『MARS~ただ、君を愛してる~』窪田正孝 単独インタビュー
藤ヶ谷太輔とのキスシーンは葛藤だった!?
取材・文:須永貴子 写真:杉映貴子
映画、ドラマに途切れることなく撮影現場に立ち続ける若手実力派俳優、窪田正孝。彼がダブル主演の一人として挑んだのが、映画『MARS~ただ、君を愛してる~』だ。お互いに心に傷を抱えた樫野零(藤ヶ谷太輔)と麻生キラ(飯豊まりえ)の運命の出会いと恋を描いた連続ドラマを受け継ぐ映画版では、窪田が演じる桐島牧生が、零への純粋過ぎる愛をむき出しにする。藤ヶ谷が演じる零に対する「裏エース」ともいえるこの役を、窪田はどう演じたのか。撮影を振り返った。
グレーゾーンを意識した役づくり
Q:ドラマ版では零とキラの協力者に見えた牧生が、映画版では零への執着を爆発させます。その変化をどう演じましたか?
牧生の気持ちは零に向かった真っすぐな一本の線になっていたので、それをシンプルに出しました。ドラマのときは零に対する思いが強いからこそ、キラへの目線が切ないというか、彼女のことを思う目線に見えたと思うんです。それは映像のトリックですよね。
Q:ドラマで描かれた過去シーンにのせて牧生の心の声が語られることも、効果的なトリックです。そこで観客は、牧生の過去や、心の傷を初めて知るわけですが、窪田さんは牧生をどんな人物として捉えましたか?
彼はものすごくストレートで、変化球がないんです。「零に近づきたい」という動機で零と同じ高校に転入してきて、キラを零から引き離すためにキラに残酷なことをして、零の暴力性を引き出すためにキラを利用する。すべての目的は零であり、誰に賛同してもらえなくても構わないし、零に執着することで自分を壊していっていることにすら気づかない人間です。演じるときは、子どもの争いは大人にはない残酷さを帯びているので、彼らが未成年で未成熟だということは忘れないようにしました。それから、キラと零の二人に対する牧生、という図式で描かれてはいるけれど、牧生目線でも観てほしいという意識があったので、自分なりにグレーゾーンは作っていきました。
Q:グレーゾーンとは?
牧生の価値観は社会的には理解されないと思いますが、彼のなかでは正義です。だから、わかりやすい狂気ではなく、普通の顔をしているからこそ狂気に見えてしまうという芝居を意識しました。その辺りは、撮り方や編集でかなりカバーしていただいたと思います。
主人公は零でも牧生でもない
Q:牧生目線でも観てほしいと思った理由は、この作品が、零と牧生を演じる藤ヶ谷さんと窪田さんがダブル主演をしているからですか?
いえ、そういう意味ではなくて、むしろこの作品の軸はキラだと思っています。性別や世代を問わず、いろいろな方に観てほしい気持ちはすごくありますが、この作品を観る方は、やはり女性のほうが多いのかなと思うんです。ドラマが始まったときのキラは少女だったのですが、映画では、一人の女性として描かれています。零と離れている時間のもどかしさや、零と牧生が高ぶっていくほど板挟みになる苦しさなど、キラに感情移入できるスペースを、耶雲(哉治)監督と飯豊さんがしっかり作っていますし、飯豊さんからキラという人物への愛情を感じました。彼女が一番現場にいたし、監督からの指導も多かったそうです。
Q:窪田さんに監督からの指導はありましたか?
それが、特になかったんです。以前、飯豊さんと対談をさせていただいたときに、彼女と監督が闘ったという話を聞いて、「監督ってそんな人だったっけ?」と驚きました。
Q:闘いとは……?
芝居をする飯豊さんに、監督がカメラ横から「零はもういないんだよ!」と言っていたそうで。それを受けて、飯豊さんは「そんなのわかってるわよ!」と思いながら芝居をする。太輔くんに聞いたら、彼にもそういう指導はなかったらしいので、監督は揺れ動くキラを軸に見せるために、飯豊さんにそういう強めの演出をしたんだと思います。
牧生の矛盾が露呈したアクションシーン
Q:映画の見せ場の一つが、牧生と零が対決するアクションシーンです。床に倒れた状態から体幹がぶれず、片脚でスクっと立った美しい動きに、「さすがの身体能力……!」と感動しました。
そんなところをご覧に……(笑)。ありがとうございます(笑)。
Q:重力を感じさせない動きに、牧生の不気味さが表れていたと思います。ただこのシーンの牧生は、アクションとはいえやられっぱなしですよね。
はい。時にナイフを手にはしますが、ひたすら殴られたり首を絞められたりしていただけなんです。牧生の目的は、物理的にも心理的にもキラを追い詰めて、傷つけて、零の狂気を引き出すこと。殴り合いではないので、ケガなどにはそれほど気を使う必要はなかったけれど、後ろに何度もすっ飛ぶのがちょっと大変だったくらいですかね(笑)。
Q:牧生の人間性があらわになるシーンでもあります。
彼自身の矛盾が露呈したシーンだと思います。牧生は、「この世界には弱い人間、弱いくせに意気がっている人間、真に強い人間という、3種類の人間がいる」という考え方のもと、零のことを真に強い人間と崇拝している。「そういうけど、自分は何なの? ナイフを出しているじゃん。それって弱い人間なんじゃないの?」と牧生に対して誰もが思うかもしれませんが、彼は自分を正当化、美化しているんです。演じながら、彼は人との出会いに恵まれなかったんだなと考えました。間違いを指摘してくれる人がいなかったのか、いたかもしれないけれど聞き入れる耳を持っていないんだなと。そして、そこまで彼を孤独にしてしまったのはなんなのかな、と想像しましたね。
藤ヶ谷太輔とのキスシーンを振り返る
Q:この映画には、ドラマで話題を呼んだ、零と牧生の人工呼吸のシーンが回想シーンとして使われています。
「人工キッス」ですね(笑)。
Q:はい(笑)。今更ですが、改めて質問させてください。男同士の口づけということで話題になりましたが、芝居をするにあたって、役者にとって性別は実はあまり関係ないものだったりしますか?
そうなんですよねえ。アクション映画ならアクションシーンが花形であるように、ラブストーリーの花形はラブシーンなんですよね。取材でも必ずこのシーンの話になりますし。でもラブシーンもアクションシーンもすべては芝居の一つなので、余計なことは考えないようにしています。
Q:「芝居の一つ」という角度から、あのシーンに対してどう解釈して取り組みましたか?
僕の考えとしては、牧生はあそこで零に物理的に近づいてしまったことで、「もっと零の狂気に触れたい」と加速してしまったんだと思います。そういう意味で、二人の歯車が狂うきっかけになったシーン。つまり、映画のストーリー展開に繋がるシーンだと解釈して演じました。
Q:パンドラの箱を開けてしまった……!
でもやはり、友人の太輔くんとキスをするということに関しては、思うところはありましたけど、顔には出しません。そこは葛藤です(笑)。
Q:藤ヶ谷さんとは2011年のドラマ「美咲ナンバーワン!!」で初共演して以来、仲が良いそうですが、久々にがっつりお芝居をしてどんなことを思いましたか?
太輔くんはずっとKis-My-Ft2のメンバーとしてやってきて、仲間がいて、その中で刺激をし合っていると思います。いろいろな人に夢を与えている。多分そのことが、自信や責任感になって、それが芝居に反映されていると思います。役のこと、観られ方、現場でのコミュニケーションの取り方など、本当にものすごく考えられているんです。考えることを怠らない陰の努力こそが、彼の俳優としての魅力になっていると思いますし、自分にはできないことなので、すごいなあと思います。
自分が演じる牧生に関する解釈はもちろん、作品全体の受け取られ方、共演者について、役者としてのスタンスなど、何を質問されても躊躇することなく、真っすぐに語る窪田。それができるのは、普段から逃げず、そして怠けずに、そういったことに向き合っているから。藤ヶ谷のことを「ものすごく考えている」と言ったその言葉を、窪田にそのままお返ししたい。
(C) 劇場版「MARS~ただ、君を愛してる~」製作委員会 (C) 惣領冬実/講談社
『MARS~ただ、君を愛してる~』は全国公開中