『ジェイソン・ボーン』マット・デイモン 単独インタビュー
ジェイソン・ボーンはボクサーのように歩く!
取材・文:編集部・石神恵美子 写真:奥山智明
記憶を失った最強の暗殺者ジェイソン・ボーンが9年ぶりにカムバック! 続編製作の決定が報じられるや、映画ファンが沸き立った人気アクションシリーズ最新作『ジェイソン・ボーン』で、再びその男を演じたマット・デイモンが来日を果たし、本作にまつわるエピソードから休業宣言をしていた今後についてまで語った。
9年ぶりカムバックは“フルタイム”で働く感覚!
Q:ジェイソン・ボーンに戻ってきましたね! その理由を聞かせてください。
(シリーズ第2作、第3作を手掛けた)ポール・グリーングラス監督と続編をつくりたいという気持ちはずっとあって、定期的に話はしていたんだ。でも最終的な決め手は、道端で「続編を作らないのか」って声をかけてくれる人が多かったこと。とても光栄なことだと思ったし、続編をやろうという気にさせてくれたよ。
Q:どうして今なのでしょうか。前作から9年も経っていますよね。
第一に語るべきストーリーがなかったんだ。このシリーズがどうなるのか本当に誰にもわからなかった。本作の製作が決定してから、前作『ボーン・アルティメイタム』が作られた2007年頃と比べて、世の中がどう変わったかをリストアップしたんだ。どれだけ世界が変わったかを目の当たりにして、不安を抱いたよ。2007年はジョージ・ブッシュがまだ大統領をしていて、経済破綻が起きる前でもあった。ソーシャルメディアの会社が創成期だったけど、今では強大な力を持つ多国籍企業になっている。そうやってリストにすると、全ての問題がプライバシーVSセキュリティーというところに行きつくと思った。それこそが世界のどの国も直面している現代の問題だ。僕たちの人生はデジタル化し、テクノロジーは僕たちを取り巻く全てを変えていく。それらは2007年には語られることのなかったテーマだ。ジェイソン・ボーンというキャラクターを通して、世界が全く異なる景色になっていると気づいたんだ。
Q:久しぶりのジェイソン・ボーン役で難しかったことは?
歳を取ると、何でも難しくなるね(笑)。このシリーズ第1作に取り組み始めたときの20代後半だった頃と比べると、確実に体を鍛えるのがつらかったよ。ジェイソン・ボーンに見えるようにするため、フルタイムで仕事をしている感覚だった。でも楽しかったね。
Q:格闘はもちろん、語学も堪能なのがジェイソン・ボーンですよね。そんな彼を演じるのに身に付けたスキルで、誇りに思っているものはありますか。
演技経験は豊富でも、結局のところ「多芸は無芸」って感じなんだよね(笑)。でも唯一このシリーズをきっかけに始めて、今でも続けているものがあって、それがボクシングなんだ。1作目の撮影中に(メガホンを取った)ダグ・ライマン監督が、「ボーンはボクサーのように歩く」って言うんだ。「どういう意味?」って聞き返したら、ライマン監督は「この男の動きには無駄がなくて、均衡がとれているんだ。そういう風にジェイソン・ボーンを演じてほしい」と説明してくれた。それをきっかけに、撮影の6か月前からボクシングを始めたんだ。それまでボクシングなんて一度もしたことがなかったけど、とても役立っていると感じたね。良い運動になっているってだけじゃなくて、バランス感覚も変えてくれた。もちろん格闘シーンで役に立っているよ。この男を演じるのに最適なものこそ、ボクシングなんだ。
170台を衝突させたド派手カーアクション!
Q:激しいカーアクションには度肝を抜かれました! 何台くらいの車を破壊したんですか(笑)。
最終的に170台もの車をぺしゃんこにしたってことが判明したよ(笑)。かなり度を越えてるよね。なんでそんな大規模になったかというと、ラスベガス・ブールバード(大通り)で撮影できることになったからなんだ。アメリカでとても象徴的な通りだからね。実はスタッフたちがそのカーアクションをしたいと言ってきたときは、できっこないって思っていたんだよ。僕にはラスベガスでの撮影経験がかなりあったからね。それこそ彼らがやりたいって言いだしたカジノホテル・ベラージオの目の前は、『オーシャンズ11』のラストシーンを撮影したことがある場所だった。だからこの人たち本当にクレイジーだなって、許可なんか取れるはずないのにって思っていたんだ。でもその場所の許可が下りたことで、史上最大のことをやってやろうっていうことになって、ジェイソンは全開モードだったんだ。
Q:アリシア・ヴィキャンデルとトミー・リー・ジョーンズが新キャラに加わりましたが、いかがでしたか。
アリシアは作品に若さをもたらしてくれたし、トミー・リーは伝説の俳優だ。本質的に『ボーン』シリーズは放蕩息子が怒りと葛藤を感じながら戻ってきて、父親と対面するというストーリーだし、過去3作品も大筋はそうなっている。今回、トミー・リー演じるキャラとボーンの間には深い関わりがあることがわかる。根底を揺るがすような過去が判明して、報いを受けることになるんだ。
Q:世界各地を飛び回るのも、本シリーズの特徴ですよね。そういう意味で撮影はどうでしたか?
僕たちは実際にその地に行って撮影しているから、このシリーズはたくさんの旅行が伴うんだよね。それが楽しみでもある。世界のあらゆる場所に行けるから、この業界にいるなら絶対に旅行好きになるべきだね。今回はアメリカ、ヨーロッパ全土に加えて、カナリア諸島でも撮影したんだ。何が面白かったかって、僕を含めほとんどのスタッフがカナリア諸島に行ったことがなかったんだ。僕たちはいつもあちこちで仕事をしているから、僕たちの大半にとって新天地ってかなりレアなことなんだよ。だからワクワクしてたね。
2017年は休業!その後は監督デビューも視野
Q:ずばり続編の可能性は?
ポールがやりたいと思えば、もちろん僕もその気になるよ。でも彼はしばらくこのシリーズから離れて休みを取るだろうし、彼がまたこのシリーズに従事できるようになるまでに少なくとも1~2本はほかの映画をつくると思う。時間を与えないとね。
Q:マットさんご自身も休業するとおっしゃっていましたよね。
うん、来年から。2017年は休業するつもりだよ。
Q:それは俳優業だけですか。
ベン・アフレックと製作会社を経営しているから……その会社を通して、彼と一緒に映画を手掛けはすると思う。でも、俳優として2年間ぶっ続けに働いてきたから、休業中は家族と過ごすつもりさ。
Q:休業後の展望はあるんですか。
わからないね。その時になってどんな映画の話が来るか次第かな。どの監督と働きたいのか、何か僕にできることがあるのかとかで考えるよ。もしその時に、僕が考えている映画があれば、自分で監督するかもしれないし。だから、どうなることかな。
Q:働きたい監督は具体的にいますか。
偉大な監督はたくさんいるからね。でも、すでに素晴らしい監督たちと働けて幸せだったし。また同じ監督と働くのもいいと思っているよ。友達だからどうやって仕事をするかわかっているし、手っ取り早いからね。
Q:ベン・アフレック監督はどうでしょう。
ベンと一緒に働いてきたけど、いつも一番良い役を自分でやるんだよね。だから、ベンが良い役を僕たちにまわしてくれるなら考えてもいいかな(笑)。でも、ぜひとも彼と働きたいよ。
Q:最後に、長い付き合いになった『ジェイソン・ボーン』シリーズとは?
今になって振り返ってみると、このシリーズが僕のキャリアに与えた影響は計り知れない。本当に僕のキャリアを変えたと思う。だから、このシリーズとこのキャラクター、それからこのシリーズのために働いてくれた何千という多くの友人でありスタッフたちに感謝の気持ちでいっぱいだよ。僕の人生を本当に素敵なものに変えてくれた。このキャラクターを愛している。もしもう一度、このキャラクターをカムバックできる方法を僕らが見出せたら、戻ってくるよ。
印象的だったのは「続編は?」の問いに、軽いノリで即答しなかったマットの姿。今回のカムバックにもファンにとっては待ち遠しいほどの9年を要したわけだが、それは妥協したくなかったからこそなのだということを、彼の語り口からひしひしと感じた。先へ先へとやみくもに進むのではなく、家族とゆっくり過ごしたいと休業宣言したり、無理なくほど良い距離感で生涯向き合えるこの役に出会えたマットは、確実に味わい深い俳優としての地位を固めているように思えた。
映画『ジェイソン・ボーン』は10月7日より全国公開