『真田十勇士』中村勘九郎&加藤雅也 単独インタビュー
アニメやゲームっぽい今風の時代劇
取材・文:斉藤由紀子 写真:高野広美
堤幸彦監督が演出を手掛け、大ヒットを記録した舞台を映画化した『真田十勇士』。豊臣と徳川の最後の決戦“大坂の陣”を題材とした本作は、天下の名将と呼ばれながらも実は腰抜け(?)で心優しい真田幸村と、幸村を本物の名将にするべく9人の仲間と十勇士を結成した抜け忍の猿飛佐助の両者の絆と、真田軍の激闘を描くスペクタクル時代劇だ。舞台と同様に佐助を熱演した中村勘九郎と幸村にふんした加藤雅也が、撮影のウラ話をユーモアたっぷりに明かした。
まさかのアニメーションもある今風の演出
Q:2014年に話題となった舞台が、ついに映画としてよみがえりましたね。
中村勘九郎(以下、勘九郎):舞台をやっているときに、堤監督に「映画やりたい、やりましょうよ」って冗談で言っていたんです。そしたら、本当になっちゃいましたねえ。
加藤雅也(以下、加藤):舞台も映画も、勘九郎一座が暴れるさまは本当に面白い。映画は細かいところが見られるけど、舞台は寄りが見られないから、映画で細部をじっくりと見ていただきたいですね。
勘九郎:映画でも、雅也さん演じる幸村のキャラクターが本当にカワイイんです。そう思わせておくことで最後の壮絶なシーンにつながっていくのが、この作品の見どころですよね。実は撮影の中盤ぐらいに、「映画のパート2も作ろう」ってみんなで話していたんです。
加藤:そうそう。映画がヒットしたらだけど(笑)。
Q:映画の冒頭はまさかのアニメーション。ゲームやアニメの戦国モノをほうふつさせる演出でワクワクしました。
勘九郎:3時間半もの舞台を2時間くらいの映画にするわけですから、最初はどうするのかなと思っていたんです。舞台の前半にあたる部分をアニメーションにするって聞いたときは「なるほど」と思いましたね。アフレコにも挑戦させてもらいました。
加藤:さっきおっしゃっていたように、今回はアニメやゲームなど、今風の演出を堤さんが取り入れていらっしゃったような気はします。最後の合戦シーンも、ゲーム画面のようにカメラが僕たちの後ろから追ってくるんです。通常の撮影だと前からもカメラが受けるんだけど、今回はそれがない。僕らは攻めているんだけど顔が映らないから、カメラに映りたかったら後ろを向いて斬るしかないというね(笑)。
勘九郎:あー、そうですね。自分が斬って倒れた人たちの間から振り向いて顔を出す、とか(笑)。
加藤:そういった撮り方なので、お客さんも自分たちが真田軍と一緒に攻めているような感覚になれると思います。
大規模ロケ&セットも大幅スケールアップ
Q:ロケもあり、セットも大幅にスケールアップされましたが、映画ならではの動きを感じた部分といえば?
勘九郎:やっぱり、舞台ではできない馬のシーンじゃないですか。あと、立ち回りも舞台と違って、カメラの前で実際に刃を当てていかないといけない。エキストラさんが何百人もいて、そこに突っ込んでいくわけですから、恐怖心は感じましたね。
加藤:みんな走らされていたよね。ステージだと走ってもたかが知れているけど、ロケ現場だとかなりの距離を走るから。僕は馬に乗っていたからいいけど(笑)。
勘九郎:走りましたねえ。それも大人数で走るから、カットの音が聞こえないんですよ。笛もピーピー鳴らしてくれるんだけど聞こえなくて、無駄な長さを何度も走りました(苦笑)。
Q:セットもすごい規模でしたよね。
加藤:そうですよ。あのセット、NHK(の「真田丸」)に貸せばいいんじゃないかって、ずっと言っていたんです(笑)。
勘九郎:言っていましたねえ。半々でお金を出せばいいとか(笑)。
勘九郎がアドリブを入れるのは休むとき?
Q:実年齢は18歳の差がある勘九郎さんと雅也さんですが、芸歴は同じくらいなんだそうですね?
加藤:そう、2人ともデビューしてから28年くらいかな。勘九郎さんは大先輩ですよ。僕は勘九郎さんについていくだけですから。
勘九郎:もう、雅也さんはウソばっかりなんですよ。今回の映画の取材は、雅也さんの素の面白さをどれだけの人に伝えられるかが僕の課題だと思っています(笑)。
加藤:でもね、勘九郎さんをイジるのは危険なんですよ。だって、5歳の頃から舞台をやっている人だから、真面目にやらないとふっと足をすくわれる。舞台でアドリブなんかかまそうとしたらエライことになりますよ。
勘九郎:何を言っているんですか(笑)。雅也さんは舞台上で、突然ぶっこんできますからね。
加藤:いや、うかつにはやれないですよ。そもそも、勘九郎さんが舞台上でアドリブをやるときは休んでいるときだって、ほかの人から聞いていますからね。真剣に芝居をやっているときはアドリブを出さないらしいです。休んでいるときにバンバンしゃべるって、すごいですよ。そういう秘伝があるみたいで。
勘九郎:……次の舞台では何もしないようにしよう(笑)。
加藤:いやいや、僕らの感覚だと反対なんですよ。アドリブをやるというのは新たに働きかけることだから、脳がガーっと回転しているけど、勘九郎さんは逆。芸の深さが違うからね。
勘九郎:そんなこともないんですけどね。僕は常に全力です。休むなんてことはしません(笑)。
加藤:休むというのは、芸の力を抜いているのではなくて、呼吸をしているということらしいです。
勘九郎:くだらないことばかり話しているんですけどね(笑)。
「やれない」と言う役者などいない
Q:映画では一部のキャストが舞台版から変更になりましたが、撮影現場はいかがでしたか?
加藤:途中から入ってきた永山絢斗(根津甚八役)や荒井敦史(三好伊三役)とかは大変だったと思います。どうしても舞台のときの話になってしまいますからね。でも、十勇士の仲間は引き込んでやってくれる人たちばかりだから、仲良くなって、オフのときもみんなで遊びに行っていたみたいですよ。
勘九郎:クリスマスにね。十勇士のメンバーがほとんど集まって。
加藤:だいたい先陣を切るのは佐助なんですよ。僕は映画の幸村と同じく、夜空の月を見て淀殿を思うように、家で一人、勉強したりしていますから。
勘九郎:またまた、先輩だって嬉々として来てくれたじゃないですか(笑)。
加藤:あなたが電話をかけてきたからでしょ。勘九郎さんに呼ばれたら行かないわけにはいかないです(笑)。
Q:「嘘も突き通せば真実となる」というコピーが印象的な本作。芝居というのもある意味ウソでもあるので、お二人にとって実感のわく言葉なのでは?
加藤:役者って「やれますか?」ってオファーされて、「やれますよ」って答えて、本番までにできていたらそれでいいというところがあるんです。それがウソであっても、なんとかしてしまおうとするところはあるかもしれないですよね。
勘九郎:だから、役者に「やれますか?」って聞いちゃダメですよね。「やれない」と言う人はいないと思うから。
加藤:そう、例えばどんなに危険なアクションでも、「やる」って言って練習するしかない。
「雅也さんの素の面白さをどんどん伝えてください」と取材後にも念を押していた勘九郎。大人の余裕で勘九郎とジョークを飛ばし合っていた加藤。舞台と映画で共に戦い抜いた2人は、一緒にインタビューを受けることが楽しくて仕方がない様子で、苦楽を分かち合った仲間としての信頼感が言葉の端々から溢れ出ていた。本作の公開と合わせて再演される舞台「真田十勇士」も、彼らのアドリブ合戦や“あうんの呼吸”が絶妙な味付けとなるに違いない。
映画『真田十勇士』は9月22日より全国公開