『氷菓』山崎賢人&広瀬アリス 単独インタビュー
久しぶりの再会でも変わらない二人
取材・文:磯部正和 写真:奥山智明
人気作家・米澤穂信のデビュー作を山崎賢人&広瀬アリスのダブル主演で映画化した学園ミステリー『氷菓』。山崎が何事にも深入りしない省エネ男子・折木奉太郎を、広瀬が好奇心旺盛なヒロイン・千反田えるを演じた。アニメ化もされ人気を博した原作だけに、公開前から注目を浴びていたが、二人はどんなアプローチ方法で役柄に挑んだのだろうか。本作で3度目の共演となる山崎と広瀬が、互いの印象や作品のこと、俳優として今すべきことなど大いに語り合った。
人気キャラクターへのアプローチ方法とは?
Q:山崎さん演じる折木奉太郎と、広瀬さんふんする千反田えるという役柄について、どのようなアプローチを試みたのでしょうか?
山崎賢人(以下、山崎 ※山崎の「崎」は「たつさき」):奉太郎は省エネ主義で合理的な人物なので、なるべく無駄がないように自分のなかのものをそぎ落としていきました。
広瀬アリス(以下、広瀬):皆さんのなかにはアニメ版のえるのイメージが強いと思うのですが、今回は小説の実写化なので、アニメ版を少し意識しつつもそこにとらわれないアプローチ方法をとりました。安里(麻里)監督とは、奉太郎と初めて部室で出会うシーンのリハーサルを2日間かけてやらせていただき、かなり悩みながらでしたが、しっかり準備をしました。クランクインしてからは、古典部のみんなとの空気感を大切にえるという人物を作り上げていきました。
Q:山崎さんは原作の奉太郎のイメージにぴったりという声も聞かれますが、ご自身でそう感じる部分はありましたか?
山崎:奉太郎のように合理的でありたいし、あこがれはあるのですが、僕はくだらないことも結構やってしまうタイプなので、あまり似ていないかも。でも奉太郎って魅力的だなって思います。
久々の再会も「まったく変わってない」
Q:お二人は「35歳の高校生」「黒の女教師」以来3度目の共演。今作では、主人公とヒロインという間柄での再会でしたがいかがでしたか?
山崎:「おー久しぶり」みたいな。中学の友達と久々に会った感覚。うれしかったですね。
広瀬:その気持ちわかる! 賢人くんは久々でしたが安心感がありますね。初めて会った「黒の女教師」から5年ぐらい経ちますが、マイペースなところとか、現場でみんなのいやしになっている部分など、本当に変わっていなかったです。
山崎:アリスも変わってないですよ。それこそ奉太郎じゃないですが、合理的で仕事人。無駄なこと一切しないよね。
広瀬:確かにそれは合っているかも。省エネじゃないですが、効率よくやりたいって思っていますね。必要なことしかやらないかも(笑)。
俳優という仕事には悩みも…
Q:劇中、小島藤子さん演じる摩耶花が漫画の才能について悩むシーンがありますが、お二人は俳優という仕事について悩んだりすることはありますか?
山崎:どの作品をやる時でも毎回、ちゃんとできるのかって悩みます。
広瀬:わたしは自分に才能があると思っていないので、泥臭くやるしかないんです。自分の欠点は誰よりもわかっているので、なかなか自信が持てないです。そもそもプラス思考じゃないので、一回落ちるとダーって落ち続けてしまうんです。
Q:悩みながらも俳優という仕事を続けるモチベーションは?
広瀬:ダメだなと思いつつも、わたしは演じることが好きなので、今はいろいろな感情の引き出しを増やそうという目標を持ってやっています。
山崎:やっぱりおもしろいからだと思います。作品によってもアプローチ方法は違うので。リアリティーが大事だと思っていた時期もありますし、しっかり魅せるという芝居も大事だなと最近は思います。今は、その時々でできることを全部出し切れればいいのかなって考えています。でもやっぱりお芝居に対して愛はあります。じゃなければ続けられないですよね。
広瀬:わたしも携わった作品は大好きですし、キャラクターも愛おしいです。毎回いろいろな作品をやるたびに「続編ないかな」って思っちゃいます。
10年後のために俳優として今すべきことは?
Q:「俺は10年後、今を後悔せずに生きていられるだろうか」という奉太郎のセリフが印象的ですが、未来のために今何をすべきだと考えていますか?
広瀬:以前は学生服を着て明るく元気な役が多かったのですが、最近20歳を過ぎてからは陰のあるような役もやらせていただけるようになってきているんです。どんな役でも演じられるような、空気感が違う女優になりたいので、今は感情の引き出しを増やすことを心掛けています。
山崎:今、仕事以外の自分の時間がほぼきちんとしていないので、そこをしっかりとしていきたいです。そこをいい加減にしてしまうと、ちゃんとした人間の役ができなくなっちゃうんじゃないかなって思うんです。芸能界を見すぎてしまって、業界と一般社会のラインがわからなくなってしまっているので、そこをしっかりしないといけないと思っています。
Q:10年後の自分は想像できますか?
広瀬:正直10年後の自分は想像できませんが、もしかしたら女優という仕事をやっていないかもしれないですよね。もしそうなっても自分で納得してそういう道に進んでいると思うので、怖さはないです。でも正直、そんな先のことを見据えている時間はないので、現場では全力で役に向き合って、家では役を切り離して、自分のリズムを作ること。そうすれば見えてくるものもあるのかなと思っています。
山崎:僕は怖いですね。どうなっているんだろうって思うことがあります。さっき人としてしっかり生きなければと言いましたが、お芝居の面では、もっといろいろと勉強していきたいです。あとは、とにかくその時の全力で物事に取り組むこと。恐れずに前をしっかり向いて、後悔することなく、すべてのことに向き合いたいです。そうすれば、自ずと先のことが見えてくると思います。
出演作が途切れることなく続く人気若手俳優の山崎賢人と広瀬アリス。今回は3度目の共演となるが、過去2回は学園ドラマの生徒の一人という立場だった。しかし本作では、共に主演という作品を背負う立場での共演。時間が経つにつれて立ち位置が変わっていることは明白なのだが、互いに「まったく変わらない」という。それは成長していないということではなく、作品に取り組む真摯な態度が“変わらない”のだろう。飛ぶ鳥を落とす勢いの二人だが、決しておごることなく、今と向き合うことに全力を尽くす。だからこそ、オファーが相次ぐのだと納得した。
映画『氷菓』は11月3日より全国公開