『マンハント』ジョン・ウー監督 単独インタビュー
“憧れの人”高倉健さんに捧げた
取材・文:石神恵美子 写真:永遠
1976年に高倉健さん主演で映画化された小説「君よ憤怒の河を渉れ」を、『男たちの挽歌』シリーズなどの巨匠ジョン・ウー監督が現代版に再映画化。大阪を舞台に日本ロケを敢行し、殺人の濡れ衣を着せられた国際弁護士ドゥ・チウと彼を追う腕利きの刑事・矢村が、真相の究明に奔走するさまをスペクタクルなアクションで描く。中国人俳優チャン・ハンユーと福山雅治のダブル主演に、韓国人女優のハ・ジウォン、國村隼、竹中直人らアジアを代表するキャストを束ね上げたウー監督が、本作に込めた熱き思いを語った。
高倉健さんは永遠のヒーロー
Q:「君よ憤怒の河を渉れ」を再映画化しようと思ったのはなぜでしょう。
この映画は世界的に有名な俳優、高倉健さんに捧げた作品なのです。彼は私のヒーローでした。健さんには特別なカリスマ性がありました。タフガイだけれど、人情味に溢れていて。一度お会いしたことがあるのですが、常に相手を気遣う紳士な方でした。彼の作品には多大な影響を受けています。彼が亡くなって、私は悲しみにくれました。彼の出演作の一つをリメイクしたいと思っていた矢先、映画会社からこの作品をオファーされ、憧れの人が出演していた映画の原作を再映画化できるのはもちろんのこと、自分のスタイルに戻れるという意味でも非常にうれしかったです。
Q:今作では福山さん演じる矢村警部の活躍が目覚ましかったです。福山さんとは過去に日本のCMでお仕事をして以来のタッグだと思いますが、どんな印象をお持ちですか。
福山さんは自分の考えをしっかり持っていらっしゃって、人間的にとてもよくできている方ですね。この映画に関しても、一生懸命役づくりをしてくださったり、多くのことに貢献してくださいました。本当に助けられましたよ。例えば、香港人が書いた脚本だったので、日本語のセリフが不自然なところは、『日本人ならこう言いますよ』とか、提案してくれるんです。謙虚かつ、絶対に妥協しない人ですね。常にベストを尽くそうとする方です。さっきのテイクはダメ、もう一回撮りたいとか、そういうことを言ってくれますし。人と接するときにはいつも心から接し、それでいてユーモアのセンスも抜群で、現場を和ませてくれる、そういう存在でした。
福山雅治のアクションはまるでダンス
Q:福山さんがジョン・ウー流アクションを見事にこなしていらっしゃって興奮しました。福山さんはあのアクションを実際になさったんですか?
アクションはほとんど福山さんが行いましたね。爆発が伴うような、危険なスタントはやっていませんが、それ以外は自らやっていました。自分でできることはできるだけやるというスタンスで彼は臨んでいました。
Q:そうだったんですね。アクション映画の巨匠である監督から見た、“アクションスター福山雅治”は?
福山さんのアクションはまさしく王子さまがやっているようにとても優雅で、乱暴さを感じさせないんです。いつも華麗に決めてくださる。身体を回転させたりとか、まるでダンスしているようにきれいで。でも力強さもあるんです。日本ロケではどこに行っても福山さんの女性ファンに囲まれていました。女性ファンのみなさんは、福山さんのそういう一面を見てさらに好きになるのではないでしょうか(笑)。
全編日本ロケ!大阪の魅力も存分にアピール
Q:全編日本ロケで撮られたことも本作の魅力の一つだと思います。監督自身が日本らしい画作りを楽しんでいるように感じられました。日本ロケが決まって、真っ先に撮りたいと思った画は何だったのでしょうか。
最初に思ったのは、桜が満開の季節にぜひ撮りたいと。桜が満開になっている大阪城の堀で、水上バイクの追撃シーンを撮りたかったのですが、スケジュールの都合で桜の季節に間に合わなかったんです。でも、近鉄の協力を得て、大阪の一番高い建物(あべのハルカス)で撮れたのはよかったですね。そのシーンではダンスホールも貸してくれたんです。この映画を通して、大阪の魅力を見せたいという思いもあったので、意図的な描き方をしました。ストーリーとともに大阪もアピールしましたね。
Q:そんな日本での撮影はどうでしたか。
とてもいい時間を過ごせました。たくさんの規制があって、簡単にいかないこともありましたが、大阪府など現地の手厚いサポートがありました。一つ問題だったのが、銃撃やカーチェイスなどの大掛かりなシーンは、どうやっても大通りでは撮影できないと。でも、彼らはほかのオプションを提案してくれました。少し静かな通りを教えてくれたり。あと、大阪城近くの川で撮影させてくれたことに感謝しています。とても有名な観光地で人通りも多いのに、撮影許可を出してくださったおかげで、スペクタクルなシーンが撮れました。それに、心温かい人ばかりでした。
Q:日本で撮影しているのが驚きな、迫力満点のシーンばかりでした。監督のお気に入りシーンはズバリ?
やっぱり、水上バイクの追撃シーンですね。そのシーンでは、お祭りにお神輿も登場するので。あとはオープニングシーンです。居酒屋で女の殺し屋コンビが戦うところです。
Q:確かに、オープニングは日本人が観ても懐かしさを感じるシーンになっていました。具体的に参考にした作品などあったのですか?
特にこれといった具体的な作品はないんですけど、1960年代から日本の作品をたくさん観ていたので。当時の作品では居酒屋でやくざ同士の闘争とか賭博とか、そういうのがよく描かれていましたね。昔観ていた日本映画への懐かしさを込めて作りました。
Q:女の殺し屋は、監督にとって初めてですよね。
もともと、殺し屋コンビは男性と女性だったんです。ところがちょうど、スタジオからハ・ジウォンを何かの役で起用できないかという話を受けました。私は彼女の写真を見て、アクションスターだと思っていたんです。有名な女優さんだとは知りませんでした。とても美しく、でもソフトな印象で。私の娘、アンジェルス・ウー演じるもう一人の殺し屋が非常に強い感じなので、対照的で良いコンビになると思いました。あとはやはり、私は男同士の決闘しかうまく描けない、男のヒーローしか描けないと言われ続けてきたので、女性たちの決闘も同じように美しく描けるということを証明したかったんです。原作にない新しいキャラクターたちですが、ジウォンとアンジェルスがとてもすばらしい仕事をしてくれて。私にとっても新たな試みになったのは確かですね。
真の友情は言葉の壁を乗り越える
Q:日中韓のスターが集結し、本編では日本語・中国語・英語が飛び交います。言葉で苦労することも多そうだなと思ったのですが、実際はどうでしたか。あと、最後には主人公たちが英語を使わずに、それぞれの母国語で対話するのが印象的でした。
撮影中、コミュニケーションに障害はなかったと思います。この作品のテーマは友情なんです。ドゥ・チウと矢村は敵対関係にあるんですけど、徐々に互いを認め合い、協力することになる。困難を乗り越えて友人になるまでを描いたんです。真の友情というのは、言葉の壁を乗り越えて、目や表情で、相手の言おうとしていることがわかるものだと思います。最高の境地に達したら、言葉に頼ることはないんです。文化や言語が違う人でも、真の友人になれたら心と心は通い合わせることができる。そういうことを本作で描きたかったんです。
Q:健さんに捧げた本作が完成して、今どんなお気持ちですか。
ようやく完成してうれしいです。長年の夢が実現できたと。でも、もっと上手に撮れたんじゃないかとも思ったりしますね(笑)。これからの限られた人生で、いい作品を撮れるようにもっと励んでいきたいです。あともう一つ、日本のみなさんに伝えたいことがあるんです。日本の映画はかつて世界にとても大きな影響を与えていました。傑作もたくさんありますし、影響力のある俳優さんもたくさんいました。日本のみなさんもどうかそのことを忘れず、大切にしていただきたいと思っています。
ジョン・ウー監督の語り口からは、健さんへの、そして日本映画への、溢れんばかりのリスペクトが滲み出ていた。本作はそんな監督の熱き思いを形にするべく、これまでのクールなイメージから離れて本格アクションに挑んだ福山をはじめ、日中韓のキャストがそれぞれの個性を生かした競演に、美しく収められた日本の風景の数々など、見どころ豊富なエンタメ作品に仕上がっている。ウー監督作品でおなじみ、平和を象徴する“白い鳩”が本作でも飛ぶように、アジア平和への願いも感じられる一作だ。
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映画『マンハント』は2月9日より全国公開