『50回目のファーストキス』山田孝之&長澤まさみ 単独インタビュー
10年ぶりの共演でやっと打ち解けた
取材・文:坂田正樹 写真:中村嘉昭
舞台はハワイ。天文学者を夢見るツアーコーディネイター・大輔(山田孝之)が、ある日、カフェで働く美女・瑠衣(長澤まさみ)に恋をした! ところが彼女は、昨日の出来事を一晩で全て忘れてしまう短期記憶障害を抱える身。毎日猛アタックを続ける大輔の一途な思いは届くのか? ハリウッド映画『50回目のファースト・キス』を、『銀魂』『斉木楠雄のΨ難』の福田雄一監督が笑いと涙でリメイク。約10年ぶりに共演を果たした山田と長澤が、ときおりジョークを織り交ぜながら、思いっきり弾けたハワイロケでの思い出を振り返った。
罪悪感を覚えるほど楽しかったハワイロケ
Q:(インタビュー前から仲良く雑談する姿が見られ)お二人、息が合っていますね。
長澤まさみ(以下、長澤):10年前に『そのときは彼によろしく』(2007)という映画で1度共演しているんですが、そのときは、お互い人見知りでぜんぜん仲良くなれなかったんです。でも、今回はすごく仲良くなれました。
Q:それはもしかして、ハワイ効果ですか?
長澤:たぶん、そうだと思います(笑)。ハワイは組合が厳しくて、次の撮影まで時間を空けなければならなかったので、毎晩、みんなで食事に行って歓談する時間がたくさんありましたからね。
山田孝之(以下、山田):その日によって撮影が休みの人がいて、美味しいお店をリサーチしてくるんですが、「ここが美味しかったよ」とか、つねに情報交換して楽しんでいましたね。
Q:ちなみ10年前は、お互いにどんな印象をお持ちだったのでしょう。
長澤:山田さんは、作品に集中している“孤高の人”みたいな感じでしたね。でも、そのときの映画が幼なじみの役柄だったので、わたしから積極的に話しかけて、少しは距離を縮めた感触はあったんです。ところが、番宣しているときに、「いやぁ、(長澤の)壁が厚くて」と山田さんに言われて……。あのときは、ちょっとびっくりした(笑)。
山田:え? そうだった?(笑)。それはたぶん、“女優・長澤まさみ”という高くて分厚い見えない壁を、僕が勝手に感じていただけだと思います。
Q:今回の共演で、その壁もなくなったと。
山田:まぁ、そうですね。思っていた印象よりは、ずっと明るくて、親しみやすい人なんだな、というのは、すごくよくわかりました。
長澤:わたしはもう、壁はぜんぜん感じてないですよ。今回は福田組ということで、みんな顔見知りで、面白い人ばかりで、山田さんもリラックスしてたしね。
山田:うん、本当に楽しかった。なんといってもロケ地がハワイですからね。独特の空気感がありますから。
長澤:みんな、浮かれてたよね。
山田:いや、浮かれるでしょ! ハワイだし。イェーイ! ってなりますって(笑)。
長澤:海キレイー! とかね。
山田:今日の撮影終わったー! 何食べに行く? みたいなね。
長澤:そうそう。でも、仕事で来ているのに浮かれている自分にだんだん罪悪感を覚えはじめて、東京の友達にメールで相談したんです。そしたら、「普通、浮かれるでしょ!」って返ってきて。それからは「あ、浮かれていいんだ、ここは浮かれる場所なんだ」って吹っ切れました(笑)。
Q:一番、舞い上がっていたのはどなたでしょう。意外と福田監督だったりとか。
山田:いやいや、福田監督は忙しいですからね。やっぱりムロ(ツヨシ)さんかなぁ。めちゃくちゃ楽しんでましたね。ただ、大河ドラマと同時進行だったので、「日焼けしないように気をつけなきゃ!」とか騒いでました。結局、焼けてましたけどね(笑) 。
オリジナル版がもたらした安心感
Q:福田監督らしい笑いをちりばめながら、思いのほか感動的で、ホロっとくるシーンもありました。完成した作品を観ていかがでしたか?
山田:本当ですか? そう言っていただけるとうれしいです。僕は正直、わからなかったですね。笑いに関しては、福田組のいつもの感じなんですが、「ちゃんと面白く見えているんだろうか」とか、感動の部分は「気持ちが入っていたかな」とか「主人公の切ない思いが伝わっただろうか」とか、確認作業になってしまうので、客観的に映画を観て、お客さんのように感想を述べる、という風にはならないんですよね。
長澤:わたしが大爆笑するシーンが随所にあったので、「これは絶対、観客の皆さんにも笑ってもらえる!」と確信しました。感動のシーンについては、どう受け止めてもらえるのか、わたしもまだわかりませんが……。
Q:オリジナル版は、やはり意識されましたか?
山田:日本人がリメイクする時点で、全く違うものになるし、良くも悪くも繊細さだったり、暗さだったりが出ると思うので、そんなに意識することはなかったですね。逆にオリジナル版があることで安心感がありました。本家が面白いから、日本版も絶対に面白くなるだろう、みたいな。
長澤:日本人と欧米人だと、受け取り方や表現が違うので、その辺りはどうするのかな? とちょっと思っていたところもありましたが、同じものにする必要はないし、福田監督が脚本を書かれるわけだし。わたしはハワイ在住の日本人役だったけれど、「そのまま日本人の感覚でいい」と言われたので、違和感はなく素直に演じられました。
Q:オリジナル版では獣医でしたが、今回、主人公を天文学者を目指しているという設定に変えたところがよかったような気がします。
山田:確かにそうですね。日本人には(星を観測する)天文学の方がロマンチックで合っているなぁっていう気がしましたね。
ゆるそうに見えて実は過酷な福田組
Q:長澤さんは『銀魂』に続き、福田組は2回目となりますが、撮影現場には慣れましたか?
長澤:福田監督は、もともと舞台をやられていた方なので、「一発本番」という印象が強いですね。待ってくれない現場っていうのかな。陽気でゆる~い雰囲気かと思いきや、撮影はスピーディーで、どんどん終わっていくので、その時に集中力を注ぎ込めるよう準備をしておかないと、失敗してしまう。皆さんが思っている以上に過酷で、決して楽な気持ちではいられない。毎回、勝負みたいなところがありますね。
山田:でも、福田監督は「ダメだ」と思うと何度も撮り直すので、逆に一発でスピーディーに行くっていうのは、「長澤まさみ、いいね、OK!」という意味だと思いますよ。ムロさんとか、(佐藤)二朗さんですら、違うと思ったら何度もやらすから。
Q:山田さんはもう「勇者ヨシヒコ」シリーズからの常連で、福田組の顔でもありますが。
山田:いやぁ、もう楽しいですよ。基本がコメディーですし、キャストも常連の方が多いですし、とにかく構えなくていいですからね。「コメディーをやるなら福田さん」というくらい、信頼はしています。ただ、今回は英語のセリフがあったので、ぜんぜん気は楽じゃなかったですが(笑)。
Q:福田マジックといえば、カフェで初めて出会った2人が、恋の予感に大喜びするシーン、あれは大爆笑でした。
長澤:あのシーンは、2人で小躍りするって台本に書いてあったんですよ。オリジナル版も小躍りしているんですが、現場で「日本人は小躍りなんかしない」ということになって、“ヨッシャー!”みたいな独特の表現になったんです。
山田:ああいうところに出ますよね。悪い意味じゃないんだけど、あの(長澤の)動きの不器用さに絶妙な面白さがあるんだよね。僕には絶対真似できない。
長澤:ええ? 何? わたしの話? あれは一応、笑いを狙ってるんですけど。
山田:そうなの? あの面白い動き、狙いだったの? うぁ、かっこいい、さすが女優さん!
長澤:あれ? ちょっと待って。なんかわたし、バカにされてる?(笑)
山田:違う違う、褒めてるんですよ、褒め言葉!(笑)
福田監督が認めた長澤のコメディエンヌぶりを、楽しそうにイジリながらもリスペクトする山田。本作では、そんな2人が笑いだけでなく、マジでホロリとさせてくれる切ない感動も届けてくれる。さらに、長澤が「大ファンになった」という福田組のニューフェイス、太賀の怪演も見どころなのだとか。果たして、女子の心をくすぐる超おバカキャラの実態とは? 1粒で何度も美味しい新感覚ラブストーリーが初夏を駆け抜ける。
映画『50回目のファーストキス』は6月1日より全国公開