『ラブ×ドック』吉田羊 単独インタビュー
言い訳をしない人がカッコいい
取材・文:磯部正和 写真:中村嘉昭
人気放送作家の鈴木おさむが初めてメガホンをとった映画『ラブ×ドック』。本作でアラフォーのパティシエを演じたのが、これが映画単独初主演となる女優・吉田羊だ。これまで「仕事ができる上司」や「相手を論破していく切れ者」などタフでクールなキャラクターを演じることが多かった吉田が、一転して恋に不器用な等身大のヒロインに。「気恥ずかしかった」と照れながら、自身のパブリックイメージや仕事への取り組み方などについて語った。
つらいこともひっくるめて人生の肥やし
Q:剛田飛鳥という恋愛に不器用なアラフォー女性を演じましたが、どのようなアプローチ方法で臨んだのでしょうか?
まずはパティシエという職業でしたので、事前に何度か製菓レッスンをさせていただきました。パティシエとしての所作に嘘があると飛鳥自身の人生が見えてこないと思ったので、現場でも逐一先生に指導していただきました。性格面としては「実に本能的で学習しない女性」という言い方もできますが、一方で、素直で自分の心に正直な生き方はとても魅力的でした。演じるわたしも飛鳥のセリフや考え方に共感することが多かったので、気持ちに嘘がないようにわたしの心とリンクさせて演じるように心掛けました。
Q:どんな部分に共感できたのでしょうか。
映画の最大のテーマは恋に限らず、「人生において無駄なことはない」ということ。わたしも生きていて、つらいこともうれしいこともすべてひっくるめて人生の肥やしだと思っていますので、飛鳥のような、「とにかく躊躇しないでやってみよう」という考え方には共感できました。
Q:失敗してしまうかもという怖さはありませんか?
もちろんありますけれど、不安で飛び込むことを躊躇して人生が終わってしまうよりは、たとえ波瀾万丈でつらい結果になったとしても、飛び込んで経験を積んだ方が、人生は数倍面白いという考えをする方です。
Q:そういう考えは昔から?
そうですね。これまでの人生のところどころで大きな選択を迫られることがありました。そのとき「失敗したな」と落ち込むこともあるのですが、つらい環境に置かれたときこそ、こういう考えで自分を奮い立たせていたような気がします。
「恋愛ものは気恥ずかしい」の真意
Q:完成披露試写会では「恋愛ものに気恥ずかしさがあった」とおっしゃっていましたね。
これまで仕事ができる上司みたいな、クールな役が多く、そこに恋愛要素がなかったので、世間的に「吉田羊に恋愛要素を求めているのか!?」という不安があったのです。自分のパブリックイメージにそぐわないことをしているな……ということが発言の真意です(笑)。
Q:パブリックイメージというものは意識する方ですか?
普段の生活ではまったく意識していないですしダルダルなのですが、飲みに行ったりすると「お酒強いんでしょ」とか「朝まで顔色変えずに飲んでいそうだよね」とか「仕事できそうだよね」というイメージで接してくる方が多いんです。なんとなくですが、そういうふうに言ってくださる方って、わたしの演じた役を見ていただけているわけで、あえてそのイメージを壊すのは申し訳ないなと思うことがあります。
Q:サービス精神が旺盛なのですかね?
それはあるかもしれません。わたしの両親がエンターテイナーで、人を喜ばせることが大好きな人たちなので、その血は受け継いでいるかもしれません。でもわたし自身は根暗なんですよ(笑)。
Q:まったく見えません。
よく言われます(笑)。先ほどエンタ―テイナーな部分があると申し上げましたが、それも自分が根暗な人間だという自覚があるので「こんな根暗な自分でも、人を喜ばせることができるかもしれない」と自身に期待している部分もあるんです。
Q:根暗であることは役者に向いている?
ある人から「役者は考える仕事だから、根暗な人の方が向いているよ」と言われたことがあります。確かに女優の仕事って、外に向けたものではなく、常に過去の自分を超えていく作業なので、内に問いかけるという意味では、根暗な方が深く自身と向き合えるのかもしれませんね。
チケットの手売りをしていた小劇場時代
Q:ここまで数多くの作品に出演されていますが、単独では映画初主演ですね。
自分の作品だなという責任感は、他の作品よりは強いですが、役へのアプローチ方法や役者としての居方という意味では、特別変わったことはありません。むしろ作品をいただくときは毎回、立場に関係なく「ここがスタート」という気持ちでやっています。今回で言えば主演ということなので「映画の主演として、今の吉田羊はふさわしいのか」ということが試されているのかなと感じています。
Q:飛鳥は人生の転機を迎えようとしているヒロインですが、吉田さんにとっての人生の転機は?
一つは映像の仕事をするようになったことですね。10年間、小劇場でお芝居をしていて、当時はアルバイトもしていましたし、親に借金をしながら女優を続けていました。日々の収入は、舞台公演をしたとき、チケットを手売りして、1枚につき300~500円のチケットバックだけ。そこから映像の仕事をするようになり、不特定多数の人にお芝居を観ていただくことで「これでしっかり食べていくんだ」という自覚を持つようになりました。
Q:こうした自覚を持つことでお芝居の質は変わったのでしょうか?
質というよりは考え方ですかね。昔はダメ出しされることが、すごく嫌だったんです。何か自分が否定されているような気がして……。でも今はダメ出しされなくなったら終わりだなと思うようになりました。自分自身の台本の読み方、役づくりだけだと、どこか客観性を欠いてしまう。現場で監督や共演者と足りない部分を埋めていく作業が必要なんだなと痛感しています。ただ、だんだん年齢を重ねると、任される芝居が多くなってくるので、ダメ出しされないんですよね(笑)。それはそれでうれしいことですが、自分が不安に思っていることや違和感があったら、しっかりこちらから監督に聞くようには心掛けています。
カッコいい女性像とは?
Q:劇中、「格好いい女になりたい」というセリフが印象的でしたが、吉田さんにとって格好いい女性とは?
わたし自身の反省でもあるのですが「言い訳をしない人」。人生の選択をしていくときに、自分で決めて、自分で責任をとれる人。しっかり自分で決断すれば、言い訳をしないだろうし、人のせいにしない。わたしは言い訳をしてしまう人間だったので……。
Q:俳優の世界は、そういう格好いい女性が多いですか?
昨今は、自然体でお仕事をされている石田ゆり子さんや、天海祐希さん、板谷由夏さんなどが、メディアでクローズアップされて「彼女たちの生き方が素敵」と認められている時代。その意味では、アラサー、アラフォー世代の女性が生きやすい時代になったのかなとは思います。
Q:「生きやすい時代になった」という言葉もありましたが、アラフォー世代の女性を演じてみて、感じたメリットはありますか?
積み重ねてきたことの強み、でしょうか。女性に限ったことではないと思いますが、やってきた年月が長ければ長いほど、しっかりと努力してきた人は、それが強みになる。飛鳥も、恋愛で傷ついても、パティシエとしてしっかりとやってきた時間があったから、そこが支えになっているわけで。
「根暗だけれどエンターテイナー的な精神がある」という話を聞いたとき、一瞬矛盾する特性のように思えるが「こんな根暗な自分でも、人を喜ばせることができるかもしれない」という発想を聞いて腑に落ちた。しっかり自分の心と向き合い、地に足がつきつつも、常に新しいことにチャレンジし「予測できる未来なんてつまらない」と言い放つ。「恋愛ものには気恥ずかしさがあった」とも口にしていたが、この作品を観れば、それも吉田の新しい魅力として人々に届くことは間違いないだろう。
(C) 2018 『ラブ×ドック』製作委員会
映画『ラブ×ドック』は5月11日より全国公開