『キセキ -あの日のソビト-』松坂桃李&菅田将暉 単独インタビュー
無言でも成立する男兄弟ならではの関係
取材・文:高山亜紀 写真:尾藤能暢
厳しい父親の猛反対を押し切って音楽の道に進んだ兄と、父の想いを受け、歯医者を目指しながら音楽の楽しさに触れ、二つの夢の間で揺れる弟を、今人気絶頂の松坂桃李と菅田将暉がダブル主演。その音楽は誰もが知っているのに、メンバー全員が歯医者という以外はほとんど誰も何も知らないGReeeeN。そんな彼らの大ヒットソング「キセキ」誕生の裏には、兄と弟の知られざる強い絆の物語が存在した。松坂と菅田が、二人の生き方や自らの姉妹、兄弟について語った。
演じていて、勇気をもらえるストーリー
Q:二人はこれまで、GReeeeNにはどんなイメージがありましたか?
松坂桃李(以下、松坂):学生のときに「ROOKIES ルーキーズ」というドラマが放送されていて、その主題歌「キセキ」が僕らの世代で大流行していたんです。その世代なら、誰でも知っている。それほど有名で、自分ももちろん聞いていました。何回でもリピートして聞けるほど、気持ちのいい曲で、しかもGReeeeNさんはどの曲もそうなんです。今回、作る側に立ってみたときに感じたことは、すごいことをやっているんだけど、あからさまに「すごいでしょ!」というのをアピールしてくるわけじゃなく、どこか隠しているんですよ。すごいことをこっそりやっているからこそ、僕らみたいな聞く側にものすごく印象に残るし、ストレートに気持ちが伝わってくるんだなと思いました。
菅田将暉(以下、菅田):僕も、もちろん聞いていました。まさに世代といっても問題ないです。「ROOKIES ルーキーズ」の「キセキ」然り、ほかの曲でいえば、「道」「愛唄」など。今回はレコーディングがあったので、曲を初めてちゃんと聞いたんです。これまでは「キセキ」のメロディーとかをざっくりでしか、聞いていなかったんですが、歌うために、曲の音楽的構成みたいなものをちゃんと知ってみると、かなりいかついことをやっているんですよね。なんか、あの青春感のある曲の裏側にすごく音楽力があって、結構かましている。そこが同性として、かっこいいなと思いました。
Q:GReeeeNの「キセキ」誕生秘話を台本で読んだ感想はどうでしたか?
松坂:台本を読んでみると、彼らの中では、さまざまな紆余曲折があって、だから、音楽に対する熱い思いがある。それがしっかりと曲に乗っているから、GReeeeNさんの曲はちゃんと心に伝わってくるんだなと改めて思いました。二人のお話を聞いてみると、さらによくわかるんです。振り返って、ひもといてみると、「そういうことだったのか」といろいろと納得するんですよね。
菅田:JINさんとHIDEさんにお会いして思ったのは、二人は、まさに二兎追うものが二兎とも得ている。勇気と可能性を感じます。人間のすごさですよね。そこには、家族の支えと兄弟の愛と仲間たちという、人と人との絆がちゃんとあったからこそ。僕なんか演じながら、すごく勇気をもらいました。
実弟にメロメロと菅田が告白
Q:弟の才能を認めて、自分は裏方に回る兄のジン。一方の弟ヒデは兄の破天荒な生き方を反面教師に、音楽だけでなく家族のためにも生きようとする。二人の対照的な生き方をどう思いましたか?
松坂:かっこいいです。自分がこうしたいという目標はあったんですけど、自分の中で、もう一つ違う正解を見つけ出したというか。自分が表に立って音楽でやりたかったけれど、そうではなく、弟の方に才能があるんだったら、じゃあ、裏方に回ってもいいんじゃないかと思う。それって、結構勇気がいることだと思うけれど、決してあきらめではない。妥協でもないんです。やっぱり音楽が好きだからこそ、どこかで音楽に携わっていたい。自分の中でちゃんと折り合いをつけ、もう一つの選択肢を自分で作り出して、自分でこじ開けて、自分が今いられる、胸を張って言える正解を自分の力で導き出したということだと思うんです。それは男から見ても、かっこいいなと思います。
菅田:両方ともわかりますね。僕、最初は映画を観て、桃李くんの演じるジンに共感したんですよ。僕も長男で、おやじが厳しかったので、劇中の父親とのけんかの場面もすごくよくわかる。一方で、弟ヒデの視野が広くて、何が起こっていて、何をしなきゃいけないかがわかるからこその苦悩。自分の好きなものもわかっているけど、自分がやらなきゃならないことや、そういう幸せもちゃんと知っているからこその揺れる気持ち。それもすごくよくわかって、本当に人間くさいなと思いました。だからこそ、描ける音楽がGReeeeNさん独自のもので、多くの人に伝わるんだと思います。
Q:とくに話をしなくても通じ合っている男同士ならではの兄弟の関係性が、印象的に描かれていました。
松坂:なんか無言でも成立する。久しぶりに会っても、その距離感になれる。お互いがお互いに何を言わなくてもわかるような目線、そういう空気感というのは、僕には姉と妹しかいないので、経験したことがないから、この兄弟の設定でやっている時間は好きでしたね。
菅田:うちの兄弟は、途中から僕が一人上京して家を出たので、ある種、JINさんと似た立場なんです。劇中、ヒデがジンに「ちょっとかっこよくアレンジしてよ」って自分のデモCDを渡して、甘えるところがあるんですが、あのときのジンの気持ち、すごくよくわかる。「いやいや、こっちはプロなんだから」となりながら、結果的にやってあげる。心の中では、うれしいんですよ。僕は今、弟と一緒に住んでいるんですけど、僕のクローゼットを「ご自由にどうぞ」っていうシステムにしているんです。朝、寝ていたりすると、扉が開いて、弟が服を選んでいる。その瞬間にパッと、目が合ったりしたときの感じ。こっちはそんな笑顔にしてはいられないけど、ちょっとうれしいんです。
松坂:そういうの、なんかいいね。
菅田:かわいいんですよ。それに加えて、いいところがあると、より伸ばしたくなる感じ。そういうのは、すごくよくわかりますね。
二人にとってのソビトは山田孝之!
Q:GReeeeNオリジナルの「ソビト」という言葉を聞いて、思い浮かぶ人は二人にとって誰でしょうか?
松坂:いい言葉ですよね。自由に新しいことに挑戦していっている人。
菅田:山田孝之さんじゃないですか。ソビト感ある人って。あの人、常に面白いことしか考えてないもん。
松坂:あの人はソビトですね。ソビトというのは、どの方向に対しても真剣にやるからこそ、自由に楽しいことをやっていける人ということでもあると思うんです。そういう意味では、孝之さんだよね。もう解散しちゃったけど、歌も出したりしていたよね。やっぱり僕らから見ても、孝之さんがやっていることには、毎回「おお、そういうこともやるのか」って、刺激になります。
菅田:松本人志さんとかも、そうじゃないですか。「HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル」とか、ヤバいですよ。
松坂:基本、攻めている人だよね。
Q:二人とも今回は新しいチャレンジでしたけど、そういう意味では、お二人もソビトですね。
松坂:この世界にいる人は誰でも、だいたいそうだと思うんですが、自分自身もソビトであり続けたいと思っています。
菅田:ソビトの表記が二つあるのが、好きですね。空人と素人。何かの素であり、空っていう大衆性、みんなに共通しているもの。その両方がないとだめなんだと思います。
Q:次、また何かやってみたいと思っている新しいことなど、何か計画はありますか?
松坂:今年はいろいろと、やれればいいなと思います。まあ、本当にどの作品に関しても、全く同じことをやるということはないので、どれも新しいといえば新しいですけど、より自分が想像つかないようなものをやっていきたいです。その方が自分でもワクワクしますから。
菅田:いっぱいありますね。今年も来年もその次の年も。常に考え続けます。仕事だけでなく仕事以外でもやったことのないことは、とりあえず全部やってやろうという気持ちです。
弟の才能を認め、見守る兄ジンと兄を尊敬し、憧れ続ける弟ヒデ。実際の二人の間には劇中の兄弟と変わらない、自然な空気が流れていた。誰に対してもニュートラルな姿勢で受け入れ態勢の松坂と、自然体でいながらちゃんと上を立てることを忘れない実は体育会系の菅田。対照的に見えて実は共通点もいっぱいあるらしく、取材の合間もずっと話し込んでいた。こんな美しい兄弟がいたら、それこそ奇跡です。
ヘアメイク:AZUMA@MONDO-artist(W) スタイリスト:伊藤省吾(sitor)
(C) 2017「キセキ -あの日のソビト-」製作委員会
映画『キセキ -あの日のソビト-』は1月28日より全国公開