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『泣き虫しょったんの奇跡』松田龍平 単独インタビュー

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『泣き虫しょったんの奇跡』松田龍平 単独インタビュー

15歳から役者一筋 映画と重なる思い

取材・文:編集部・小松芙未 写真:橋本龍二

プロ棋士の養成機関である新進棋士奨励会を退会してサラリーマンとなり、35歳の再挑戦でプロ編入を遂げた棋士・瀬川晶司五段の実話を映画化。将棋界で本当に成された偉業を、9歳から17歳まで奨励会に在籍していた豊田利晃監督が、『青い春』以来16年ぶりに松田龍平を単独主演に迎えて活写した。プロを夢見て将棋一筋に生き、大きな挫折から再起に至るまでの“しょったん”こと瀬川晶司を熱演した松田が、将棋シーンの裏側や瀬川棋士本人との交流、作品に重なる自身の思いを明かした。

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こてんぱんにされた将棋の記憶

松田龍平

Q:もともと将棋のご経験はあったんですか?

小学生くらいの時に少しやったことがあるくらいですね。

Q:きっかけは?

友達がやっていたんです。でも、将棋を知っている人と、ちょっとしか知らない人の差って激しいじゃないですか。だから、こてんぱんにされて「もうやらない」ってなった記憶があります(笑)。

Q:では今回、改めて将棋を学んだんですね。

そうですね。丁寧に教えていただきました。プロ棋士の方に教わる機会なんてなかなかないので、教わらない手はないと思って。

Q:撮影のどれくらい前に、どのような練習を?

撮影の1か月前くらいから徐々に将棋の指導を受けて、一緒に対局していただきました。

Q:いきなり対局するんですか?

基本は対局ですね。対局しながら「ここだったら、もう少しこういう手があるよ」と教わったり。あとは、自分で興味を持って囲い方とかを本で調べたり。囲うまではできるようになるんですけど、囲うことに必死になって、ボロ負けするという(笑)。

Q:勝ったことは?

新井浩文くんに勝ちましたね。得意だという話を結構前に聞いていたので、絶対勝てないだろうなと思ってたら、勝ってしまって。あれっ、みたいな(笑)。なんかムードで勝ちましたね。メンタルで勝ちました。

演じた本人との意外な交流

松田龍平

Q:共演者の方とも練習されたんですね。

撮影中も待ち時間に結構みんなで将棋を指していましたね。

Q:撮影の合間に将棋という一つのことを皆さんでできるっていいですね。

そうですね。あと、僕は主に瀬川さんに将棋を教えていただいたんですが、楽しくなる教え方をしてくださるんです。難しくないんですよ。遊び心あふれるレッスンをしていただいて。一気に敵の陣地に攻め入るような、飛び道具的な技みたいなものもたくさん教えていただきました。

Q:それは楽しいですね。

敵の陣地に行くまでは持久戦になることもあるので、じわじわ攻めたり。じわじわ攻めるやり方は将棋のルールをある程度知っていないと、金や銀の動かし方がわからなかったりするんですけど、飛車や角で一気に攻める方法とかも教わりましたね。

Q:瀬川さんとは今でも交流があるそうですね。

主な交流は撮影後なんです。瀬川さんは撮影現場にもいらっしゃっていましたし。たくさんの人が将棋を指している奨励会のシーンでは、みんなやみくもに指しているわけではなくて、ちゃんと対局をしているんですね。対局相手との駒の動かし方も全部決まっていて、棋譜を覚えて指すんですが、その棋譜が間違っていないかとか、駒の並べ方も含めて監修でいろいろな棋士の方に来ていただいて、瀬川さんにもすごく手伝っていただきました。そういう意味では、ご本人が現場にいるということが今までにありませんでしたし、なかなか経験できない現場だなと思いました。

Q:撮影の後はどういう交流があったんですか?

棋士の方たちがやっているフットサルチームに誘っていただいて、結構行っています。棋士の方や将棋の世界で仕事をしている方が15~20人くらい集まって、試合をしています。

映画と重なる自分の気持ち

松田龍平

Q:松田さんから見て“しょったん”はどんな人ですか?

とにかく将棋が正直な人だなと。映画の流れですけど、正直な将棋を指して、正直すぎて勝てないっていうシーンがたくさんあったかな。手段を選ばないで勝ちに向かえば勝てた試合も、将棋を大切に思っているから、なかなか踏み切れない。でも、勝たなきゃいけない試合ってあるだろう、と。そこですごく葛藤している感じでした。

Q:奨励会の26歳という年齢制限が来るまで、大丈夫と自分を信じて淡々と対局を重ねていったようにも見えましたが、確かに手段を選ばないで勝ちに向かうというわけではなかったですね。

試合中に大丈夫だろうと思っているわけじゃなくて、次があるという思い。その気持ちは想像すると恐ろしいなと思いますが、26歳までってそんなに短いわけじゃなくて、割と長い時間があるんですよね。でも、その時は必ず来るし、一方で26歳まで将棋をやれてしまう。ただ、瀬川さんがすごいのは、そこからちゃんと大学を出て、サラリーマンになっていますからね。

Q:1回ダメだったことに再チャレンジするって、ものすごいパワーを要することだと思います。

いちからの再挑戦だったら、そこまで行けていないんじゃないかと思います。サラリーマンからいきなり「よし、プロになるぞ」と始めたわけじゃなくて、一度諦めてもやっぱり将棋が好きだな、もっと指したいという純粋な気持ちでまた始めたからこそなのかな、と。決してプロになるつもりで再開したわけじゃないし、ただ指したいという衝動で指し始めて……。そこからいろんな人の期待を背負って、将棋界のルールまで打ち破って、プロになった。夢をものにするっていう奇跡の話だと思うし、実際にあった話なんだなって。すごい精神力ですよね。

Q:映画と自分の気持ちが重なる部分が多かったというコメントを拝見しました。どんなところが重なったのですか?

具体的に“ここ”と、自分の中で定めてはいませんが、瀬川さんは小学生の頃から将棋で、一方の僕は15歳から役者をずっとやってきて、それ以外を見てこなかったなって。見てこなかった部分が、役者とか関係なく、ただ一人の人間として補えるのかなと。そういうふうに思うようなタイミングだったからなのかもしれませんね。

豊田監督はカッコいい

松田龍平

Q:共演の主役クラスの皆さんも「豊田監督なら」というだけで出演を快諾されたそうですが、皆さんが惹き付けられる豊田監督ならではの魅力とは?

信頼感ですね。監督としての信頼感もそうですし、カッコいいですよ。監督としても、人としても。

Q:豊田監督は「言うなれば、黒澤明監督にとっての三船敏郎さんが、僕の中では松田龍平さん」とおっしゃっていますが、それを聞いてどうですか?

なんとなくわかります。ただ、黒澤監督と三船さんの関係が実際にどんなものだったのか僕にはわからないので、しっくりとはきていませんが(笑)、嬉しいです。

Q:劇中に「羽生さんっていう超天才がいる」という言葉が出てきますが、松田さんは自分と同じ世界で超天才だなって思う人はいますか?

役者の世界で、ですよね。みんなそれぞれ違うし、僕にはわかりませんね。映画業界に広げてみても、やるべき仕事が全然違うから、意外と測れないのかもしれない。その世界で全然天才じゃなかったとしても、僕から見たらすごい人じゃないですか。そう考えると、やっぱり同じ仕事をしてないと、ちょっと測れないなって思いますね。


松田龍平

寡黙でマイペースな雰囲気を漂わせながらも、質問に対して的確に自分の考えを示す松田。飾り気のない人柄の中に揺るがない自己があるからこそ、どんな役にも染まり切ることができるのだろう。“しょったん”にふんした松田は、これまでに見たことのないような悲嘆の表現で、観客の心を激しく揺さぶる。『泣き虫しょったんの奇跡』は、実話の映画化という枠を超えた名作だ。

(C) 2018「泣き虫しょったんの奇跡」製作委員会 (C) 瀬川晶司/講談社

映画『泣き虫しょったんの奇跡』は9月7日より全国公開

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