『純平、考え直せ』野村周平 単独インタビュー
生涯をかけて一人前を目指したい
取材・文:折田千鶴子 写真:尾鷲陽介
直木賞作家・奥田英朗の同名小説を映画化する『純平、考え直せ』。“一人前の男”になることを夢見る新宿・歌舞伎町のチンピラ・純平が、鉄砲玉となるまでの3日間を活写する。昔気質で一本気な純平を演じるのは、映画やテレビドラマなど出演作が相次ぐ24歳の実力派、野村周平。「恋愛ものが続いていたので、全く違うイメージの役が来てうれしかった」と語る野村が、純平として駆け抜けた撮影の日々を振り返る。
任侠の世界に生きる純平の生きざま
Q:“筋金入りのチンピラ”役は初めてだと思いますが、そんな純平という男をどう思われましたか。
恋愛ものの映画やテレビドラマが多かったこともあって、こういう役はいただけないだろうと思っていたのでうれしかったです。純平って、まさに“侠(おとこ)”という感じ。任侠の世界には、まだ本当にこんな人がいるのかな、と思いながら演じていました。男気があるし、“カッケ~!”と思いますが、女の子にモテたい自分からすると、もう少しくだけた方が良くない? とも(笑)。
Q:純平は、なぜそんな世界に飛び込んだのでしょう?
それはやっぱり好きな兄貴がいて、その兄貴の信念がカッコよくて、リスペクトしたからこそ飛び込んだのでしょうね。ただ最終的には、兄貴がどうこうということを超えて、純平は理想の自分像、理想の男像を探しにいったのだと思いました。
Q:歌舞伎町での撮影はいかがでしたか。
歌舞伎町って独特な空気、怖さがあるな、と感じました。混とんとした、一つ違う世界の扉を開けるような感覚というか。あの格好(チンピラの扮装)をして話しかけられたら怖いと思いますし(笑)、コスプレにならないように意識していました。
好きなものを語れる男がカッコいい
Q:純平は兄貴をカッコいいと崇拝していましたが、野村さんご自身がカッコいいと思う人物は?
好きなものがあって、それを語れる人、でしょうか。特別なものじゃなくていいと思うんです。それこそ女性でもアニメでも服でも、何でもいい。でも例えば、古いロックバンドのTシャツを着ている人がいたら、「(そのバンドが)好きなのかな」って思うじゃないですか。それで話を振ったときに、「知らないんだよね」とか言われるとちょっと複雑な気持ちになります。
Q:具体的に、憧れる男性は身近にいますか?
やっぱり、長瀬(智也)さんはカッコいいです! 好きなものが一貫してあって、その上での外見や服装がああいう風になっているのがいいな、って。僕自身はスケートやBMXや車、バイクなどなど、体を張ってやるものが好きです。
SNSの利便性とリスク
Q:純平が兄貴や親分のために命を張る任侠の世界と、純平と行動を共にするOLの加奈が常にSNSで不特定多数の人とつながっている現代のコミュニケーションが、同時に描かれているのも本作の面白さですよね。
確かにそうですね。そうなると僕は完全にSNS側の人間ですが、極論を言えばSNSがなくなってしまっても別に構わない、とも思っているんです。なくなった瞬間は驚くと思いますが、その中で生きようとは思っていないので。
Q:そうしたツールがないと、現代人は人間関係を築きにくいと言われていますが。
自分も名刺代わりとして、“自分はこういう人間です”と世に発信するため、InstagramやTwitterをやっています。でも、自分の性格や内面を偽ったり、隠したり、架空の自分を作ることが可能な世界でもあるので、ある意味怖いとも思っていて。だから、それがないと人とつながれないというのは、本末転倒なのではないかと。
Q:負の側面もありつつ、本作からはSNSの拡散力や訴求力も伝わってきますよね。
今はYouTuberが稼げる時代になってきていますよね。伝達機能や宣伝効果など、使い方次第では本当に素晴らしいけれど拡散力がハンパないので、僕も気をつけなければと思います。
Q:ちなみに加奈を演じた柳ゆり菜さんとのラブシーンも、体当たりで演じられていました。柳さんとの共演の感想を教えてください。
彼女の覚悟を感じていたので、その覚悟を汲み取った上でのお芝居にしなければと思っていました。アクションに例えられることが多いですが、感情を込めたアクションというか、まさにその通りだなと思いました。
死ぬまで“一人前の男”を目指して生きていく
Q:野村さんは芸能界で10年近くのキャリアを積まれています。純平は“一人前になる”ことを夢見て任侠の世界に飛び込みましたが、野村さんは俳優人生を通して“一人前になった”と感じる面はありますか。
現場での居方ですとか、お芝居をしやすい環境を自分で作るということには慣れてきたかな、とは思います。自分のパフォーマンスでいいものを出せればいいのかなと。人の真似ではなく、自分らしく、自分の生き方を貫こうと思っているところです。
Q:今、“一人前になれた”という実感はありますか?
それは、まだまだです。何をもってして一人前と言うのかも難しいと思うんです。もしかしたら一生が終わってみないとわからないのかもしれない。一生を終えたとき、「あいつはちゃんと生きた、いい奴だった」と言われることを目指して、つまり一生をかけて、一人前の男になることを目指して生きていくのかな、と思います。
撮影の合間や取材の現場でも、役者同士で和気あいあいと楽しそうにしている野村だが、一対一で対峙すると、硬派な男気が立ち現れてくる。今年既に公開された『ちはやふる -結び-』『ラブ×ドック』、そして11月に公開される『ビブリア古書堂の事件手帖』とは打って変わって、『純平、考え直せ』では荒々しい表情をみせている。野村を語る上で、本作が欠かせない作品となったことは間違いない。
ヘアメイク:NORI/スタイリスト:平本兼一
(C) 2018「純平、考え直せ」フィルムパートナーズ
映画『純平、考え直せ』は公開中