『光』長谷川京子 単独インタビュー
体の半分はいつも「女優」
取材・文:早川あゆみ 写真:高野広美
『まほろ駅前』シリーズの直木賞作家・三浦しをんと大森立嗣監督の最強タッグが挑んだ新作は、野性と狂気に満ちた人間ドラマ。津波に沈んだ故郷の離島に封印した罪が、大人になった幼なじみたちの邂逅(かいこう)によって再び暴かれていくさまが描かれる。ハードな物語の中、井浦新、瑛太と共に、幼なじみの1人を演じた長谷川京子。決して出番は多くないが、これまでのキャリアにはなかった妖艶さと不思議な存在感を見せている彼女が、キャラクター作りの試行錯誤、撮影現場の様子、そして自身を支える家族のことをストレートに語った。
人間的な汚い部分も表現したかった
Q:完成作をご覧になっての感想を教えてください。
脚本で想定していたものより、もっと深くて、心をえぐられるような物語だと思いました。でも「わかんないな」っていうのが正直なところです(笑)。それは決して悪い意味ではなく、なんかザワザワする、心が揺れるような、そんな映画です。
Q:美花を演じる上でのご苦労は?
わからないまま演じました(笑)。どうとでも解釈できる役だったので、現場で監督とコミュニケーションを取りながら演じた方がいいなと思って、あまり模索しないで撮影に入ったんです。監督は、「美花はこういう人です」と明確におっしゃることはなくて、わたしも細かく質問するテンションじゃないなと思ったので、まず自分が思った美花を暫定的に演じてみて、それを微調整してくださる形の演出でした。その中から、監督が思う美花はこういう人なんだとすくって、感覚で拾っていった感じですね。その作業が意外と難しかったです。
Q:主に井浦新さんとのシーンでしたが、井浦さんとも美花についてお話しされましたか?
新くんの中の美花は、演じた信之の目線なんです。つまり「女神さま」。でも、監督はもっと人間的な汚い部分を全面的に出して欲しいとおっしゃって。わたしも美花を一人の人間として表現してあげたいと思ったので、結果的に新くんのご希望には添えず……でした(笑)。もちろん、それで納得してくれています。
Q:井浦さんはどんな俳優さんでしたか?
初共演でしたけど、投げかけた言葉に対してすごくじっくり考えて返してくれる方だと思いました。物事を簡単に終わらせたくないのかなって。独特の彼のテンポがあって、自分のリズムを崩される時もあるんですけど、予定調和でいかないところがこの作品に投影されていると思います。セリフ以上に表情で、観ている方を説得できて、メッセージを送れる方だなと思いました。
“女優”に飽きない、ただ好きだから続けている
Q:美花は女優ですが、彼女と共演するとしたら、長谷川さんはどう感じられると思いますか?
恐ろしいと思うでしょうね。彼女はからっぽで、でもとがったナイフみたいな鋭利な何かを持っていて、しかも失うものがない。勝ち負けではない職業ですが、「負ける」って思うかもしれません。
Q:ご自身は女優としての活動が長いですが、続けてらっしゃるのはなぜでしょう?
そこはもう、「好きだから」としか言えなくて。飽きたらやめられるんですけど、なかなか飽きないんですよ。
Q:どこが一番好きなところですか?
自分の中でとても充実感があって、作品に入っていなかったり、プライベートな時でも、体の半分が仕事モードなんです。もしかしたらワーカホリックなだけかもしれないですけど(笑)。何もないと自分の何かが欠けている気がします。一つの仕事が終わって「終わったー、幸せー」って思うのは5日間くらいですね。子供にも迷惑かけたし、やっと家のこともちゃんとできるって考えているのが。6日目にはもう何かやりたくなります。
仕事も家庭も充実している日々
Q:お子さんたちが寂しがったりすることはありませんか?
ないんですよ、うちの子たち(笑)。「今日は帰ってくるの?」とは聞いてくるので、後ろ髪をひかれることはありますが、毎日遅いわけじゃないですしね。寂しい思いをさせないよう努力しています。夜遅くなる時は朝にコミュニケーションとったり、帳尻は合わせていますし、うちなりのルールを見つけられるように毎日模索しているところです。
Q:お仕事もご家庭も、充実してらっしゃいますね。
両方をやらせてもらえているのは、すごく幸せです。細かく大変なことはありますが、それは何をやってもつきものなので。恵まれていると思いますし、充実しています。
今の自分には小さい「光」がたくさん
Q:美花にとっての、また、長谷川さんにとっての「光」とは何でしょう?
美花にはもう光がないんです。探すのもあきらめていると思いますね、この人はもう。わたしは、大きい光よりもちっちゃい光がたくさんある感じです。今、家族みんなが病気もせずにニコニコと仕事や幼稚園、学校に行けているのは、大切な“光”なのかなと思います。ないものねだりで、1本ガツンと大きい作品に入りたいとか、大きい光の目標はありますけど。子供が大きくなったらまた違うだろうと思いますし、こればかりは巡り合わせもありますからね。
Q:今後、チャレンジしてみたい役はありますか?
どちらかというと幸せな役より不幸な役の方が好きみたいです(笑)。でも幸せか不幸かとか関係なく、女性の生涯を描ける、女性をフィーチャーした話を繊細な部分まできちんと撮ってくださるような監督とお仕事をしてみたいと思いますね。いつか巡り合えるといいですね。
美花という、すべての光を飲み込むブラックホールのような「ファム・ファタール(運命の女)」を演じた長谷川京子。ポイントでの出演だが、それゆえにその暗く冷たい佇まいは観た者の心にひっかかる。その不幸性が、物語を深いところで回していく大きなキーポイントとなる難しい役。だが、困難な仕事に果敢に挑んだその裏には、家族を愛する幸せな母の顔が。若い頃から変わらない美ぼうとスタイルでいながら、気負わずストレートに思ったことを語る長谷川に、世の中の女性が憧れるのは当然のことのような気がした。
映画『光』は11月25日より全国公開