『友罪』山本美月 単独インタビュー
正解のない映画
取材・文:坂田正樹 写真:尾藤能暢
17年前、凶悪事件を起こした元少年犯と、幼いころの心の傷に今も苦しむ元雑誌記者。ある職場で偶然出会った孤独な二人は、友情を育みながらも、逃れられない過去の過ちと向き合うことになる。生田斗真と瑛太がダブル主演を務める映画『友罪』で、恋と野心の狭間で揺れ動く生田の元恋人・杉本清美を繊細に演じた山本美月。昨年7月にファッション誌「CanCam」の専属モデルを卒業以降、本作を含め多彩な役にチャレンジし続ける山本が、女優に対する思い、葛藤、未来に描く夢などを真摯(しんし)に語った。
「もっと女を出してほしい」監督の要求に納得
Q:友情、正義、裏切り、葛藤……いろいろな感情が渦巻く本作、実に見応えがありました。山本さんはどんな感想を持ちましたか?
このやり場のない感情をどこに向けたらいいのかわからないというか……本当に正解のない映画。ずっと心に残り続ける作品だなと思いました。観終わったあと、友達同士で話し合ったり、学校でディベートしたりするのもいいですし、1人でこの作品を抱え込んで、じっくり考えてみるのもありですね。生田さん、瑛太さんを筆頭に、錚々(そうそう)たる方々が出演しているので、どのシーンをとってもすごいのですが、とくにわたしは、(元少年犯・鈴木役の)瑛太さんのお芝居がとにかくすごすぎて……ゾクっとするくらい怖くて、悲しかった。
Q:『64-ロクヨン-』の瀬々敬久監督がメガホンを取りましたが、撮影現場はどんな雰囲気でしたか?
瀬々監督は、好きなことに夢中になっている子供みたいな無邪気さもあり、独特のリズムをお持ちの方でしたね。急にネジが止まったように動きがピタッと固定することがあって(笑)。たぶん、何かがひらめいたか、頭の中を整理されていたか、どちらかだと思いますが、周りが自然と「監督が考えているから静かにしよう」みたいな空気になるのがすごく新鮮でした。
Q:題材もシリアスなだけに、ピリピリした空気はなかったですか?
そういう空気はなかったですね。監督が声を荒らげているような場面は全くありませんでした。ただ、ダメな演技をしたときにはっきりと言ってくださったり、語彙力のないわたしに難しい言葉をかみ砕いて教えてくださったりすることはありました。どこか、映画の勉強に来ているような、そんな感覚がありましたね。“ザ・邦画”という感じの現場でした。
Q:生田さん演じる元恋人・益田への思いと、記者としての野心の狭間で揺れる難しい役柄だったと思いますが、演じてみていかがでしたか?
衣装合わせのときに瀬々監督から「普通の人を演じてくれ」と言われて、台本を持ち帰り、自分なりに杉本清美という役をつくっていきましたが、現場で「もう少し女を出してくれ」と言われて。元恋人である益田に対して、まだ割り切れないところがあり、好きだという気持ちを断ち切れずにいる感じがほしいと。わたしはもっとサッパリした女性をイメージしていましたが、確かに少し気持ちを引きずっている方がリアルだなと納得しました。そこから女らしさを意識して、「まだ好きだ」という気持ちを微妙に乗せながら演じてみましたが……すごく難しかったです。
頭の中でアニメ化して役づくり
Q:清美と似ているところ、あるいは共感する部分はあります?
仕事とプライベートがうまく切り替えられない感じ、すごくわかります。たぶん、清美の職業病だと思うんですが、普通に会話をしていても、「あ、これって記事になるかも」って思ってしまうんですよね。わたしも日常生活の中で、怒ったり、泣いたりするようなことがあると、「この感情をあの場面でぶつけてやろう」と思ったり、不機嫌な女性を表現したいときに、誰かを一歩引いて見て「参考にしよう」と思ったり。それも一種の職業病だと思うので、そこは清美と一緒なのかなと思います。
Q:人間観察で役づくりされているんですね。
あとはわたし、漫画が大好きなんですが、絵を描いて役づくりしたりすることもありますね。それでも演じ方がわからないときは、ちょっと頭の中でアニメ化して考えてみたりして、自分が演じる役の好きな部分を探すことから始めます。そうすると、ちょっと役をかみ砕いて入っていけるかなと思うんです。
生田斗真のプロ意識に感嘆
Q:今回は生田さんとの共演シーンがほとんどでしたが、役者として何か影響を受けたところはありますか?
生田さんは、撮影中も待機中も、お会いするとシーンごとに違うイメージでした。居酒屋で言い合うシーンのときは、わりと気さくにお話してくださったのですが、編集部に乗り込むシーンのときはいつも以上に集中されていて、話しかけるような雰囲気ではなかったですね。ご一緒したシーンは全て別日に撮影していますが、それぞれ違う生田さんがいる……そこには強いプロ意識を感じました。
Q:生田さんのそういった姿勢を次の現場で生かそうと?
見習いたいと思ったりしますが、ただ、生田さんは、その方法が自分の中で一番いい芝居ができるテンションだということをご自身でわかっているからできるんだと思います。わたしの場合、例えば、いつもと同じように過ごすことでいい芝居ができるのか、役の世界に入り込んだ方がいい芝居ができるのか、まだ自分のスタイルがわからず安定していないので、人それぞれ性格も違うし、現場によっても違うので、模索中といったところですね。
素顔はリケジョ!ヨガよりも結果が明確な筋トレが好き
Q:仕事に行き詰まっていた清美は“焦り”を見せるところもありますが、山本さんは、仕事で立ち止まったりしたことはありますか?
立ち止まるほど、まだそんなにお仕事していません(笑)。ただ、作品ごとに悩むことはあるので、全くないことはないですが。
Q:例えば、役づくりで行き詰まったことはないですか?
原作ものは悩んだりしますね。例えば、漫画ではこういう設定でこの子は苦しんでいるけれど、脚本化されたときに間のプロセスが抜けている場合があるので、どんなふうに感情を持っていけばいいのか、すごく悩みます。また、漫画が原作だと、ちょっと非現実的な部分があるので、演じる上で漫画的なリアクションに切り替えるのが難しいです。
Q:先ほど、自分のスタイルを模索中とおっしゃっていましたが、ご自身の中に理想の“女優像”みたいなものはあるんですか?
明確にはないですが、まだまだ下積みが足りないなと感じているので、もっともっと経験を重ねて、もう少し自分に余裕を持ちたいと思っています。その上で、周りのことに気を配りながら主演を張れる、そんな女優になりたいなと思っています。
Q:現場での経験が何よりも大切だと思いますが、美や健康についても何か心がけていることはありますか?
週に2回ジムに行って、それとは別に2回走っています。ただ最近、外を走ることに飽きてきたので、キックボクシングを始めようかなと思って。ヨガなどもいいとは思うのですが、ガッツリ体を動かしたり、筋トレしたりした方が、個人的には結果がはっきり出る気がすると思うので。呼吸法とかになると、いまいち曖昧に感じてしまって……そういうところは、理系っぽいのかも(ちなみに大学は農学部)。あとは、大好きなアニメを観ながら、絶え間なく2次元に恋してる、これも健康の秘訣かな(笑)。
時には凛とした美しさを解き放ち、時には雑草のようなたくましさをにじませる。ストイックなまでに女優という職業と向き合う山本は、モデルというきらびやかなラッピングを自ら破り捨て、自分の中に眠る可能性を次々と掘り起こす。スタイルを確立するためには、もっともっと下積みが必要だ……彼女から発せられる言葉の端々に正直さと意志の強さが宿るのは、“女優で生きていく”という揺るぎない覚悟の証しではないだろうか。
映画『友罪』は5月25日より全国公開