『日本で一番悪い奴ら』綾野剛&中村獅童&YOUNG DAIS&植野行雄&ピエール瀧 単独インタビュー
同じ土俵に上がったら、肩書なんて関係ない
取材・文:斉藤由紀子 写真:高野広美
『凶悪』の白石和彌監督が“日本警察史上最大の不祥事”といわれる「稲葉事件」を題材に描く最新作。強い正義感を持ちながらも違法捜査や薬物に手を染めていく北海道警察の刑事・諸星を綾野剛、諸星のスパイとなる暴力団幹部・黒岩を中村獅童、諸星を“おやじ”と慕う麻薬の運び屋・太郎をヒップホップ・アーティストの YOUNG DAIS、盗難車バイヤーのパキスタン人ラシードをお笑いコンビ・デニスの植野行雄、諸星の先輩刑事・村井をピエール瀧が熱演。劇中で最強の化学反応を起こした5人が作品をアツく語った。
モデルは実在の人物たち
Q:2002年に北海道警察で発覚した「稲葉事件」の関係者をモデルにしつつも、それぞれが非常に魅力的なキャラクターになっていましたね。
ピエール瀧(以下、ピエール):実在の人物なので、どこまでリアルにして、どこまでキャラ付けしたらいいのか、迷う部分や怖さがあったんです。それを白石監督が、「いいです、いいです、やっちゃってください」と角を丸めるように演出してくださったので、好きにやれたんですよね。
綾野剛(以下、綾野):そうですね。ただ、僕らが本当に好き勝手にやればいいかというと、そうではないと思うんです。どこまでもリアルにできたし、どこまでもふざけることもできた。その黄金比のようなバランスを、監督が信念を持って撮り続けていたところに意味があると思います。
中村獅童(以下、中村):僕はデフォルメするというよりも、黒岩という人を作り込んだりせずに、リアリティーのある人間として演じたつもりです。ヤクザだから恐ろしくやったわけではなく、現場の空気とか、綾野くんとのやりとりの中で生まれるものが大きかったですね。結果としては恐ろしく見えてしまったかもしれませんが。
YOUNG DAIS(以下、DAIS):僕が太郎として諸星に惹かれていっているのが、現実のこととしてリアルに感じたし、剛くんも僕の“おやじ”として撮影外でも接してくれたような気がしているんです。その空気感が、映画の中にも投影されていたと思います。
植野行雄(以下、植野):僕は初めて映画に出演させてもらったんですけど、萎縮してもしゃーないわ、陽気やけどいつキレるかわからん外国人を演じればいいんやなって、吹っ切って挑みました。うちの父親もそんな感じの人やったし(笑)。
綾野の即興が現場で炸裂!
Q:諸星がヤクザの事務所で初めて黒岩と対峙し、いきなりツバを吐くシーンで爆笑してしまったのですが、あれは綾野さんの即興だったとか。撮影現場はどんな雰囲気だったのでしょう?
中村:お互いの怒りが最高潮に達している場面なので、できあがったものは面白かったと思うんですけど、あのときはむしろ緊迫していましたね。現場も静まり返っていましたし。
綾野:僕はもう、必死でした。あれをなぜ自分がやることになったのか、あまり覚えていない。圧倒的に不利な状況だし、絶対に黒岩が怖いはずなんです。その前に先輩刑事の村井さんが「お前、柔道チャンピオンなんだから大丈夫だろ」って言いながらも明らかにヤバイと感じていて、それなのに自分一人で事務所に行かねばならず、応接室のドアが開く音にも過敏に反応してしまう。いざ出てきた黒岩は「はい、こんにちはー(ドスのきいた声)」って来るわけで。
中村:あれも台本にはないセリフなんだよね。
綾野:そうなんです。もう、ただ者じゃない。いつ撃たれてもおかしくない恐怖の中で、ブワーッと黒岩にたんかを切られたので、「クゥワーッ!」って気づいたらツバを吐いていた。猫の「シャーッ!」じゃないけど、自分を鼓舞するための威嚇方法ですよね。でも、微動だにしない黒岩に「やんのかコラー!」って言われて、後には引けないけどお茶を飲んじゃう(笑)。お茶は、監督から飲んでくださいって言われていたんですが、黒岩から目を離すとヤラレちゃいそうで、湯飲みを手で探して飲んだんです。
Q:諸星がスパイの太郎を飛び蹴りする場面も、あまりの迫力に驚きました。
綾野:あれは蹴りは入れていますけど、最後は押すようにはしていたんです。DAISくんとも話して、多少なりとも力は入れた方が反応しやすいということになって。でも、それなりに痛みはあったのではないかと思います。DAISくんは気丈に受けてくれていたけど……痛かった?
DAIS:いや、痛みを感じるよりも、気持ちが入って興奮している自分がいたので、まったく気にならなかったです。剛くんが終わるたびに「大丈夫だった?」って気にかけてくれて、痛いものも痛くなくなるというのもありますが(笑)。でも、本当にそれほどの痛みではなかったです。
Q:そして、諸星が暴れるたびにビックリ仰天するラシード(笑)。
綾野:行雄くんは、本当にビビっているのがわかるから、やりやすかったんです。だから、テストではやらずに本番でいきなりテーブルを蹴ったりしていました(笑)。
植野:そう、予測していないからシンプルにビビっていました。「思ってたんとちゃう! いきなり蹴りやがった!」とか(笑)。
獅童が行雄ちゃんにかけた言葉
Q:芸人の植野さんをはじめ、異業種の方々との共演は新鮮だったのでは?
綾野:確かに、それぞれが芸人さんやアーティストさん、歌舞伎役者さんなどの肩書がありますけど、じゃあ、僕だけが(映画の)役者なのかっていったら違うと思うんです。この脚本に惚れて、みんなで白石組に入ったのだから、そんな肩書なんて関係ないし、気にもしない。皆さんが同じ熱量で現場にいてくださって、教えてもらうことが大きかったです。
中村:まあ、長期のロケで一緒にいる時間が長かったというのも良かったんでしょうね。この4人(綾野・中村・DAIS・植野)が最初に揃ったとき、朝まで一緒に飲んだんです。それも役づくりに多少なりとも影響があったと思いますよ。
植野:そのときに、獅童さんが言ってくれたんですよ。……なんやったっけ?
一同:(爆笑)
ピエール:おい、覚えてんじゃないのかよ(笑)。
植野:ああ、伝えるのがもどかしい(苦笑)。「同じ土俵で思いっきりやれ、それで失敗したらもう一度撮ったらいい」って言ってくださったんです。自分がお笑い芸人だということを言い訳にするわけにはいかないと、改めて思いました。
DAIS:そこは、僕も悩んでいたことでもあるんです。「ミュージシャンの畑からこの現場に来させてもらっているので遠慮がある」って。でも、「それは必要ない」と獅童さんに言っていただいて胸がスッとなり、そんなことは関係なくやらせてもらいました。
マジメをこじらせると悪くなる
Q:警察組織ぐるみの違法捜査や人間のサガを克明に描く本作で、気づいたことなどはありましたか?
綾野:僕は諸星のモデルになった稲葉(圭昭)さんにお会いしたのですが、映画を観て涙が止まらなかったそうです。「今も北海道警察には感謝している」と言っていましたから、素直にこの国を良くしたいという思いを持っていた方のような気がします。ほかの誰よりも純粋だったから、こういうことになったのではないかと。
ピエール:マジメをこじらせると悪くなっちゃうんだよね……。この映画は、社会や組織の末端の人たちが大活躍しようと頑張る話なんですよ。そこだけは「スクール・ウォーズ」と同じ図式。向こうはラグビーという合法的なものですが、こっちは非合法なものをチョイスしてしまったという(笑)。
綾野:絶対に肯定できない犯罪を描いているのですが、それとは別に、この作品は人間賛歌だと思っているんです。組織の中でまっとうに生きようとした人間が、それゆえに大変な事態を招くのですが、それが非常に愉快で心地よくて、“日本で一番愛おしい奴ら”になる瞬間が多々ある。そこを観ていただけたら幸いです。
本作で猛々しさとユーモアが入り交じる“緩急自在”の演技を繰り広げた綾野。インタビュー中も役者の先輩であるピエールや中村を立て、後輩にあたるDAISと植野を気遣い、さらには自身の出演するCMの「斎藤さんゲーム」を再現してみせる瞬間もあったりと、緩急の効いたトークで場の流れを作っていた。そんな綾野とガチの絆を感じさせるキャスト陣との熱によって、とんでもなくヤバく、最高に刺激的な日本映画が誕生。刮目せよ!
(C) 2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会
映画『日本で一番悪い奴ら』は6月25日より全国公開