『8年越しの花嫁 奇跡の実話』佐藤健&土屋太鳳 単独インタビュー
好きな人のそばにいることの幸福を実感
取材・文:遠藤薫 撮影:中村嘉昭
かつて映画『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』(2014)で共演を果たした、佐藤健と土屋太鳳。あれから3年。変わらずトップランナーとして幅広い作品に精力的に出演し続ける佐藤と、女優として目覚ましい躍進を遂げた土屋の再共演が叶ったのが、『8年越しの花嫁 奇跡の実話』だ。結婚を誓い合った若い二人=尚志(ひさし)と麻衣だったが、ある日突然、病が麻衣を襲い昏睡状態に……。まさに奇跡としか言いようのない物語に臨んだ、佐藤と土屋の真摯な思いを探る。
モデルとなったカップルに会いに行く
Q:お二人は撮影前に尚志さん、麻衣さんに会われたそうですが、その時の率直な印象は?
佐藤健(以下、佐藤):話題になっていたYouTubeの動画は事前に見ていたのですが、実際に尚志さんが撮影された写真のアルバムや、動画なんかがたくさん残っていたんです。それを見せていただきながら、当時のエピソードをたくさんうかがいました。本当にYouTubeで目にしたままの、ぶれない方だなという印象で、あの姿が尚志さんの真実なんだなと。温かさの中にも、強い部分を持っていらっしゃるんだろうなと思いました。
土屋太鳳(以下、土屋):麻衣さんはとてもかわいらしくて、チャーミングな方なんです。わたしも初めてお会いした時に、入院中や結婚式の映像を見せていただきましたが、麻衣さんから「一番大事にしてほしい」と言われたのは「愛情」でした。尚志さんへの愛情や、家族への愛情。「今自分がこうして生きていられるのは、周りの人たちからの愛情があったから」とおっしゃっていて、改めてこの方の人生を演技として表現することへの責任を感じて、とても緊張しました。
佐藤:僕は尚志さんと、土屋さんは麻衣さんと、それぞれ二人で話す時間をいただけたのも大きかったよね。
土屋:はい。あとお二人の間に生まれた男の子にも会えたんですよね。本当に人懐っこくて、かわいくて……! まずはこの方々のために精一杯演じようと思いました。
主人公が8年間恋人を待ち続けられた理由
Q:麻衣さんは突然、昏睡状態に。目が覚めてからも壮絶なリハビリなどに苦しみますが、なぜ尚志さんは8年間も“待てた”のだと思われますか?
佐藤:その答えは僕の中で明快なんです。演じていてもわかりましたし、尚志さんの言葉からも感じたのですが、“待っている”という意識ではないんですよね。たとえ麻衣の意識がなくても、そのそばに尚志がいるシーンでは、目覚めるのを待っている、ということではなく二人の「ラブシーン」であるべきだと思ったんです。お見舞いじゃなく、好きな人に会いに行くイメージ。そうすると麻衣も何かしら気持ちを返してくれる。そういうことが日々あったんだと思いながら、演じていました。
土屋:健先輩……佐藤さんは本当に素晴らしくて!
佐藤:呼び方はどっちでも大丈夫だよ(笑)。
土屋:わたしは前半、眠っているシーンが多かったのですが、完成作を観て何度健先輩の麻衣を想う表情に涙したかわかりません。病室のシーンはもちろん、わたしが現場にいなかった農村歌舞伎のシーンも健先輩の表情に心が締め付けられました。人を支えたり、応援するって、すごく体力のいることだと思うのですが、撮影の1か月間、自然体で寄り添ってくださった健先輩の優しさが、尚志さんの優しさと重なりました。
佐藤:好きな人のそばにいることって、本質的にすごく幸せなことなんですよね。尚志さんがおっしゃっていたのは「8年も待つなんてすごいってよく言われますが、家族だったら当たり前。麻衣と結婚すると約束した時点で、麻衣はもう家族だったんです」と。「僕はすごいことをしているつもりは全然なくて、好きなことをしていただけ。好きなことをやらせてくれた周りに感謝しています」とまでおっしゃっていました。
二人とも役を引きずらないタイプ
Q:実話に基づいているだけに、時に見ていてつらくなる場面もありますが、撮影中はいつもと変わらない雰囲気で過ごされていたのでしょうか?
佐藤:そうですね。どちらからともなく、自然と読み合わせを始めたりすることはあったよね。ずっと芝居の話ばかりしていたわけではないですが、シーンを作る上で万全の状態で臨みたいという意識はあったので、話す時はしっかり話すという感じでした。
土屋:(話している佐藤を真剣に見つめ)本当に撮影中は幸せな時間でした。尚志さん(佐藤)の一瞬一瞬を見落とさないように、今みたいにいつも凝視していたと思います(笑)。
Q:お二人とも役に入り込まれる印象があるのですが、今回の撮影中、オンオフはどのように切り替えていらっしゃったんでしょうか?
佐藤:僕は基本的に役を引きずっているという感覚がないので、今回もフラットな状態だったと思います。ただ自分ではそう思っているのですが、親しい友人などからは、作品や役によって雰囲気が違うと指摘されることはあります。
土屋:わたしもあまりオンオフは意識していないです。よく眠りたいので寝る前にストレッチをしたり、あとはモチベーションを保つためによく食べることくらいでしょうか。
芝居に見えてはいけない難しさ
Q:初の瀬々敬久監督とのお仕事はいかがでしたか? 驚くほどリアリティーのあるお芝居を役者さんから引き出す監督という印象ですが。
佐藤:常に見てくださっている安心感があったので、僕らはとにかく思いっ切りやる。足りなかったらもう一回。監督からOKが出たってことは、大丈夫なんだなという絶対的な信頼感がありました。
土屋:監督の作品はとても骨太な印象があったのですが、実は照れ屋さんな部分もあって、優しい空気を演出してくださったなと思います。フェリーでのシーンは携帯を持ってウロウロされていたから、電波が悪いのかな? って思ったら、ポケ……。
佐藤:Pokemon GO ?
土屋:そうです! それをやっていらして(笑)。わたしが言うのも何ですが、かわいいなって思いました(笑)。
Q:本作はラブストーリーですが、過度な感傷に陥ることがなくどこか骨太な作品になっていると感じます。
佐藤:芝居ではあるけれど、芝居に見えてはいけないということを目指して演じていた気がします。そうすると何が正解かわからなくなる瞬間もありましたが、監督がいてくれたから、怖がらずに迷いなくやり切れたんだと思っています。
土屋:今回に関しては、役づくりっていう言葉自体がしっくりしない感じがしたんです。麻衣さんの苦しみを想像することはできても、100%理解するのは難しい。だからこそ“役を生きよう”と思いましたし、この命の物語をお二人に届けようという思いを胸にやらせていただきました。
『るろ剣』での共演以降、佐藤健の背中を追ってきたという土屋。言葉の端々から、佐藤へのリスペクトがあふれ出し、「今日取材でお会いする方たち全員に、健先輩の素晴らしさを伝えます!」と意気込む一幕も。そんな土屋を微笑みながら見つめる佐藤の姿は、まさに“健先輩”。先輩・後輩であり、仲睦まじい兄妹のようにも見える二人が、劇中ではパーフェクトなカップルを演じ切っている。
映画『8年越しの花嫁 奇跡の実話』は12月16日より全国公開