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『羊と鋼の森』山崎賢人 単独インタビュー

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『羊と鋼の森』山崎賢人 単独インタビュー

すべてを捨てて感覚を研ぎ澄ました

取材・文:磯部正和 写真:日吉永遠

若手人気俳優として数々の映画やドラマに出演している山崎賢人(「崎」は「たつさき」)。近年は漫画の実写化作品への出演が続いていたが、映画『羊と鋼の森』では、ピアノの調律師という職業を題材に、セリフの少ない繊細な演技を披露し、新たな一面を見せている。北海道・旭川で行われたロケで「作品とじっくり向き合えた」という山崎が、本作で挑んだ新しいアプローチ方法やこれまでの俳優人生を振り返った。

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橋本監督とはじっくりディスカッション

山崎賢人

Q:橋本光二郎監督とは『orange-オレンジ-』以来、2度目のタッグとなりましたね。

一度ご一緒した監督とまた作品をやれるというのはうれしかったです。

Q:前作とはなにか違いがありましたか?

『orange-オレンジ-』のときは、僕以外にも5人の仲間がいる撮影現場だったことと、僕自身すごく忙しい時期だったので、あまりゆっくり話すことができませんでした。でも今回は(北海道の)旭川のロケで、比較的ゆっくりと撮影に臨めたので、役についても深くコミュニケーションをとりながら撮影ができました。

Q:どんなコミュニケーションをとったのでしょうか?

現場でもそうですが、同じホテルに泊まっていたのでホテルの温泉でお会いしたときなども長時間、話し込みました。僕が演じた外村直樹という男は、北海道の山のなかで育った青年なのですが、僕自身は都会で育ったので、理解しづらい部分などをしっかりお話しさせていただきました。

『ジョジョ』とは正反対のアプローチ方法

山崎賢人

Q:『orange-オレンジ-』からの成長を見せたいという思いはありましたか?

特にそういう気持ちではなかったのですが、時系列的に言うと、この映画の撮影の前が『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』だったんです。三池崇史監督と橋本監督は全然違う演出方法ですし、作風もまったく違うので、『ジョジョ』で得たものはすごく大きかったのですが、あえてそれを全部捨てて臨もうと思いました。

Q:具体的に捨てるというのは?

『ジョジョ』で演じた東方仗助は人気漫画のキャラクターで、情報もたくさんありました。戦いのシーンが多く気合を入れて死ぬ気で臨んだんです。でもこの作品の外村は、とても繊細な表現が要求されるものでした。時期的に僕自身が繊細な感じじゃなかったのですが、まずはすべてを捨てて感覚を研ぎ澄まそうと思ったんです。

Q:役に対してのアプローチ方法を変えたということですね。

そうですね。できる限りフラットに、キャラクターを作り込むことなく、現場で感じることをどれだけストレートに表現できるかが重要だと思いました。森で音を聞いたときの感覚など、空気で感じるものをスクリーンに映し出せるかがキーポイントになると思っていました。

三浦友和のセリフに「鳥肌が立った」

山崎賢人

Q:その場で感じたものを表現するということですと、受ける芝居が重要になってきますね。

三浦友和さん、鈴木亮平さん、光石研さん、堀内敬子さんなど長くキャリアを積まれている方たちと僕の関係性が、劇中の(三浦演じる)板鳥さんや(鈴木演じる)柳さんと外村の関係性に似ていたので、先輩方の演技に引っ張っていただく部分が多かったです。

Q:調律師を目指すきっかけになった板鳥を演じる三浦さんと対峙してみていかがでしたか?

初めて出会うシーンで「コツコツですよ」と言われたのですが、そのときの友和さんの存在感と厚みには衝撃を受けて、鳥肌が立ちました。セリフ一言で、包み込んで背中を押してくれる感じは「すごいな」と思いました。大先輩と現場を共有することは、なにごとにも増して学ぶことが多いです。

Q:一方、上白石萌音さんとは、ドラマ「陸王」でも共演されていましたね。

実は「陸王」よりもこちらの撮影の方が先だったので、この現場が「初めまして」だったんです。普段の萌音ちゃんは、めちゃめちゃ明るくて現場でも楽しく過ごさせてもらいました。でもお芝居をしているときは、集中力も高く表現力もすごかったです。音楽もやられているので、そういった感性も芝居に出ているなと感じました。

Q:ベテラン俳優が多い撮影現場でしたが、そのなかで主演を務めるということで、なにか意識したことはありますか?

あまりそういうことは意識しませんでした。特に今回、僕が演じた外村は、新人調律師という役柄だったので、みなさんのなかでしっかり自分の役割を全うしようということだけを考えていました。

これまでの作品で後悔しているものはない

山崎賢人

Q:先ほど、本作は比較的ゆっくり撮影に臨めたとおっしゃっていましたが、この2~3年は、公開映画が怒涛のように続いていましたね。

とにかく目の前にある役をやることに夢中でした。漫画原作の青春ものが続いていたのですが、自分の経験値に基づいた役づくりをしてしまうと、みんな似通ってしまうので、それぞれの原作のキャラクターに寄り添うようなアプローチ方法をしていました。原作はもちろん読み込みましたし、しゃべり方だったり、立ち居振る舞いだったり、身体の動きだったりを変えていくのはとても楽しい作業でしたね。

Q:漫画作品の実写化が続くことは大変なこともあったのでは?

もちろんありましたが、これまでやってきた作品で後悔しているものは一つもありません。全部(の出演作が)自分にとってはプラスになっています。ただ、不安ではないのですが「ちゃんと自分は成長しているのかな」と思うことはありました。

Q:そういう思いには、どうやって答えを出しているのですか?

言葉ではうまく表現できないのですが、撮影をしていると「この部分は、あのときの作品でやったことが活かされているな」と感じる瞬間があるんです。それを成長というのかはわかりませんが、やってきたことは確実に自分の力になっていると思います。


山崎賢人

映画にドラマにと作品が途切れることなく続いている山崎賢人。その多くが主演という立場上、取材に応じる機会も多いのだが、完成披露イベントで橋本光二郎監督が「いい意味で変わらない」と言っていたように、無邪気で自然な立ち居振る舞いは、本当に昔から変わらない。これまで共演した人が口々に山崎の「人柄の良さ」を挙げていたが、周囲を和ませる“人柄”がスクリーンからも伝わって、多くの人を魅了するのだろう。

映画『羊と鋼の森』は6月8日より公開

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