『泥棒役者』ユースケ・サンタマリア&石橋杏奈&宮川大輔 単独インタビュー
NGを出せない緊張感がハンパない
取材・文:石塚圭子 写真:高野広美
NHKの連続テレビ小説「とと姉ちゃん」などの脚本家、舞台の演出でも活躍する西田征史監督が、自身が作・演出した舞台「泥棒役者」を映画化。主演の丸山隆平(関ジャニ∞)や市村正親とともに、ある豪邸で繰り広げられる“かみ合わない”会話劇を盛り上げたキャスト陣には、ユースケ・サンタマリア、石橋杏奈、宮川大輔といった個性豊かな顔ぶれが集まった。一軒の豪邸の中で生まれる笑いを絶妙なセンスで体現した3人が、撮影現場の思い出を振り返った。
ウェルメイドな脚本をいかに“壊す”か
Q:元々は舞台だった作品の映像化ですが、脚本を読んだときの最初の印象は?
石橋杏奈(以下、石橋):前半はテンポが速くて、笑いもたくさんあるんですけど、後半は登場人物一人一人が抱えている悩みが明らかになったりして、ジーンとくるシーンが多いんです。観ている人が誰かしらに自分を投影できる部分があるんじゃないかなと思います。最後にはポジティブな気持ちになれる作品だったので、出演できてすごくうれしかったですね。
ユースケ・サンタマリア(以下、ユースケ):よくできた脚本なんです。でも、ウェルメイドな話だからこそ、そこにフツウに収まってしまうのはつまんないとも思ったので、この脚本をいい意味で、どれだけ僕たちがぶっ壊せるかっていうか。オリジナルが舞台とはいえ、映像になったら映像なりの違ったパワーがあると思うから。
宮川大輔のキャラだけ怖い!
Q:宮川さんは泥棒、石橋さんは帰国子女の編集者、ユースケさんはセールスマンという役どころで、みなさん見事なコメディアン&コメディエンヌぶりでしたね。
宮川:僕が中1のときの中3の先輩で、ものすっごい怖い人がおったんですよ。言うこと聞かないと、あとで何されるかわからないみたいな……。その先輩の怖い、嫌な感じが出たらいいなと思ってやっていました。
ユースケ:その先輩のこと、スペシャルサンクスで出さなきゃダメじゃん。
宮川:いやいや、出さんでいいですよ(笑)。
石橋:わたしが演じた奥という女性は、すごく向上心が強くて、仕事も一生懸命。そんな彼女の真面目さを出そうと思って演じました。不安もありましたが、監督に「よかったよ」と言っていただけたので、そこは自信につながりましたね。
ユースケ:僕は内容によって、リハーサルのときにすごくテンション低めにやって、そこから足す場合と、初めから高めにやって、そこから引く場合があるんです。今回は後者でしたね。ただ、最初にワーッと盛りまくって、監督からあっさり「それで行きましょう!」と言われたときは、どうかしてるぜ! って思ったけど(笑)。
“人違い”と“勘違い”が生み出す笑い
Q:登場人物たちの“人違い”と“勘違い”が生み出す笑いを、会話劇として表現するために意識したことは?
ユースケ:芝居がどう、とかじゃなくて、監督が一番気にしていたのはテンポでした。ここまでまくしたてたら、ここでフッと間を取って、とか。
石橋:脚本を読んでいるので、誰が嘘をついているとか、誰が勘違いしているかはわかっていますよね。その上で、自分がまた違うふうに勘違いしていることを演じるんですけど……自分のことだけで演じちゃうと、面白くない間になっちゃうだろうな、というのはすごく感じました。
ユースケ:そうそう。結局、そのシーンの全員の動きというか、全体像を見ていないといけないんだよね。自分だけ普通のリアクションを取ればいいっていうわけじゃない。その辺が難しいところ。ま、それを僕らは難なくやり遂げましたけどね。宮川くんのおかげで(笑)。
宮川:いや、僕、何もやっていないです。泥棒役なんで、クローゼットの中にずーっと隠れていただけです(笑)。ただ、この喜劇の中で、僕の役は唯一怖い人物なので、みなさんの邪魔をしないように気をつけながら、とにかく怖さがブレないように、ずっと怖いままでいなきゃな、とは思っていました。
Q:宮川さんは、ずっと隠れたままの演技でしたが、実際には別撮りをしたのでしょうか?
宮川:個別に撮った部分もありますけど、結構本当にクローゼットの中に入っていました。一連のシーンが多かったので。クローゼットの隙間からみなさんの演技を見て、途中で自分が一言セリフを言ったりするときは緊張しましたねぇ。そこでセリフをかんだら、その前のシーンが全部やり直しになるじゃないですか。
石橋:確かに、一つのシーンが長いぶん、自分の番が来るまで結構ドキドキしていました。(セリフの)タイミングが近づくと「あ、来る来る……」って。特に途中から場面に入っていくときにはものすごく緊張しましたね。みんなの姿が見えていない場所から出ていくので、どういう状況なのかがわからないんですよ。セリフが来たから行きたいけど、まだなんだっていう、こらえている間があったりして。
ユースケ:各自がそれぞれの場所でスタンバっていて、かなり長い芝居があった後で、バッと出ていくとか、そういうシーンが多かったんです。だから、ずっと演技をしている人ももちろん大変だけど、途中で出たり入ったりする人間もすごく緊張するんですよ。
限定された空間で観客を飽きさせない方法
Q:撮影現場の雰囲気はいかがでしたか?
石橋:主演の丸山さんは、気さくで明るくて面白いというイメージ通りの方だったので、現場の雰囲気もすごく和やかだったと思います。
ユースケ:ほぼ家の中だけで話が進んでいく喜劇だから、いろんな場所でロケをする映画とはちょっと違う。同じ家の中にずっと一緒にいると、気分があまり変わらないんですよ。家の中にいたメンバーは、スタッフもキャストも同じ苦しみを味わっているという仲間感がありましたね。大変さもみんなで分担! みたいな。
宮川:みんなが休憩するテーブルでは、いつもユースケさんと市村さんがワーッとしゃべっていて(笑)。みなさん、にぎやかな人たちなので面白かったですよね。
ユースケ:最初は撮影に時間がかかったんです。やっぱり監督も試行錯誤して、みんなのテンポを合わせたりするので。でも、途中から監督が吹っ切れたというか、パーンと理解した瞬間があったみたいで。そこからは長回しが始まりました。長回しって大変だし緊張するけど、成功したらそれで終わりなんですよ。その爽快感がたまらない。
宮川:僕、クローゼットの中から見ていただけですけど、ほんまNGなかったですよ、みなさん。ホントすごいなと思って。だから撮影がどんどん進んだんだと思いますね。
ユースケ:やっぱり長回しで一気に撮るから、躍動感が出るのかなっていう。室内劇は観客を飽きさせてしまったら終わりだから。そのぶん僕たちの芝居と、監督の腕にかかっているよね。あとはCG! VFXね!
宮川:いやいやいや、そんなの使ってないですって(笑)。
質問に真面目に答えながらも、ところどころでボケてみせるユースケと、すかさずツッコミを入れる宮川。そんな彼らに挟まれて、楽しそうに笑う石橋。明るい撮影現場の空気感がそのまま伝わってくるような3人の掛け合いが印象的だった。ただ仲がいいだけでなく、役者同士の緻密な芝居の緊張感やメリハリが利いた本作は、大人の喜劇として多くの観客の心をつかむに違いない。
映画『泥棒役者』は11月18日より全国公開