『ボクの妻と結婚してください。』織田裕二&吉田羊 単独インタビュー
カットがかかっても手を離さない!空き時間も夫婦のまま
取材・文:浅見祥子 写真:奥山智明
余命宣告された放送作家・三村修治が考える人生最後の企画。それは大好きな妻の彩子がいつも笑顔でいられるよう、その結婚相手を探すことだった……。自身も放送作家の樋口卓治による小説を『阪急電車 片道15分の奇跡』の三宅喜重監督が映画化した本作で、お互いを心から思い合う夫婦を演じた織田裕二と吉田羊が撮影を振り返り、結婚相手に求めるもの、理想の夫婦について語った。
まさにドンピシャだった企画
Q:織田さんは『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』以来4年ぶりの主演映画となりましたね。
織田裕二(以下、織田):『踊る大捜査線』シリーズはずっと続いた作品で思い入れも強く、次にやる映画にはどうしても力が入ってしまって。そんなときにこの映画の台本をいただき、まさにこれです! とドンピシャでした。妻の新しい旦那を探すって突拍子もない話のようで、意外とその結論に違和感がなくて。放送作家というクリエイティブな仕事をしていて自分の死後をリアルにシミュレートしたら、そうなるかもしれないなと。
Q:修治の行動にはすんなり寄り添えたわけですね?
織田:演じる上で、修治の心情に違和感はありませんでした。確かに最初は驚くんです。でも彼は死を前にして初めて、自分が幸せであることに気づくんですよね。そもそも男女って笑顔に惹(ひ)かれたり、笑いのツボや感性が同じことに何かを感じたりして恋愛が始まりますよね。それで夫婦になって、食べ物の好みなど共有できるツボや感性を積み重ねると、恋愛感情がなくなってもよきパートナーとしての信頼が生まれる。修治の場合、余命宣告をきっかけに埋もれていた恋愛感情を思い出したんでしょうね。その大好きな妻のために必死になってできることを考え、周りの人間を巻き込んで行動を起こした。それは十分に理解できることでした。こんなにいい人ばっかり出てきて大丈夫か!? と思ったりしましたけど(笑)。
カットがかかっても手を離さない
Q:吉田さん、織田さんとの共演はいかがでしたか?
吉田羊(以下、吉田):わたしはどんな芝居でも演じられる方の人柄がにじむものだと常々思っています。これまで織田さんが演じてこられたのは真っ直ぐで一生懸命で不器用、でもその不器用さがかっこいいという役でしたよね。きっと織田さん自身もそういう方だろうと思っていたら、やっぱりその通りの方でした(笑)。共演していてこれだけ安心でき、信頼できる方ってなかなかいません。わたし自身は役をつくり込むというより大枠を感覚で捉えて撮影現場に入り、あとは監督や共演者の方とつくり上げます。そういう意味でも織田さんの演じる修治に助けていただきました。
織田:例えば病気の人を見舞って手を握ってあげると、最初は冷たいけど、こちらの手のぬくもりが伝わって次第に表情が和らぎますよね。今回僕の役は病人の側で、手を握ってもらったとき、羊さんの手のぬくもりがじわ~っと伝わりました。元気な人のエネルギーを感じ「うれしい」と実感できた。それで羊さんはカットがかかって「はい終わり!」ではなく、こちらの気持ちがある程度落ち着くまでちゃんと付き合ってくれた。それでいて普段は、お互いの距離感を適正な位置に保ってくれるんですよね。僕は現場ではずっと修治でいたいんです。待ち時間には一応、織田裕二として会話をするわけですが、そこに例えばプライベートに突っ込んだ質問をされたりすると完全に織田裕二に戻ってしまう。でも羊さんはいつでも修治でいられるような心配りをしてくれました。ご自身も現場では彩子でいたいのかなって。
吉田:そうですね。織田さんがずっと修治でいてくださったからこそ、わたしもずっと彩子でいられました。カットがかかっても手を離さなかったのもそうですが、お互いにちゃんと役柄として心で会話できていた証拠かなと。同じ思いでいられたのは大きかったです。
織田:本当に、何度でも共演したい方ですね。
吉田:おぉ~!(笑)
男は小爆発なら受け止められる!
Q:結婚相手としての修治や彩子をどう思いますか?
吉田:わたし自身も人生を面白がって、世の中の出来事を楽しみに変換して生きていきたいと思っているので、そこは深く共感できます。ああいう人と結婚したら毎日笑っていられるだろうし。周りが見えていないところもあるかもしれませんが、そういう人を選んだ彩子さんもきっと同じような感覚で生きていると思うんです。そういう人を選んだ自分の人生すらも面白がっているところがあるんじゃないかと。
織田:彩子みたいな奥さんがいたら最強ですよね。
吉田:最強ですね。
織田:修治は自分がやりたいことを好き勝手にやっているけど、息子はちゃんといい子に育って。奥さんのおかげとしか言いようがないでしょう?(笑) 家族の理想形ですよね。奥さんのガス抜きをしてあげなくちゃって思うけど。
吉田:でも彩子さんには息子がいますからね!
織田:きっと上手にストレスを消化しているんですね。小爆発をして、言うべきことを言ってくれるし。男って小爆発なら受け止められるけどある日突然、ど~ん! と大きな爆弾を落とされると、もう帰ってこないかも。
吉田:致命傷になるんですね(笑)。
Q:結婚について考えましたか?
吉田:ああ……そうですね、もしわたしが結婚できるとすれば(笑)、お互いに愛があるのを大前提として、リスペクトし合える関係でいたい。恋愛感情というものは時間をかければ情に変わりますけど……。
織田:一般論としてですよね、あくまでも。
吉田:(笑)。自分にないものを持っていたり、すごいなと思えるものが一つでもあれば尊敬の念は消えないだろうし、夫婦としていい関係を続けられるのかなと。彩子さんにとっては彼が世の中を面白がって生きているところが大事で、それに共鳴してくれていたのを修治さんはよしとしていたでしょうから、理想的な結婚像ですよね。
一生分以上の涙を流した!
Q:完成した映画を観てどうでしたか?
吉田:結婚したいなと思いました。独身の方には結婚っていいものだなと思っていただきたいですし、既婚の皆さんにはお花の一つでも買って帰って、今日観た映画の話でもしていただければ。
織田:お団子の方がいいんじゃないですか?
吉田:お団子でもいいです(笑)。久しぶりにゆっくり話でもしてみようかと思っていただくきっかけになるような、愛にあふれた映画です。登場人物がそれぞれの愛のカタチで修治さんの思いに応える物語でもあるので、この愛に触れて心が震えないわけがないなと。わたし自身がぼろ泣きでした。わたしって寒い奴で、自分の出演作でよくガン泣きするんです。演じていたときの気持ちがフラッシュバックして、あのときは悲しかったな~と思うと、わっと泣いちゃって。
織田:僕は一昨日見直しました。観るのは3度目ですが、毎回泣く場所が変わるんですよね。こないだはもうボロボロで、泣く箇所が増えていました。実は台本には一か所だけ修治が泣くと書かれたシーンがあったんです。でもその前のシーンで、恥ずかしながらリハーサル中からぼろ泣きでセリフが言えなくなっちゃって。僕自身は昭和の人間で「男は泣くな!」と教えられ、普段はあまり泣けないのに。今までの作品でも泣いているものってほとんどないのですが、今回の撮影で一生分以上の涙を流した気がします。そうして撮影しながらデトックス効果というか、自分がどんどん清らかになる感覚がありました。そんな撮影は初めてでしたが、観客の方も後半は全シーン泣けちゃうかも。観る人にもデトックス効果があるかもしれません!
先に来た吉田が撮影をしていると、スーツ姿の織田が笑顔でさっそうと現れた。すると一瞬で和やかな空気が生まれ、インタビュー中もそれが続いた。織田は熱を込めて冗舌に語り、無邪気で熱いという画面から伝わる印象そのまんま。そんな織田の話にじっくりと耳を傾け、自分に質問が向けられるとぴしっとした答えを返す吉田は、控えめでありながら冷静に的確にその場を見据えているように見える。この距離感は映画のなかの修治と彩子とは異なるけれど、映画のなかの二人と同じように絶妙なバランスを保っていた。
映画『ボクの妻と結婚してください。』は11月5日より全国公開