『RANMARU 神の舌を持つ男』向井理&木村文乃&佐藤二朗 単独インタビュー
堤さんだから思い付いた、堤さんしかやろうと思わない世界
取材・文:高山亜紀 写真:杉映貴子
絶対舌感という特殊能力を持ち、証拠品を舐めることで、さまざまな温泉地の難事件を解決してきた朝永蘭丸(ともながらんまる)。そして、流浪の古物商、甕棺墓光(かめかんぼひかる)と謎の男、宮沢寛治(みやざわかんじ)。堤幸彦ワールド炸裂の破天荒な世界が話題のドラマ「神の舌を持つ男」が今度は映画に。新たな温泉場でまたも怪事件に巻き込まれる3人! 主演の向井理と共演の木村文乃、佐藤二朗が他では味わえない堤作品ならではの魅力、そして難しさについて、胸中を赤裸々に語り合った。
堤作品のなかでもさらに特殊な世界観
Q:堤監督、構想20年のアイデアだそうですが、最初に「神の舌を持つ男」の企画を聞いた時の感想は?
向井理(以下、向井):意味がわからなかったというのが率直な感想ですね(笑)。いままでやったことのないものだったので、どういうものになるのかわからない。だけど、面白そうという期待値の方が大きかったです。
佐藤二朗(以下、佐藤):僕は割と前に堤さんから「こういうやつをやりたい」と話は聞いていたんです。ただ、飲みの席だったし、堤さんはあんまり飲まない方なので、失礼ですが、ちょっとお酔いになっているのかしらと思っていた。そしたら、ドラマも映画も実現しちゃった。作品としては一言、破天荒! 堤さんだから思い付いた、堤さんしかやろうと思わない世界(笑)。こんな荒唐無稽(むけい)な堤号という船には乗らないわけにはいきません。
木村文乃(以下、木村):わたしはこの作品の前に『イニシエーション・ラブ』で初めて堤さんとお仕事させてもらって、「次もご一緒したい」という気持ちがすごく強かったんです。とはいえこの作品に関しては前とは真逆の役柄だったので、「なんでわたし?」と理解できなくて「やります」って言うまで、時間がかかりました(笑)。
Q:今回は劇場版ですが、ドラマと違って、意識したことはありましたか?
向井:連ドラで関係性は出来上っていたので、改めて何かすることもなかったですね。撮影も連ドラが終わって、2週間弱くらいで入ったこともあり、連ドラは10話までだったので、劇場版はまるで11、12話目を撮っているような感覚でした。
佐藤:仕掛けがドラマよりは規模が大きくなっているので、台本を見て、「3人とも無事で終われたらいいな」という思いはありました(笑)。大変なスケジュールでしたが、ドラマと映画の間があまり空かなかったことがよかったです。勢いで駆け抜けました。
木村:そうですね。逆に間が空いていたら、しんどかったと思います。堤さんの作るもののなかでも、今回の「神の舌を持つ男」の世界観はさらに特殊なんです。オールロケだし、撮影に使う時間もそう。その感じに体が慣れているうちにできた方がいいんです。深夜に出発して、車中泊で次の現場へというのはなかなか続けられないから(苦笑)。
佐藤:体がそういうモードになっていたよね。その後、別の作品の現場で「朝7時集合」って言われても、「そんなゆっくりでいいの?」っていうくらい、体が完全に麻痺(まひ)してた(笑)。
向井:単純に移動時間が長いんです。トレンディードラマとかだったら、表参道とか、キラキラしたところで撮れますけど、僕らが撮影するのは山奥。星はキラキラしていますが、あとは真っ暗ですから(笑)。
堤監督のドSエピソード
Q:これまでの堤作品と比べても大変そうですね。
向井:やはり、時間的なことが一番ですね。無茶ぶりということなら、木村さんじゃないでしょうか。
佐藤:ホントに木村さんはいろいろやらされてたね(笑)。
木村:リオデジャネイロ(ギャグ)っていうのも、やらされました。「一周回って、古いのが面白い」って言われたんですけど、そんなに古くないと思うんですが、大丈夫でしょうか(笑)。
佐藤:木村さんは若いから、元ネタを知らないことが多いんです。ドラマ版では歌手・吉川晃司さんの「モニカ」の振りまねをやらされたんですが、吉川さんが歌っているものを見たことがない。でも、それが逆に面白いのかもしれませんが。
木村:8割、台本には書いてないことです。ドラマで、丸ちゃん(蘭丸の愛称)に証拠品を舐めさせるために、わたしが踊って、相手の気をそらすというシーンがあったんですが、監督から、突然、「踊って」と言われたんです。いきなりだったので、なぜ踊るのかもわからず、途中から、「あ、こっちに目を向けさせるためなんだ」って、やりながら気付いた。悔しくて、「早めに言ってくれてたら、いろんなバリエーションを出せました」と監督に言ったら、「そのストイックさより、その場で生まれてくる、ちょっと焦ってる感じがいい」って。
我儘ボディVS奔放な裸体
Q:向井さんは相当にいろんなものを舐めていますが、実際、舐めてるんですか?
向井:ドラマの序盤では舐めてなかったんですが、4、5話あたりから、ほぼ全部、舐めるようになりました。面倒くさいし、その方がリアリティーもあるので。「さすがにちょっと」というものは事前にスタッフの方から「舐めないでください」って言われるんです。映画では岩肌などが危険だからって、止められました。これまで、鍵、刀、ドライバー……いろんなものを舐めました。
Q:蘭丸は“伝説の三助(公衆浴場であかすりや髪すきなどを行う職業)”の孫ということで三助に関してはトレーニング的なことはあったんですか?
向井:あると思いますか(笑)? 振り付けの方が振りを付けてくれたものはあります。タイトルバックも振りを付けてもらっていますが、ドラマではスーツを着て踊っていたところが劇場版ではフラメンコになっています。これもその場で、踊らされました。なかなかシュールな画(え)になっていると思います。
木村:向井さんはスタイルがいいから、衣装がとても似合っていたんですが、実は足が長すぎて、丈がちょっと足りてないんですよ。そのつんつるてんさが丸ちゃんっぽくて、かわいかったです。
Q:衣装といえば、丸ちゃん、寛治のふんどし姿は劇場版でも見られますね。
佐藤:僕の「怠惰な肉体」「熟れた果実」のことですね。最近はドラマの公式Twitterで「我儘ボディ」という新しいワードが生まれました。映画でも、僕の我儘ボディは健在です。わがままなままです。
向井:今思い出したんですが、実は僕、昔、女性誌「anan」の特集で、ヌードをやったときに「奔放な裸体」って書かれたんですよ。それがちょうど『BECK』の撮影中で、みんなで飲みに行ったら、堤監督がコンビニで雑誌を買い占めて、飲み屋の窓枠という窓枠にそのページを開けて置くという暴挙に出ました(笑)。
佐藤:堤さんはプライベートでも完全にいたずら好きの子供。ダジャレに突っ込むと、まあ、うれしそうな顔をするんです。まるで小学生の男子みたいな。還暦のおっさんなのに(笑)。
向井:いつも思うんですが、堤さんって、楽しませるとか、こうやったら、面白いんじゃないかってことに常にアンテナを張ってらっしゃる方ですよね。この作品だって、本当にいい意味で、ふざけきっています。
一見、ふざけて見えながらも日本の心が詰まっている
Q:最後に、この映画を楽しむ注目ポイントを教えてください。
向井:一見、ふざけて見えますが、脚本家の櫻井(武晴)さんは大まじめで、どこから着想を得たのか、すごくトリッキーなことがネタとして、ちりばめられているんです。そこを回収して、整合性を取るのがとても難しかった。撮りながらも、「このセリフを入れよう」「そこで、あれを入れればつながる」とずっと話し合っていました。ちゃんとした伏線がギャグの陰から見え隠れしているところなど、僕としては、実に骨太な作品でもあると思ってます。
佐藤:映画の方が仕掛けも大きくなってるし、ドラマ以上に破天荒なことになっています。堤監督が本当にやりたい放題、演出している世界。この作品はそれが特に突出していると思うので、その規格外さをぜひ観ていただきたいですね。
木村:今回は京都でもロケしたんですが、美山は日本の原風景的なものを大切に保存している地域で、監督はわたしたちとは別に後で実景を撮りに出掛けるほど、力を入れていました。緑が美しくて、冬に公開なのに夏感が強めの画ではありますが、日本の心もちゃんと詰まっている作品だと思いますので、エンドロールまで立ち上がらず、最後までご覧ください。
撮影当日もネタになったギャグについて、向井が質問し、佐藤が答え、その横で木村がクスクス笑っているという仲の良さを見せていた3人。過酷なスケジュールの撮影現場の空気もこんな風に和らげていたに違いない。大変なのに大変さをあまり感じさせない、ふざけきった、ゆるゆるな世界観こそ本作の魅力。同じ堤監督の「トリ○○」は意識しないと言っていた3人だが、同様に息の長い作品になることを期待したい。
映画『RANMARU 神の舌を持つ男』は12月3日より全国公開