『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』ティム・バートン監督 単独インタビュー
変わっていることは自分自身の一部
取材・文:編集部・石神恵美子 写真:日吉永遠
ティム・バートン監督が、古い写真のコレクションからつむがれたベストセラー小説「ハヤブサが守る家」を映画化した本作。お城のような屋敷に住む奇妙なこどもたちと出会った少年ジェイクが、彼らと心を通わせていく中で自らの宿命を知り、その屋敷に忍び寄る脅威に立ち向かっていく姿を描いたファンタジーアドベンチャーだ。来日したバートン監督は、いかに本作の“奇妙なこどもたち”に自分自身を重ね合わせたか、「変わっている」と言われ続けた過去を振り返りつつ、本作に込めた思いを存分に語った。
“変なヤツ”とレッテルを貼られた過去
Q:いかにも“ティム・バートンっぽい”原作ですが、本作をつくるまえからこの原作をご存じだったのでしょうか?
知らなかったんだ。でも、一度目にしたらすぐに好きになったよ。古い写真のコレクションから物語をつむぐというアイデアがすごく気に入ったね。
Q:原作から大事にしようと思ったもの、一方で映画のために変えたことはありますか?
ストーリーの基になって、原作の本にも載っている写真たちは、もちろん動きのないものだ。でも映画は違って、動きがある。そこで主人公のジェイクと惹かれ合うヒロインのエマと、ほかのキャラクター・オリーヴの能力を入れ替えたんだ。(※映画でエマは空中浮揚能力を持ち、オリーヴは指先から火を放つ能力を持つ)ジェイクとの関係が、空を漂うキャラクターとのほうが、より詩的で映画的になると思ったからね。そういう変更はしたけど、基本的には原作の精神に忠実にしたつもりだ。
Q:こどもたちの“奇妙さ”が良かったです。今作には、監督ご自身の体験がかなり反映されているように思いました。
もちろんだよ。主人公のジェイクはどこか世間になじめず、孤独を感じている。そういった感覚は僕自身が強く持っていたものだ。そういう意味でジェイクに自分自身を重ね合わせていたよ。
Q:「怪獣映画が好きだから、“変なヤツ”とレッテルを貼られた」という過去を思い出したとおっしゃっていましたね。
そうなんだ。僕は自分のことを変だなんて思ったことはなかった。でも他の人は僕のことをそう思っていた。そのことがより一層、僕に孤独を感じさせたし、人々から隔てられているんだと感じさせた。人から変わっていると言われても、自分では変だなんて思わないわけだからね。でも人々がずっとそう言い続けるもんだから、次第に僕自身も変なんだなって感じるようになったりしたけど(笑)。それってたぶん、ほとんどの人が経験することなんだなって、今になって強くそう思うよ。
Q:彼らの奇妙さはスーパーパワーなんかじゃなくて、彼らの一部にすぎないという監督の言葉に納得しました。昨今流行しているスーパーヒーローと違って、彼らはある意味でアンチヒーロー的だとも言っていましたよね。
まさにそれ! 僕がこの映画をつくろうと思ったワケはそれなんだよ! この映画で興味深いのは、彼らには奇妙な力があるけど、でも根本的にはただの人間だ。だから僕は彼らのことが好きなんだ。その力っていうのは、彼らが何者であるかということを示す一部にすぎないんだ。多くの人が「自分は変なのかも」って不安を感じていたりするけれど、「変でもいいんだよ」っていうことを伝えたかった。私の場合、他の人が自分のことをどう捉えているかというのを受け止めるのに、とても長くかかった。誰にも変なところはあるんだって思えるようになったら、変であることがいけないことだと思わなくなった。おかしいなと思うのは、誰かに「変だ、奇妙だ」って言われると、とてもネガティブに聞こえるんだ。でも実際は、すごくポジティブになりうることだったりするからね。
“奇妙だ”がキャスト選びのキーワード!
Q:素晴らしい俳優がそろっていますね。キャスティングについて教えてください。
ジェイク役のエイサ(・バターフィールド)に会って、すぐさま彼のことを“奇妙だ”って思ったんだよ(笑)。実は、今回キャスティングした全員に共通するのが、会ってみて“奇妙だ”っていう一言が僕の心に思い浮かんだ人たちなんだ。エイサに会ったら、すごく背が高いし、どこかぎこちなく物静かで、それに思慮深くて、彼はなんだかこの世界のどこにも属していないような感じだった。だから一目見て確信したよ。
Q:ミス・ペレグリン役のエヴァ・グリーンやバロン役のサミュエル・L・ジャクソンは?
エヴァもとても奇妙だからね。彼女はサイレント映画のスターのようなんだ。彼女は強さやユーモア、そしてさまざまな感情を一度に表現できる人。それは類いまれな才能だ。全くの異なる要素を一つのことで表現できるというのは本当に素晴らしいことなんだ。そしてサミュエルだけど、ずっと実現したかったことの一つが、彼と仕事をすることだった。彼はいろんな映画にひっぱりだこだからね。とてもパワフルな役者で、彼がこの作品でやったことは、僕にとってどれも楽しかったよ。それにこどもたちが怖がっていたのも、悪役だったから好都合だった(笑)。
Q:こどもたちを演出するのは難しくなかったですか?
そうだね。演技経験が全くない子もいたからね。なんでロケ撮影したのかという、一つの理由がそれなんだ。奇妙なこどもたちが住む家も実際に探したし。ベルギーにその家を見つけたんだけど。演技をしたことがない子たちのために、できる限り多くのロケーションを探したよ。実際の場所で撮影することは、彼らの演技を向上させるのに役立ったと思っている。
Q:そんな撮影現場はどんな雰囲気でしたか?
すごく良かったよ。とてもラッキーだったと思っている。だって、手に負えないほどひどい子役の話をよく耳にするだろう(笑)? 僕の現場には一人もそんな子はいなかった。彼らはみんな素晴らしかったよ。そういう意味で本当に恵まれていたね。それにとてもうれしかったのは、劇中のように彼ら自身も固い絆で結ばれていくのを目の当たりにしたんだ。セットの外でも、年上の子が年下の子の面倒をみていたりして、すごく良い雰囲気だった。
日本が好きで東京のシーンを盛り込むも…!?
Q:ジェイクとエマが沈没船を訪れる水中シーンにはびっくりしました。エイサとエマ役のエラ・パーネルは、ダイビングのレッスンも受けたと聞きましたが。
そのシーンはもう本当に大変だったんだ。水中にドアが出てくる映画を撮るのが嫌いになったよ。すごく難しいし、動きはとてもゆっくりになるし。セットをつくったんだけど、それをひっくり返して水がどっと外に流れ出るようにしたり。かなり苦労したね。そしてエイサとエラは、身体的にかなり苦しい状況下で演技しなくてはいけなかった。本当に難しかったよ。でも彼らはよくやってくれた。
Q:その沈没船を見て、タイタニックを思い出してしまいました。
ハハハ。原作にあっただけで特にタイタニックは意識してないよ! 彼らの隠れ場所にちょうどよかったんだよ(笑)。
Q:あと、ガイコツのファイトシーンがとても楽しかったです! バートン監督は本当にガイコツの取り扱いがお上手ですよね(笑)。どこからインスピレーションを得ているんですか?
とても影響を受けたし、今でも受けていると思うのが、ストップモーション・アニメーターのレイ・ハリーハウゼンだね。『アルゴ探検隊の大冒険』(1963)にはとても有名なガイコツのファイトシーンがある。そのシーンは、映画にまつわる僕の記憶の中で、とても鮮烈なものの一つなんだ。それからというもの、ガイコツが好きだ。
Q:今作には東京のシーンもありますよね?
そうだよ! でもセットで撮ったんだ。日本が好きだから、撮影で日本へやってこようと思ったんだけど、残念ながら予算がなくて来ることができなかったよ(笑)。
『シザーハンズ』『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(原案・製作)などなど、アウトサイダーに優しい視線を注ぎ続けてきたバートン監督の作品名をあげればキリがない。それは監督自らが「変なヤツ」と言われ続けてきたことが、鮮烈な記憶として残っていることの裏返しとも言えるが、こうして好きを貫いてアートに昇華させていくバートン監督の“能力”を目の前にして、「ありのままの自分でいたい」と思わずにはいられない。
(C) 2016 Twentieth Century Fox
映画『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』は2月3日より全国公開