!
悲劇と喜劇が同居する古谷実ワールド
Q:年齢的にはムロさんの方が古谷さんの漫画はストライクな世代でしょうか。
ムロ:そうですね、稲中世代です。「行け!稲中卓球部」は読んでいました。その後、僕は舞台で喜劇をやるようになったんですけど、稲中の世界観が頭の中にずっとありますから。当時はまさかその後、古谷さんが「ヒメアノ~ル」のような世界を描くとは思ってもいなかったですけど、今になってみるとやっぱり笑いを生み出す人というのはその裏側に正反対の世界を持っているのかなとも思いますし、「ヒメアノ~ル」も悲劇と喜劇の繰り返しで、古谷さんだからこそ描けた世界観だと思います。
Q:今回演じられた安藤については、どんなところに惹かれましたか?
ムロ:やっぱりピュアなところですよねえ。他人が楽しく生活しているのを妬んでいるところもあるし、それを口にも出すし行動もするし、全部正直にものを言うところがすごいなと。僕なんかはそういう部分でウソをついたり、もっと上乗せしてきれい事を言いたくなっちゃうんですけど。
濱田:そういえば安藤さんって、嘘をついてないですね。でも僕の演じた岡田の目線からすると、安藤さんと会話をした瞬間から不幸が始まっていて……。
ムロ:そうなんだよね。安藤としゃべらなければ、岡田は森田と出会ってないんだよ!
濱田:岡田が安藤さんの妙な優しさに感銘を受けなければ、悲劇が起きることもなかったんですね。
森田剛も驚いたムロツヨシの処世術
Q:森田というキャラクターは常人には理解しづらいところがあるぶん、演じる側の負担も大きかったと思うのですが、森田剛さんとの共演はいかがでしたか?
濱田:森田と岡田が相対するのは大体暗いシーンだったので、そんなにキャッキャ騒げる感じでもなかったですけど、二人でゴルフの話をしたり、話せば優しいお兄ちゃんだったりして。ただ、ラストシーンの撮影のときに聞いたんですよね、今までひどいシーンをずっと撮ってきて気持ちが滅入ったりしないですか? って。そうしたら、役の森田のままの流れで「いや、滅入りますよ」って言われたときの、鳥肌といったら……! おお、何だかリアルで怖いなっていう。
ムロ:ゾッとするわけだ。
濱田:ゾッとしました。そんな森田さんだからこそ、僕もフィクションとして割り切れなくなったというか。それまで楽しくシーンを撮っていた彼女役の佐津川愛美さんのクライマックスでの変わり果てた姿はショッキングでしたし、それも森田さんの姿勢ありきでリアルにそういう気分になったという思いはすごくあります。
ムロ:僕は前にNHKの大河ドラマ「平清盛」(2012)で共演したときに縮めたはずの森田くんとの距離が、しばらく会わなかったことによってまた離れていたので、それをもう一度縮める作業はとても楽しかったですね! それこそ正直なんですよ、森田剛って。人間らしいし、僕にどんどん話しかけられて困っている顔を見るのも楽しみというか(笑)。そこまで距離を詰めて来る人はいないって森田くんにも言われましたから。
Q:ムロさんは相手に人見知りをされてめげることはありませんか?
ムロ:あんまり、ないですかねえ。もし本当に嫌われそうになったら、僕のかわいそうな生い立ちを話して同情を買うっていう……。
濱田:ずるいですよ、やり方が!(笑)
ムロ:すごいだろ! その切り札があるからぐいぐい踏み込んでいけるっていうところもある。そりゃあ嫌われたらショックですよ……。だからショックを受ける前に身の上話をするっていうね。
無言でも気まずくならない10年来の友情
Q:お二人はプライベートでの付き合いも長いそうですが、どういう関係なんですか?
ムロ:まだ濱田くんが10代のころ、『アヒルと鴨のコインロッカー』(2006)を撮った後に瑛太くんの紹介で知り合って。しばらく会わない時期もあるんですけど、久々に会ってもすぐにいつも通りの距離感に戻れるんですよ。お酒を飲んでいて、話をしなくても、多分無言で1時間一緒にいられると思う。
濱田:「間」が怖くないですよね、いつも。
ムロ:怖くないね。
濱田:だから今回は吉田監督が僕らのやりたい「間」を面白がって許してくださったというのが本当にありがたくて。イヤだと思われる監督もいると思うんですよ、僕ら2人の会話の「間」というのを。
ムロ:そうだよね。自分たちのやりたいことをやっているわけだからね。でもこれは恥ずかしがることもなく言えるんですけど、濱田くんの演技は本当に尊敬していて。彼は相手の言うことを聞いてそれにきちんと反応する。僕がどんなボールを投げてもキャッチしてくれるので、そういう俳優と一緒に芝居をできるのは楽しかったです。
濱田:僕らの関係を芝居に生かせたことが、今回ムロさんとがっつり二人で向き合って共演できた意味でもあったし、僕もとってもうれしかったですね。
12歳という年齢差がありながら、まったくそれを感じさせない二人。長年の信頼関係が作り出す空気の安定感は抜群で、トークでもムロがボケると濱田がしっかり拾ってツッコミを入れる絶妙な連携プレーを見せ、終始笑いが絶えなかった。この二人だからこそ成り立った友情のあり方は劇中でも笑いと涙の両方を誘う。ムロが体を張った安藤の奇抜なヘアスタイルと、原作とは違う映画ならではのラストも見ものだ。
(C) 2016「ヒメアノ~ル」製作委員会
映画『ヒメアノ~ル』は5月28日より全国公開