『となりの怪物くん』菅田将暉 単独インタビュー
誰でももっと好きなように生きたい
取材・文:浅見祥子 写真:永遠
アニメ化もされた人気漫画を、『君の膵臓をたべたい』の月川翔監督が実写映画化した『となりの怪物くん』。極度のガリ勉だった高校一年生の水谷雫が出会う、予測不能の自由人で、天才的な頭脳を持ちながら不登校に陥る“怪物”吉田春を菅田将暉が演じた。雫役に、少女漫画の実写化作品で百戦錬磨の土屋太鳳。硬派な映画『あゝ、荒野』で日本アカデミー賞の最優秀主演男優賞を受賞した菅田は、春という役にいかに取り組んだのか?
個性があるだけで孤立する、まさに“いま”の物語
Q:このタイミングで王道の少女漫画原作モノに出演されたのが意外に思えました。そもそも、そうした映画に出てみたい思いがあったのでしょうか?
ありました。殴り合ってばかりは大変なんですよ! 恋をしたい……恋をさせてください僕に! と(笑)。タイミングに関しては、たまたまです。渋い作品が続いたあとに、たまたまこれが来ただけ。まさか自分が日本アカデミー賞で賞をいただくなんて思っていなかったですし。そのあとにこれって、自分でも面白いタイミングだなあって。
Q:数ある少女漫画の実写化作品の中で、本作に惹かれた理由は?
いま流行っているもの、多くの人の心を捉えるものをちゃんと感じなきゃいけないなと思っているのですが、『となりの怪物くん』はまさにタイムリーな作品です。まず、物語が現代的。春や雫、特に春が孤立するというのは、どういう世界か? ということです。春は言いたいことを言って気に入らないヤツを殴った、それだけであれほど疎外されている。もともと他の子より際立って優秀な子でもありますが、それを含め、ただ個性があるというだけで孤立するって、それがまさに“いま”なのかなと。そんな春を新鮮に感じる世の中って、どれだけ個性がないんだろう? と思ったんです。逆に言うと読者の方を含めて僕自身も、もっと言いたいことを言いたいし、もっと好きなように生きたい。友達や先生や親の顔色をうかがわず、自由にいろいろなことをやりたいはずです。そうしたうっぷんがこの作品の根底にはある。だから春や雫が幸せになる世の中になればいいな、と思いながら演じていました。春と雫はバチバチにケンカをしますが、それもお互いに心を開いているから。春の隣には雫、雫の隣には春でないとダメ。たまたまSNSで共通の趣味があったから……ではなく、目の前にいるこのヘンなヤツじゃなきゃダメなんだ! というところに惹かれました。
制服姿はいつまでイケる!?
Q:雫役の土屋太鳳さんはまさに“いま”の空気をまとったメジャーな女優さんですね?
いやあ面白かったです。やっぱり力強くて。太鳳ちゃんは現代っ子という感じはなくて、むしろ淑女のよう。ちゃんとした愛情を持ち、自分の意志で動くタイプの人で、僕からしたら太鳳ちゃんの方が怪物だなと。まず運動神経がハンパじゃないのを感じました。お芝居をするとわかるんです。お芝居って運動神経が大事。だって「よ~い、スタート!」で「この感情からスタートしてください」とか「このセリフのときはここで、こっちを振り向いてください」というようなことをすべて計算しながら演じなければいけない。それがやっぱりうまいな~と思って。肉体や精神と、いろいろなことのコントロールができるということですから。僕は同じことを二度とできないですけど、太鳳ちゃんはそれができるし、それをしないようにもできる。すごいですよ。さすがだ! と思いました。
Q:現在25歳です。高校生の制服はまだイケる! という感触が?
いやでもオレンジ色なんですよ! オレンジか……オレンジかあ!? というのは正直、最初のころはありました(笑)。原作通りなのですが。でも、ずっと着てると慣れてくるんです。学校がとてもキレイだったので、パンツのラインや靴に関しては少し提案させてもらいました。ローライズ気味に腰パンにしていますが、ダボつかないシルエットに変えてもらったんです。それで春の野暮ったさや少年らしさを出したい、でもキレイなラインにはしたくて。靴は普通のコンバースだと現実的に思えて生々しすぎるので、キレイなUSA製コンバースにしました。あの学校の雰囲気にオレンジ色の制服がなじむかなと思ったんです。
Q:制服は何歳までイケそうですか?
僕自身は学ランだったので、ブレザーというだけで恥ずかしいんですよね。ブレザーって格好よすぎて、キザなイメージがあるというか。だから気持ちとしては、16歳くらいからダメです(笑)。学ランだったら……でもやるとしたら『帝一の國』みたいなことになるんでしょうね。
映画でこんなに笑ったことはない
Q:今回どのような役づくりをしたのでしょうか?
ひとつは、笑顔ですね。春は笑顔が大事。映画でこんなに笑ったことはない気がします。でも無垢に笑うって本当に難しくて。例えば、写真を撮るよ! と言われて、無垢に笑えますか? という話。僕は無理です。そりゃ無理でしょう。だっていろいろ考えちゃうから。俳優業でならできますけど、普通に考えたら……そうそう。ピースの位置って、年齢が出るらしいんです。若ければ若いほど位置が高く、子供は(バンザイ)こんな感じ。だんだんピースが小さくなって中学生、高校生と位置が下がって。いまなんて僕はこんなん(腰くらい)ですもん。でも春という役柄では(またバンザイ)ここを目指さなきゃいけない。それはやっぱりスイッチを切り替えていかないとできないです。それに、春にとって「はじめまして」の出来事は、僕自身にとってはそうではないから。不登校だった春が高校へ初めて行き「おまえ、委員長っていうんだろう?」と尋ねますけど、いや僕はクラス委員長がどういうものか知ってるし! と(笑)。でもそうなったらダメで、そこに新鮮さを持たないといけない。無垢であるのは難しかったです。
Q:ようはテンションを上げていくことですか?
それと“はじめまして感”ですね。年齢を重ねると初めてのものってどんどん減っていくけど、春にとってはすべてが初めて。友達がどういうものかさえわかっていない。カツアゲされても、「でもアイツらは僕を怖がらずにいてくれた」というのが春にとって友達のラインで、一般的なものとは違う。それをフラットに言えるヤツって、現実に考えたらいるだろうか。その素直さです。そこに少し、春の過去が見えたらいいなと思って演じていました。
高校生の日々は大事件の連続
Q:完成した映画を観た感想は?
あったかい映画だな、いいなこういうのって思いました。高校生って多感で、景色にちょっとフィルターがかかってるんですよね。すべてがキラキラしていて視野が狭く、学校がすべて。大人にしたら、たいした悩みじゃないことでも彼らにとっては大事件です。以前、学園モノのドラマをやっているときに泊まりがけのことがあったんです。僕は二十歳を超えていたんだけど、休日にはみんなでどこかに出かけたりして。そしたら十代の子たちが僕の部屋に来てドアをどんどん叩いて、「菅田さん大変です!」と言うから、火事? 火事? みたいな(笑)。「どうした?」と聞いたら「さっき〇〇と××が並んで外を歩いてました!」って、しょーもない(笑)。それがどうした? と思ったけど、でもそういうことですよね。彼らからしたら大事件で、その馬力。高校生の春にとって、日々が大事件の連続なんだっていうのが出せたらいいなと。
Q:前半の春の“爆発”について、改めて劇中で観た感想は?
そこはもうどう映ろうと、観客の方と雫の記憶に残ればいいなと思っていました。映画の中で春が去ったあと、雫がひとりで春との日々を回想するんです。そこで「春といると心底疲れるけど、思い出すだけで楽しい」というセリフを、春は雫に言わせなきゃいけない。だからどれだけ奇怪に見えようと、記憶の中に、笑っている春が残るようにというのが僕の願いでした。だって「いやいや雫、春なんて置いといて勉強だけやっといたら?」と思われたら終わりなので。
菅田将暉×少女漫画。その組み合わせに耳を疑う感覚はまったくの杞憂というもの。劇中の彼は、期待を裏切らない暴れぶりでキラキラと輝いている。話を聞いて、それがきっちりと構築された演技プランであったことに心底驚いた。大好きな人とのかけがえのない日々を振り返ったとき、脳裏に浮かぶ光に包まれたような、はかないような笑顔。そんなあまりに繊細な一瞬を意図し、真に自由に自然に見えるようにしつつ、その姿を次々とカメラに焼き付けていたとは。なんて恐ろしい俳優だろう。でもそれをやりきってしまうのがこの人で、だからこそいま、多くの作り手に求められるのだろうと実感した。
映画『となりの怪物くん』は4月27日より全国公開