『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』妻夫木聡&水原希子 単独インタビュー
男のウソは絶対にバレる
取材・文:浅見祥子 写真:尾鷲陽介
コラムニストでもある渋谷直角による原作漫画を、『モテキ』『バクマン。』の大根仁監督が実写映画化した『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』。“力まないカッコいい大人”= 奥田民生に憧れる雑誌の編集者コーロキを演じた妻夫木聡と、レディースブランドのプレスで超絶カワイイ魔性の女あかりを演じた水原希子が再会。イマドキでリアルなラブコメでありながら青春映画としての奥深さを持つこの映画を軸に、恋愛について語り尽した。
あかりは究極の小悪魔?よくいる女の子?
Q:初めて『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』というタイトルを聞いたときは、どう思いましたか?
妻夫木聡(以下、妻夫木):僕は“民生好き”なので、なんてかわいいタイトルなんだろう。それでいて、長いタイトルだな~と。
水原希子(以下、水原):確かに長いですよね(笑)。でも特に違和感はなくて、わかりやすいタイトルだなって思いました。
Q:タイトルからは、水原さんが演じたあかりは最強の小悪魔のように思えますが、とてもふつうの女の子ですよね。
水原:よくいると思います。あかりの場合は抱えている闇がちょっと深い気がしますけど、“ライトなあかりちゃん”みたいな女の子はよくいますよね。付き合っている彼がいても、寂しさを埋めるために他の男の人と……みたいなことって、あまり珍しい話ではない気がする。
妻夫木:いや怖いですね、妄想だけの話にしてほしい……。
水原:怖いというなら、それは男でも女でも同じですよね。それにあかりちゃんは悪意を持って相手を傷つけようとするのではなく、そのときどきで目の前の相手を本当に好きだと思っているんです。「みんなが理想とする女の子をやってあげていただけよ」という意味のセリフがあるんですけど、まさにそれ。だからこそ、男性にとっては余計に怖いのかもしれませんけど。
妻夫木:女の人はウソを真実に変えるからな……男のウソは絶対にバレると思うけど。そこはちょっと違いますよね。
水原:どういうことですか?
妻夫木:例えばあかりの場合は「あなただけよ」とあちこちで言っているのだからある意味でウソだけど、その瞬間は本心でもあるわけでしょ。本心から言う言葉は真実だとも言えるけど、男が同じことをやっても、それはやっぱりウソになっちゃうんだよね。例えば浮気がバレて「いや違うんだよ、おまえだけなんだよ!」ってウソだもん(笑)。でもあかりみたいな女の子は「いえ、あのときはあなただけだった」と言うわけでしょ。
水原:そうして真実にしちゃうと?
妻夫木:そうそう。男にそれはできないから。
Q:男はウソだと自覚しながら「おまえだけだよ」と言うと?
妻夫木:いや……違う、違う。なんか僕がそういうヤツみたいになってるけど(笑)。自分は一度に何人も好きになったりしないけど、もしあかりみたいな男がいたとしても、たぶん男はあそこまで素直な気持ちで言い切れないんじゃないかと思うんですよね。
イマドキな恋愛におけるLINEの存在感
Q:本作ではイマドキの恋愛におけるLINEというツールの存在感の大きさも、リアルに思えました。
妻夫木:僕はLINEができてから、ああいう恋愛はしてないから……。若いときにLINEがなくて本当によかった! と思いました(笑)。「既読」と表示されちゃう機能なんて、本当に怖いですよ。「ゴメン、ちょっと仕事だった」で終わるようなことが、「なんで既読になってるのに連絡くれないの?」となるんですから。これは怖い。やっぱり、なくてよかったです(笑)。
水原:確かに「既読」と出ると「ああ読んでるな」と思って返信を待ってしまうんですよね。でも全然返ってこなくて……という経験は私にもあります。でも自分があまり返信をしないタイプなので、そのシチュエーションで私が狂わされることはあまりないんですけど。
妻夫木:「狂わせるガール」だな。
水原:いや、そんなふうに返信しないのはダメだなって思っているんですけど、なかなかその癖が直らなくて。
妻夫木:女子って返信しない人が多いよね?
水原:ああ……メッセージを読んで、オッケーです! と心の中で思って、返信しない(笑)。長々とメールするタイプでもなくて。以前は好きな人を追いかけていたこともありましたけど、いまはちょっと大人になってきたので、私が狂わされることはなくなりました。対等であるべきだと思うし、そのほうがラクって気づいちゃった。
Q:あかりに振り回されてフラフラになるコーロキは女の目にもリアルで、感情移入しちゃいます。
妻夫木:演じながらも、そういうときもあるよね……って。僕はもう結婚したし、ああいう思いはもうないですけど……思い出すだけでキリキリしてきます。
水原:イヤそうな目(笑)。
妻夫木:ああいう想いになるときって、「胸がチクチク」なんて言葉じゃ済まないですよね。
水原:ずっと気になってしょうがないし。
妻夫木:ね。あれやだな……ストレスって言葉がいちばんぴったり当てはまる気がする(笑)。
楽しむことを大切にした撮影現場
Q:大根監督の演出はどうでしたか。
水原:ご自身がイキイキしていて、とても楽しそうなんです。本番前にぱ~っと近づいてきて「次はちょっと、こんなふうにやってみてよ」と言って笑いながら去る(笑)。それでいて演出は完全に的を射ているんですよね。会話しながら楽しみながら、プレッシャーみたいなものを一切感じさせない。映画の内容は楽しいラブコメで……恋愛の話が苦手な人にはキツイかもしれませんけど、撮影もすごくいい空気感の中でつくれました。
妻夫木:無駄がないんですよね。それでいてどこか……身内みたいな感覚で。「いいなあ~、いつもそんなに希子ちゃんとイチャイチャできて」と言うので「いや、監督がつくってるんでしょ!?」みたいな感じでした(笑)。
水原:細かいときは細かいですよね?
妻夫木:ポイントで細かくなることはあるけど、全部を通して動きはこうでこういうお芝居をして、と説明することはないですね。それで突然「ちょっとここ、音楽を聴きながら踊ってみっかな?」などと言われ、ええ!? と驚かされたこともありましたけど。
水原:待ち時間に私が無意識にしていた仕草を監督が見ていて、「いまあのときの仕草をやってみて」と言われたことが何度かありました。あとは、体をアップで撮るときにライトのセッティングに時間をかけてキレイに撮ってくださったり、あかりに関してはビジュアル的に美しく見せなきゃいけないショットがたくさんあったので、「それで時間がかかるのは全然大丈夫です、いくらでも待ちます!」って感じでした(笑)。
Q:コーロキにも、ビジュアル面での工夫を感じることが?
妻夫木:いや、僕は全然ないです(笑)。ひとつあるとしたら、げっそりメイクをしたのですが、「もうちょっとげっそりしてみようか」とメイクし直したことはありました(笑)。
水原:あのシーン、大好きなんです。げっそりした顔がすっごく面白くて。
妻夫木:いずれにしても大根監督は、僕たちが撮影を楽しむことをなによりも大切にされていた気がします。
かわいいラブコメにして、優れた青春映画!
Q:完成した映画を観てどう思いましたか。
妻夫木:めっちゃカワイイ映画ができたな! と思いましたよ。こんなに笑えて、キュンキュンできる映画を久しぶりに観た気がして。
Q:しかも青春映画としても、奥深い余韻がありましたね。
妻夫木:いやそんな、(水原に)青春映画なんて言ってもらえるらしいよ!
水原:青春映画ですよ(笑)。
妻夫木:海外にはコミカルなラブコメで、しかも青春映画としても優れた作品ってありますけど、そうした映画を日本でもつくれたことがとてもうれしいです。
水原:私自身は撮影を楽しんでいたものの、いままでこれほどキスしたり、人の耳を舐めたり、ほぼ裸のような姿を映されたことがなかったので……どんなふうに映っているのだろう? などと正直思っていました。無我夢中で思いっきりやっていましたから、「大丈夫だったかな?」って。でも、自分で恥ずかしいなと思うシーンも、ビジュアル的に美しく撮っていただけて、なによりも一観客として素直に映画を楽しめました。本当にラッキーな役だったなって思えました。
まるで映画の中のあかりそのもののように小花柄のワンピースをキュートに着こなす水原と、あかりに振り回されるコーロキとは違い、36歳という年齢にふさわしい落ち着きを身にまとう妻夫木。ふたりがどれほど大根監督の撮影現場を楽しみ、完成した映画に自信を持っているかが伝わってきた。話の途中で突然、隣の妻夫木をまじまじ見て「あれ、髪の毛切った?」と言う水原に、「いや、むしろ全然切ってなくて伸びたから!」とすかさずツッコミを入れる妻夫木。やはり阿吽の呼吸がしっかりと出来上がっているのだった。
『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』は9月16日より全国公開