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『嘘八百』中井貴一&佐々木蔵之介 単独インタビュー

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『嘘八百』中井貴一&佐々木蔵之介 単独インタビュー

「いい加減」はよい加減

取材・文:早川あゆみ 写真:日吉永遠

実力はあっても運に見放されている古物商と、腕は立つのに贋作づくりに落ちぶれた陶芸家の中年男2人が、国宝級の利休の茶碗を巡って、自分たちの不遇のきっかけを作った大御所鑑定士らを相手に一世一代の大博打に挑む! 笑って驚いてちょっとホロッとできる、大人による大人のための大人の映画『嘘八百』。粋なメガネが印象深い古物商を演じた中井貴一と、妻に逃げられ哀愁ただよう陶芸家役の佐々木蔵之介が、映画に重ねた自らの人生観について語った。

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信頼感があるから仕掛けられる

中井貴一&佐々木蔵之介

Q:お二人の本格的な共演はこれが初めてだそうですが、お互いにどんな俳優さんだと感じられましたか?

中井貴一(以下、中井):映画やドラマを拝見して想像していた以上に、柔軟性のある方でした。非常にフレキシブルに動いてくれるので、安心感がありました。

佐々木蔵之介(以下、佐々木):大先輩ですが、全てにおいてニュートラルにいさせてくださる方でした。役者の仕事は演技だけではなく、カメラの回っていない合間の時間なども含めて大切だとよくわかっていらっしゃるから、安心して現場を楽しめました。

中井:僕は「いい加減」であることは、「よい加減」でもあると思っています。だって、変わるんですもん、お芝居って。そこには僕たち2人だけではなく、ほかの俳優さんもいて、スタッフもいる。その空気が全部含まれて作られるものなんです。

佐々木:余白ってことですよね。僕は貴一さんとやらせていただいて、自分でも予想がつかなかった気持ちが出てきたところがありました。

中井:役者同士にしかわかりあえない瞬間がありますよね。役者をやっていてよかったなと思えるのは、役として気持ちが交錯したそういう瞬間です。

佐々木:今回はそういう瞬間がたくさんありました。

中井:瞬発的に出てくるんですよ。お互いに遠慮がない、壁を取り払ってやっているところのせめぎあいがよかったのかなと思います。

佐々木:だから、何かあったら絶対それに対応するぞって、常にアンテナを張ってました。でないと失礼ですもん。

中井:「蔵之介くん、いまセリフを0.2秒遅くしたよね?」「ならこっちは0.1秒早くしようか」みたいな。僕は毎回変えてみようと思うほうだけど、相手に「変えても大丈夫」って信頼感があるから仕掛けられる。それが今回、とっても楽しかったです。

Q:それができる撮影現場はなかなかないですよね。

中井:そうですね。役者のチームワークって、飲みに行ったりご飯を食べたりってことじゃない。いかに密度の濃い芝居をするか、だと思うんです。

佐々木:芝居してるときのほうが相手がわかるって、貴一さん、言うてはりましたよね。

50歳は“山の頂上”

中井貴一&佐々木蔵之介

Q:近頃の邦画は若い人向けの恋愛映画が全盛ですが、今作は“大人による大人のための大人の映画”に仕上がっていました。

中井:映画の大切なところは、いろいろな種類があることだと思うんです。カレー屋ばっかりじゃなくて、おでん屋も居酒屋もハンバーガー屋もあって、その中からチョイスできることが幸せだったりするわけで。その幅の1つになれればと思いますね。でも、実は僕ら、自分たちを大人だとは思ってないですよ(笑)。

佐々木:いい加減、年は大人なんやから、「思えよ」って自分でも思うんですけどね(笑)。

中井:同級生に会ったりするとギャップを感じますし、すごい年上の偉い方だと思ってかしこまってご挨拶したら、「僕、中井さんと同じゼミの3つ後輩です」って言われたり(笑)。僕らがアホなんだと思うんですよ、夢ばっかり追ってるから。なので僕らが本当に世代に添ったものでいるかわからないけど、僕らが等身大に生きる努力をして、それを同世代の方が観てくれたらうれしいなと思います。与えられた世代から、与える世代になっていかないといけないときが、ちょうどいまの僕らの世代だと思うんですよ。

Q:この映画はダメな男たちの再生の物語ですから、その意味でも同世代の方へのエールになっていますよね。

佐々木:若者が「ちょっとくじけた」くらいじゃなく、えらい長いことこじらせ続けていたおっさんたちが「遅いで」ってくらいのタイミングでやっとお互いに火ぃつけたって話ですからね。同世代の方は「まだいけるんや」って応援したくなると思いますし、若い人には「おっさんらでもがんばるんやな」って思っていただけるんじゃないかと。

中井:やっぱり、夢って見なきゃ生きていけないんですよ。「人生が残り2~30年なら、くよくよしたってしゃーないんちゃう?」っていう思いが、年をとったからこそ出てきたほうがいいような気がするんです。以前、ドラマのセリフで言ったことなんですけど、例えば20年生きただけの人間より50年生きた人間のほうが偉いに決まってるんだから、20歳の誕生日パーティより、50歳の誕生日のほうを盛大にやるべきなんです。「よく長く生きてこられたね」って。生きる時間の先が短ければ短いほど、明るくいったほうがいいと思います。

Q:佐々木さんは、まさに来月2月に50歳になるわけですが。

佐々木:ぜんぜん心境の変化がないんです。生まれて半世紀ですけど(笑)。

中井:僕も、年をとることに興味がない人だったのでお祝いとか何もやらなかったんですけど、50歳は人生の半分を過ぎたという意味で、山の頂上に登った感があります。全部が見渡せる感じがして、必然的に自分の最期の地点も見えてくる。40代はまだ登ってる途中だからわからないけど、50歳になると「あそこだ、俺の最期」って。あと、ごく身近な方と死別する年代だから、死を身近に感じて、必然的に人生の見方や計算の仕方が変わってくると思いますよ。

佐々木:僕も見えてくるのかな。何が見えるんやろうな。でも、年をとってよかったと思うことは、どんどん諦めたり忘れたりできることかなと思います。若いときはがむしゃらに「正面突破しよう」と思うんですけど、いまは「抜け道探そう」って。

中井:僕がいま確実に言えるのは、年をとることのよさは「よい加減になってくる」こと。別ルートを探せる、つまり意固地から抜け出して楽な余白を作れるようになってくるのは、経験を積んだおかげかなって思います。

大人が必死で生きる滑稽さ

中井貴一&佐々木蔵之介

Q:お二人はこの映画をどう定義づけしますか。

中井:決してコメディーではないんですよ。大人が必死に生きると滑稽で面白くなってしまう。世の中は甘いものじゃないよねって。でも、「正しく生きる」じゃなくて、一生懸命生きることが素敵なんだよって、この映画を観て思ってくれたらうれしいです。

佐々木:生きてきたということは、何かを継続してきたということ。そこはちゃんと自信を持ってほしいし、ちゃんと評価をするべき。その人たちがもう一度がんばる姿は、観る人にとっても励みになると思います。

中井:よく若い人に「夢を持て」と言いますけど、そんなに簡単には持てないですよ。でも、とにかく続けてみる。その中に夢ってあると思うんです。諦めて早くやめてしまうから、夢を持つまでに至らないんじゃないかな。継続する中で夢って生まれるものなんだって、感じてくれたらなと思います。


中井貴一&佐々木蔵之介

劇中のダメ男っぷりが嘘のように、とにかくダンディーでカッコいい2人。自らの道をしっかりと歩み、確かな足跡を残しつつ生きてきた彼らが、本作を通して自身の生き方や信念を語る。それに聞き入り、うなずいてしまうばかりだった。2人がときおり見交わす目と目は、互いにいい仕事をしたことをねぎらいあっている大人の粋。高いレベルで共鳴した役者たちが紡ぎだした爽快でハートフルな物語は、観る者の背中をそっと押してくれる。

(C) 2018「嘘八百」製作委員会

映画『嘘八百』は1月5日より全国公開

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