『ムタフカズ』草なぎ剛 単独インタビュー
僕は直感と感覚で生きている
取材・文:磯部正和 写真:高野広美
『鉄コン筋クリート』のSTUDIO4℃とフランスの映像制作会社ANKAMAがコラボした日仏共同製作アニメーション映画『ムタフカズ』。本作で、犯罪者と貧乏人たちが住むダーク・ミート・シティで生まれ育った主人公・アンジェリーノの声を担当したのが俳優・草なぎ剛だ。「新しい地図」のスタートからほぼ一年が経過した草なぎが「節目の作品になった」と語った本作の魅力や、チャレンジすることが多かったという一年を振り返った。
僕が演じたリノから大事なものを受け取った
Q:声のお仕事の話を受けたとき、どんなお気持ちでしたか?
アニメーションのアテレコは久しぶりだったのですが、このスタジオの作品がすごく好きだったこともあるので、話を聞いたときはワクワクドキドキしました。
Q:アンジェリーノは真っ黒でまん丸な顔を持つ、クールな性格の変わり者。どんな風に捉えましたか?
僕は小さいころからアニメが好きで、こういうエキセントリックなキャラクターにも興味があるので、楽しみでした。リノ(アンジェリーノの通称)は人間なのか違うのかわからない存在ですが、最後まで人間らしい行動をとる奴なので、僕は彼から大事なものを受け取った気持ちになりました。
Q:人間らしさというのは?
人は良い心だけではなく、悪い心に支配されてしまうこともあると思うんです。作品ではリノのなかの正義と悪魔が極端に大きなものとして描かれているけれど、僕自身にも置き換えられる感情がたくさんありました。リノを演じていて「真面目に生きることって大切なんだよな」と実感しました。
自分のポンコツ加減を楽しんで生きています
Q:草なぎさんも真面目で実直なイメージがあります。
僕は基本的に猫を被っているので……悪魔に支配されちゃうこともありますよ(笑)。でも誰しもそういう部分ってあると思うんです。そこをどうやって人間らしく、正しく真面目に生きていくのかというのは、多くの人にとってのテーマのような気がします。
Q:印象に残っているシーンなどはありますか?
人ってやっぱり自分が可愛いし、自分中心の行動をとりがちなんですよね。でもリノは、自分が危険を冒してまで人を助けることを選ぶんです。そこで自分を優先してしまうと「正面切って自分のことを見られなくなる」というセリフを言うのですが、ものすごく僕のなかでは響きました。大人になると注意してくれる人も減って、まともに怒られることってなくなるんです。だから自分で自分を律するしかない。でもだんだんずる賢くなるから、いかようにも逃げ道を作れてしまう。その意味でリノの行動というのは重く受け止めましたね。
Q:「納得いく自分になりたい」というセリフも印象的でしたが、人の美学的な領域なのですかね。
美学を超えた本能的なものかなと思ったりもしました。こういう言い方をすると誤解が生じるかもしれませんが、僕は“生き方”とかってそこまで重要だと思っていないんです。もっと本能的に感じたいなと……。生きる意味なんて考えなくても「生きているんだからいいじゃん」と感じることが大切なのかなと思うんです。
Q:草なぎさん自身は本能的な生き方をされていますか?
僕は直感と感覚で生きているので(笑)。数字が苦手というのもありますが、計算ができないんです。どんぶり勘定だし(笑)。誰でも本能に従って生きている部分はあると思いますが、特に僕は感覚と直感を信じて物事を決めることが多いです。もちろん失敗することもありますが、誰でも失敗するし、しっかり反省して次に向かう方がいいなと思います。ただ、忘れっぽい性格もあるのか、同じ失敗を繰り返してしまうんですよね(笑)。「バカは死ぬまで治らないのかな」なんて思いながら、自分のポンコツ加減を楽しんでいます。
「新しい地図」立ち上げからの一年は「本当に特別な時間」
Q:ポンコツとおっしゃいますが、とても素敵な作品に出演し、人に多くの影響を与えるお仕事をされていますよね。
正直、実績とかって関係ないと思っています。経験はどこかに生きていると思いますが、新しいことを始めれば、またゼロからのスタートなので。この作品もそうですが、やっぱり最初は「ちゃんとできるのかな」ってドキドキするし緊張します。これまでとまったく違う自分を見せたいという思いもありますしね。いつも携わる作品が集大成であり、代表作になればという気持ちでやっています。僕も気がつけばこの仕事を30年近くやっていますが、キャリアとかも関係ありませんね。
Q:新しいものへのチャレンジという意味では、昨年「新しい地図」を立ち上げてからちょうど一年。大きく環境が変わったのではないでしょうか?
新しい方向に歩み出して一年、環境はガラッと変わりました。先日、パリで(香取)慎吾ちゃんの個展があったので、(稲垣)吾郎さんと一緒に行ったのですが、ちょうど「新しい地図」を立ち上げて一年の節目だったので「また新たな一歩を踏み出そう」って誓い合ったばかりなんです。
Q:この一年はどんな一年でしたか?
これまでのお仕事も、どれもとても大切なものばかりでしたが、この一年は環境が大きく変わったこともあり、本当に特別な一年でしたね。一生懸命さは変わらないのですが、一年前、ゼロから始めたので、この一年の仕事は、どれも鮮明に覚えています。『ムタフカズ』もそうですし、『クソ野郎と美しき世界』、「バリーターク」という舞台も、作品が僕の進む道を導いてくれている気がします。
香取慎吾、稲垣吾郎には感謝!
Q:STUDIO4℃の作品はお好きだと聞きました。
強い部分と弱いところが両方存在していて、その描き方がものすごくうまいなという印象があるんです。自分のなかに眠っている、強きものと弱きものが戦っているところの描写がとても人間っぽくて、生きた人間が存在しているように感じられる。「鉄コン筋クリート」のクロとシロも、お互いがお互いを必要として、一人じゃ生きられないみたいな関係性が好きなんです。
Q:本作の登場人物もリノ、ヴィンス、ウィリーという仲良し3人組ですが、草なぎさんにとって香取さん、稲垣さんはどんな存在ですか?
かれこれ30年ぐらい一緒にいますからね。家族よりも長い関係性ってなかなかないですよね。リノという役を演じているときも、自分の感情を引っ張りだすとき、二人とのことを思い出すことはありました。その意味で二人には感謝しています。30年も苦楽を共にすると、やっぱり特別な感情が芽生えるんですよね。
Q:ヴィンス役の柄本時生さん、ウィリー役の満島真之介さんとのトリオもワクワクしますね。
満島さんとは『クソ野郎と美しき世界』のときに少しご一緒したのですが、柄本さんはほぼ初めてでした。でも出来上がった作品を観たとき、三人の友情がとてもうまく描かれていて「三人でトリオを組まない?」みたいなノリになっていました。
Q:公開が楽しみですね。
それぞれのキャラクターが近くて、ノリもすごくいいので、どんな反響になるのかとても楽しみです。収録は結構長回しだったので、そのときのライブ感というか、やっていくうちにどんどん世界観に溶け込めていけたので、すごく楽しかったです。
「新しい地図」で“本格始動”を表明してから約一年が経過した。映画に舞台、そして声の演技と俳優としての活動を軸にしつつも、SNSやYouTubeに挑戦するなど、新たな草なぎ剛の表現に、喜びを感じているファンは多い。「常にチャレンジ。キャリアは関係ない」という草なぎの言葉には、先入観なくすべてのものを受け入れる大きさを感じる。今後のビジョンについては「まったく考えていない」というが、どんなことでも吸収してしまう草なぎは、これからも多彩な活動でさまざまな人を魅了するだろう。
(C) ANKAMA ANIMATIONS - 2017
映画『ムタフカズ』は10月12日より全国公開