『ちょっと今から仕事やめてくる』福士蒼汰&工藤阿須加 単独インタビュー
一度は言いたいと思ったことをタイトルが代弁
取材・文:折田千鶴子 写真:尾鷲陽介
パワハラ、長時間労働、過剰なノルマなど、現代人が直面する問題を圧倒的なリアリティーで描き、60万部を超えるベストセラーとなった同名小説を映画化した『ちょっと今から仕事やめてくる』。ブラック企業で働く真面目なサラリーマン・青山隆に工藤阿須加、そんな青山の前に突然現れる謎の男・ヤマモトに福士蒼汰。日本の映画界を担っていく若き2人が、成島出監督のもと俳優として大きく飛躍することとなった撮影現場を振り返った。
軽い響きのタイトルをこう分析した
Q:それにしても、非常にキャッチーなタイトルですよね。
福士蒼汰(以下、福士):原作の表紙には、青いネクタイと白いワイシャツを背景に、とてもかわいらしい字体でタイトルが書かれているんです。それが、すごく作品を象徴していると思いました。テーマは闇のように深く大きいけれど、決して暗い話ではないと、目にした瞬間すぐにわかりましたから。
工藤阿須加(以下、工藤):きっと皆一度は頭をよぎったことはあるけれど、なかなか言えない言葉じゃないかな、と思います。望んだ仕事に就けなかった人も、就けた人も、きっとそれぞれの想いや苦労がたくさんある。しがらみがあって言い出せないことを代弁してくれているように思いました。
Q:ブラック企業で働き、ズタボロ状態だった青山の前に、福士さん演じるヤマモトがいきなり現れますね。しかもチャキチャキの大阪弁で!
福士:ヤマモトは自分と真逆なので、(役に慣れるのが)結構大変でした(笑)。でもヤマモトがなぜあんなに明るいのか、その根本には実は暗い過去がある。青山を救うことが、ある意味ヤマモトの光になっていて、彼がポジティブだったり元気だったりするのはそれによって生じたものなのだと理解していきました。それに大阪弁の持つパワーが大きくて。単なる方言指導ではなく、芸人さんの(烏龍パークの)加藤(康雄)さんがノリやツッコミ、大阪人はこうだ、ということを教えてくださったのが大きかったと思います。
Q:それに対して青山は、本当に真面目なサラリーマンで……。
工藤:撮影までの5か月間、青山をイメージしてスーツを自分で選び、毎日着て体になじませながら、青山に近い生活を送るよう心がけました。飲み屋街に足を運び、日々働くサラリーマンがどんな愚痴を言っているのか、聞いてみたりしました。ちなみにそのスーツは映画にも登場しています。普段は外出することが多いんですけど、撮影前には一人で家にこもって気持ちを作っていきました。
Q:ヤマモト、青山のどのようなところに魅力を感じましたか?
福士:ヤマモトは明るいしポジティブだし、生き方も魅力的。こんな奴がいたら楽しいだろうし、こんな奴になれたらいいなと思いましたし、演じていてもハッピーでした。
工藤:青山は、追い詰められすぎて視野が狭くなり、自分自身からも家族や友人からも目をそらしているけれど、本来はすごく家族思いで、友達もたくさんいる優しい人間なのではないかなと台本を読んだときに思いましたね。
ストレートに演じるのは意外に難しい!
Q:映画が完成した今、お互いに対してどんなことを思いますか?
工藤:感謝ですね。本当に福士君でよかったです!
福士:僕も感謝、という言葉が一番大きいです。
工藤:準備期間に5か月いただき、その間にリハーサルをして福士君と一緒に作ってきたという時間と思い入れもあるし、福士君が役に向き合おうと一生懸命頑張っている姿が心の支えになりました。
福士:成島監督と演技指導の先生にも、本当にいろんなことを教わって勉強になりました。
工藤:僕はつい頭で考え込んでしまうんです。100%でやるべきところを、考えすぎてしまってついセーブしてしまう。思ったように出来なくて監督に何度も怒られました。でも福士君は、監督に言われたら真っ直ぐぶつかっていく思い切りの良さがあってすごいんです。その挑戦の仕方を見習わなければと思いました。吹っ切りの良さと同時に、福士君の演技には僕とは比べものにならないくらいの繊細さがあって、多くのことを学ばせていただきました。
福士:繊細というより僕の場合、流されてそれていってしまうようなところがある。でも工藤さんのお芝居は本当に真っ直ぐで、伝わってくる。真っ直ぐなお芝居ってすごく怖いんです。小手先でやる方が、実は気持ち的には難しくないので。でも工藤さんのように演じるというのが怖いけれど僕がやっていくべきことだと改めて感じました。このタイミングで一緒にお仕事をさせてもらえて、本当によかったです。
工藤:福士君の仕事に対するストイックさにとても共感することが出来、楽しかったです。福士君の芝居に引っ張ってもらえたので、心の底から感謝しています!
社会人とはプロフェッショナルを求められること
Q:お二人は社会に出られてそれまで感じなかったこと、つらいことはありましたか?
工藤:学生時代にアルバイトをしていたので、“働く”ということは少しわかっていたつもりですが、社会に出るとより責任感が必要になりますよね。自分の仕事に対してどう向き合い、いかに求められる以上のことを残せるかだと思うんです。それが次の仕事につながる。そういうことを含め、働く、生きるとは大変なことだと改めて実感しました。これからもつらいこと、壁も増えていく中で、それをどう乗り越えていくか、一生挑戦し続けるのだと思います。
福士:僕も17歳でこの仕事を始め、何もわからない新人でもプロフェッショナルであることを求められ、責任を背負う状態がつらいと感じる時期がありました。学校と仕事をどう両立すべきなのか迷って、責任感も持てず訳がわからなくなってしまって。そのバランスが取れるようになってから、どんどん楽になってきました。シンプルに自然と役者の仕事に向き合えるようになって。
工藤:すごくわかる!
どんな闇にあっても光は必ずどこかにある
Q:観客の中には、実際に青山のように苦しんでいる方もいると思います。どんなことを感じてほしいですか。
福士:劇中の青山と同じようなことを感じてくれればいいなと思います。どんな闇のような状況にあっても、どこかに光を見いだすことが出来ると。青山はヤマモトという謎の存在に助けられますが、自分で光を見つけに行くことも出来るし、家族をはじめきっと誰かが光になってくれる。その光を見いだすきっかけに、そしてなぜ生きているのかの気付きになればうれしいです。
工藤:仕事に対する皆さんの想いを一番に考えて演じさせてもらいました。追い詰められると人間は希望や支えてくれている人が見えなくなり、自分から目をそらしてしまう。でも必ず支えてくれる人がいるということ、そしてふと周りを見渡すと、意外といろいろな道があったり、思いもしない希望が別の場所にあったりする。そんなメッセージが伝わればいいなと思います。
“爽やか”と言うと凡庸だが、2人のやり取りを聞いていると、ぐんぐん伸びて色を濃くする新芽のような生命力とエネルギーに満ち、マイナスイオンを浴びているような気持ち良さに満たされる。準備期間から本編撮影までを通して得たものが非常に大きかったと感じさせる若き2人の新境地が、今後のさらなる成長を予感させ、映画ファンの心をも晴れやかにするはずだ。
映画『ちょっと今から仕事やめてくる』は5月27日より全国公開