『名探偵コナン ゼロの執行人(しっこうにん)』上戸彩 単独インタビュー
子供たちに好かれることは女優業ではなかなか得られないこと
取材・文:天本伸一郎 写真:高野広美
20年以上続く長寿シリーズながら、毎年の邦画興行収入ランキングでトップを争い、近作は5作連続でシリーズの興行収入最高記録を更新中と、大人から子供まで新たなファンを獲得し続けている劇場版『名探偵コナン』シリーズ。その22作目となるのが、最新作『名探偵コナン ゼロの執行人(しっこうにん)』。毎回、ゲスト声優の参加も話題となる本作で弁護士役を務めた上戸彩が、今回の役柄をどのように演じたのか、そして10作以上の劇場アニメや洋画の吹替えなどで務めてきた声優としての仕事の魅力を明かした。
女子目線で好きだったコナンたちの素敵な関係
Q:『名探偵コナン ゼロの執行人(しっこうにん)』は、東京サミット開催間近の厳戒態勢の東京で同時多発テロが勃発する中、公安警察の潜入捜査官など3つの顔を持つ安室透が不可解な行動をとり、コナンと対立する物語ですが、国民的アニメシリーズの最新作への出演依頼を受けた際の印象は?
2006年に「名探偵コナン」のテレビ放送10周年を記念したスペシャルサポーターを務めさせていただき、その際にテレビ版の「上戸彩と新一 4年前の約束」というエピソードで、わたし自身の役としてゲスト出演しましたが、今回はまた違った役として声をかけていただけたのがうれしかったですね。それに、大ヒット間違いなしのシリーズに参加させていただけるのが光栄でしたし、個人的には地元の友達の子供が「名探偵コナン」にドハマリしているので、その子に自慢したくてやらせていただきたいと思ったところもあって(笑)。迷わず即答で「やります!」ってお答えしました。
Q:「名探偵コナン」という作品自体にはどんな印象をお持ちでしたか。
父親がハマっていたので、小学生の頃は毎週一緒に観ていました。新一君がコナン君になってしまうわけですが、蘭ちゃんと新一君&コナン君というこの関係性が好きで、新一君かっこいいなあ、コナン君かっこいいなあって、女子目線で思っていましたね。蘭ちゃんは新一君に会えない寂しさがあるでしょうが、実はちゃんと新一君に守られているじゃないですか。素敵な関係性で、蘭ちゃんって幸せ者だなあと思っていましたね。今回、過去の劇場版を久々に拝見したのですが、わたしが小学生の頃に観ていたシリーズ初期とは登場キャラクターの量も全く違うし、初めて知ることがたくさんあって、こんなに深い作品になっているんだと驚きました。
声がかれるほどの熱演!
Q:今回の作品で上戸さんは、爆破事件の容疑者として逮捕された毛利小五郎の弁護を担当する橘境子を演じていますね。
わたしが演じた橘境子は、最初はちょっと何を考えているかわからないようなキャラクターで、後半とはギャップがあり、出ずっぱりな役ではないですけど、濃いキャラクターだったので、声を吹き込む楽しみがありました。キャラクターの絵も、何か自信なさ気な感じが面白そうだと思いましたし、自分に似ていないのもうれしかった。声の仕事というのは、容姿や年齢などに縛られず、自分と全く違うキャラクターを演じることができますから。
Q:アフレコは予定より短時間で終わり、ものすごく順調に収録できたそうですが、どのような演出を受けましたか。
基本的には、シナリオや境子の表情から感じたものでまず演じてみて、それに対して監督から指示をいただきましたが、「そのような感じで(大丈夫です)」と言っていただき、スムーズに進みました。ただ、あるシーンでドスを利かせるようなところは、自分の中で最大限に出したつもりが、「もっともっと」という指示があったので、それを意識してやっていったら、自分でもびっくりするぐらいの声量が出てきて、ちょっとスッキリしたというか、演じた後は気分爽快でした。「出し切っちゃえ!」と思って、声をつぶすぐらいに思いっきりやったので、声がかれちゃいましたけど(笑)。メリハリをつけるためにも、基本的には自分のナチュラルな感じで演じるシーンが多かったのですが、振り幅というか、いろんな顔を持っている姿を見届けてほしいですね。
親子や家族での映画館デビューに選んでもらいたい!!
Q:他にも難しいシーンなどはありましたか。弁護士役ということで専門性の高い用語も多かったと思いますが。
専門性の高いせりふや、例えば警察と検察など、さらっと聞いてしまうとわからなくなりそうな言葉については、聞いている人が聞き取りやすいことを意識して、特にハキハキと話すようにしました。収録は一人でしたが、収録済みの他のキャストの皆さんの声に合わせて演じることができてやりやすかったので、難しかったところはなく、最初から最後まで楽しんで演じましたね。ただ、未完成の画(え)がまだありましたので、「あの大ヒットシリーズがこんなに過密な製作スケジュールでやっているんだ!」と驚きましたけど(笑)。
Q:今回の『名探偵コナン ゼロの執行人(しっこうにん)』の見どころは?
明かせない部分も多いですし、この取材時点ではまだ製作中のため、わたしも完成品を観ていませんが、宇宙に浮かぶ人工衛星にまで話が広がるところもあって、劇場版『名探偵コナン』史上でもトップクラスに激しいアクションと最大級にスペクタクルな結末が観られる作品だと聞いています。また、今回も大人から子供まで幅広く楽しめる作品なので、親子や家族が一緒の空気感の中でスクリーンと向き合うというのは最高の時間になると思うので、親子や家族での映画館デビューにも選んでもらえたらうれしいです。
歌のお姉さん的な存在になれる喜び
Q:上戸さんはこれまでも邦洋のアニメや洋画実写の吹替えなどで、10作くらい声優を務めてきていますが、声の仕事にはどんな魅力を感じていますか。
実は、暗記が苦手でせりふを覚えるのも得意な方ではないのですが、アフレコは台本を見ながらできるので、どう表現するかというお芝居だけに集中できるんです。だから、仕事をお受けするときの安心感が全く違いますね。
Q:では、声優の難しさとは。
めちゃくちゃ難しいですね。それをあらためて感じたのは前作の『ズートピア』(2016)。それまでの経験で、アフレコを難しく感じることが段々減ってきていたこともあり、楽観的に考えて収録スタジオに入ったら、全然進まなくて。そこでみっちりしごかれて、特訓していただきました。普通の声の大きさや地声でしゃべっていても、絵には不自然というかマッチしないし、ありえないだろうっていうくらい声を張ってみてちょうどよかったりする。声の表現の振り幅を『ズートピア』で勉強させてもらったので、それを踏まえた今回は、やりやすさや余裕があったのかなとも思います。
Q:声優のお仕事は、普段と違った反響を感じますか。
やっぱり『ズートピア』や『ピーター・パン2/ネバーランドの秘密』(2002)は、子供たちからの反響が特に大きかったですね。ブームで終わらないというか、今の子供たちも10年以上前の『ピーター・パン2』を観てくれているから、「ジェーンの声だよ」と言っただけで理解してもらえるのにはビックリします。きっと今回もそうだと思いますが、「あの声だよ」と言ったときに、「すごーい」ってキラキラした顔で子供たちが言ってくれて、ちょっと歌のお姉さん的な存在になれる自分というのはすごくうれしい。子供たちに好きになってもらえるというのは、女優として映画やドラマに出演した際にはなかなか得られませんし、ずっと繰り返し観続けてもらえる永遠のブームになるような作品に参加できることは、わたしにとって宝物です。子供たちに観てもらえるような映画やテレビ番組は、もっとやっていきたいですね。
その作品クオリティーの高さには定評がある劇場版『名探偵コナン』シリーズ。豪華なゲスト声優の参加も定番となっているが、今回の上戸彩のように物語の鍵を握る主要キャストの一人を任せていることも多い。それだけに声優としての実力も重要だが、経験豊富な上戸はまさにピッタリ。子供たちからの反響が大きな声優の仕事を、上戸自身も本当に楽しんでいるようだった。
(C) 2018 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
映画『名探偵コナン ゼロの執行人(しっこうにん)』は4月13日より全国公開