『ペンギン・ハイウェイ』蒼井優 単独インタビュー
年齢によって役が変わってきた
取材・文:高山亜紀 写真:尾藤能暢
森見登美彦の小説を、アニメーション制作会社「スタジオコロリド」が制作した青春ファンタジー映画『ペンギン・ハイウェイ』。大学在学中に発表した『フミコの告白』が国内外の賞を受賞した新世代のアニメーション監督の石田祐康が監督を務め、小学生のアオヤマ君がひと夏に経験する不思議なできごとを描く。主人公のアオヤマ君にとって興味深い存在でどこかミステリアスな「お姉さん」の声を担当した蒼井優が、抜群の存在感を放っている。声優としても高い評価を得ている蒼井が、声優業の面白さや夏の思い出を語った。
子供時代のアニメ映画の思い出
Q:この作品への出演を決めた大きな理由はなんですか?
夏休みと言えば、アニメじゃないですか。みんな大好きですよね。私も子供の時にアニメ作品、特に夏休みによく観ていたので、そういう作品に参加できることはとてもうれしいと思いました。それから、石田監督が以前作られた『フミコの告白』という短編を観て、面白いと思ったことも理由の一つです。
Q:蒼井さんが観た、アニメとはどんなものでしょう?
やはり、劇場版『ドラえもん』シリーズですね。映画館で冒険させてもらった感じがありました。子供時代はバレエだったり、クラシックのコンサートだったり、演奏会なら見せてもらえても、ザ・エンターテインメントなものにはなかなか触れさせてもらえませんでした。だけど、ジブリとドラえもんの二つだけはなぜかOKだったんです。だから、『平成狸合戦ぽんぽこ』を観た時には、かなり大人向けの難しい内容だったので、「私の貴重な一回がこれなのか~っ」って思いました(笑)。自然と人間社会といったようなテーマは、大人になってからこそより楽しめるものだと思います。今回の『ペンギン・ハイウェイ』は大人も子供も楽しめる点もよかったです。
来年はデビューから20年
Q:今回声を担当されたお姉さんは、自由奔放でミステリアス。蒼井さんの声が実によく生かされていると思いました。
最初はアニメのお姉さん役と言えば、こういう声だろうというのが自分の中であったんです。スタンダードなお姉さんの声というのでしょうか。声帯をちゃんと締めて、高くて……。そんな印象があったんですけど、最初にこの映画の中のお姉さんの基本的な音程を監督や音響監督の方と決めるところから入りまして、声の高さをチューニングみたいにいろいろ話し合って決めました。もともと私の持っている声質もあるでしょうけど。
Q:これまでのアニメ作品と比べて、自分に近い役柄というのは声優としてはやりやすい、やりにくいなどありますか?
難しかったです。自分から遠いところに行けるのが声優をやらせていただく際の喜びだったんですが、今回は割とそう遠くないところなので。それから、実は今までお姉さん的な役どころをやったことがないんです。気づいてみたら、誰かに依存するような役ばかりやってきているんですよね(笑)。今回のお姉さんは、キャラクターたちの人間関係における「芯」みたいな役割だから、すっとしっかりまっすぐ立っているような感じがあって、それを声だけで表現するというのは自分にとっては挑戦でした。
Q:素敵なお姉さんの印象が増えてきたような気がしていました。お姉さんっぽい役柄を演じる年齢になってきたと実感することはありますか?
そうですね。年齢によって、いただく役は確実に変わってきています。いろんな役者さんがいると思いますけど、私は自分の性質なのか、好奇心がすぐ移りやすいので、年齢によって役が変わってくるのは楽しいです。
Q:来年はデビュー作である舞台「アニー」からもう20年、経ちますね。
えっ、そうでしたか。引退にふさわしい年だな(笑)。
監督の第一印象は「少年」
Q:お姉さんとアオヤマ君の関係はどんなふうにイメージされたのですか?
主人公のアオヤマ君目線で物語は進んでいくので、監督の指示がベストだと思っていました。というのも、監督が割とアオヤマ君に近い方なんです。「ここはもうちょっと包み込むように」というようなことを言われたり、演出してくださったりしたので、確実によくなっていきました。ものすごく丁寧に収録させてくださったので、とても感謝しています。
Q:蒼井さんから見た監督はどんな印象ですか?
第一印象は「少年が現われた」という感じでした(笑)。最近知ったんですが、年下なんです。いつも半ズボンをはいていて、無垢な方だなというのと、常に人に感謝している印象があります。
Q:アオヤマ君のような監督の演出はどのようなものだったのでしょう?
例えば、「おお?」みたいなセリフがあったんですけど、二文字くらいのセリフは結構、難しいんです。そういう時はみんなでどの言い方がベストかみたいな感じで、一緒にやらせてもらったんです。「ご自由にどうぞ」という感じではなく、周りのスタッフさんも一緒に言ってくれたりしました。監督の人柄もあると思うんですけど、作っている中に入れてもらえた感じがして、すごくうれしかったです。
これまでにない好環境で声をあてることができた
Q:「スタジオコロリド」の第1回長編作品であり、スタジオが20代中心の集団というところも反映されているでしょうか?
かもしれません。クリエイターの方たちみんなで積み重ねている層が何千、何万とあって、そこに声を入れる私たちの層が一枚入るような感覚がありますけど、ちゃんとグループの一員として参加できるようにしてくださった印象があります。
Q:何日かかけて収録されたそうですが、それもまたよかったのかもしれないですね。蒼井さんが声を入れた時、作品はどれくらいできていたのですか?
まだ修正する箇所もありましたが、それでもほぼ絵はできていたように思います。これまで、声優として参加した作品の中には、顔が〇だけとか顔の向きがかろうじてわかるくらいだったこともありました。今回は、確かにコマ数が足りてないところはあったような気がしますけど、動きや表情は確実にわかる状態でやらせてもらえました。声優という作業に慣れていない分、そういうところでは助かりました。もし、今回も〇の状態で声を入れなければいけない状態だったら、ちょっと想像がつかなかったかもしれません。
Q:だから生っぽいお姉さんの感覚ができあがったんですね。
監督の画の一点一点、一枚一枚に対する愛情がすごいんです。お姉さんという役にもそうですし、表情ひとつからすべてに愛情を持っていらっしゃっていて、その愛のダダモレ具合がすごかったです(笑)。アオヤマ君に対してももちろんそうで、ほかの役もそうだと思います。それがみんなの心をほぐしてくれる。監督が楽しそうだから、スタッフの皆さんも楽しそうでした。
Q:次回はぜひ、本作のグラマーなお姉さんを蒼井さんが実写版でやるのはどうですか?
詰め物をいっぱいしてなら(笑)。あの部分には、男子の夢が詰まっていますからね。
俳優が声優をやる楽しさは「実写ではできない役柄を演じられるところ」という人が多い。これまで蒼井優もそうだったろう。ところが今回、彼女が挑んだのは実写でも演じられそうな普通のお姉さんの声。その難しさは計り知れない。それでも彼女の魅惑的な「生の声」があったからこそ、身近なお姉さん感が生まれた。来年はデビューから20年。作品ごとに素晴らしい才能を発揮する名女優はアニメの世界でもやはり名優だった。
(C) 2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会
映画『ペンギン・ハイウェイ』は8月17日より全国公開