『スマホを落としただけなのに』北川景子 単独インタビュー
スマホはおろか大事なものを落としたことがない
取材・文:高山亜紀 写真:高野広美
「怖すぎる!」「もうスマホは落とさない」と読者たちが戦々恐々。無名の新人のデビュー作ながら映画化のオファーが殺到した志駕晃の小説「スマホを落としただけなのに」をホラーの鬼才、中田秀夫監督が実写化した。本作が監督との初タッグになる北川景子が、恋人がスマホを落としたばかりに恐怖のどん底に突き落とされるヒロイン・麻美を演じている。自分では落とし物をしたことがないという慎重派の北川が、作品から感じた本当の恐怖とは。
大切なものをなくしたことがない
Q:ドキッとするタイトルですね。話を聞いてどう思いましたか。
お話をいただいて、まず最初に思ったのが「スマホを落としただけで、どうなるのかな?」ということ。台本より先に原作を読んだのですが、一日で読んでしまうくらい、一気に引き込まれました。自分がスマホを落としたわけではなくて、知り合いが落としただけで、こんなことになるというのが印象的。スマートフォンって生活に欠かせないものとして、みなさん、何気なく使っていると思うんですけど、こういう危険な目に遭う可能性があることを考えずに使っているってところが一番、怖いところなのかなと思いましたね。
Q:自分が落としたわけでもないのに、理不尽な展開ですよね。
でも、あると思います。わたしは自分でスマホを落とすタイプじゃないから、他人の情報を入れているスマホを落とす人がいるっていうことがまず、信じられない思いなんですけど。意外に落としたことがある人って多いって聞きますので、わたしとしてはあんまり、自分の連絡先をむやみやたらに教えたくないなって思いが芽生えました(笑)。
Q:スマホは特に多い落とし物の一つだと思います。
わたし、財布も鍵もそうですけど、大事なものを落としたことが一回もないんです。どこかにうっかり置き忘れちゃったとしても、すぐに思い出して、取り戻して、事なきを得る。だから、「スマホを落としただけなのに」っていうけど、「だけ」じゃなくて、落とすこと自体、結構、大変なことですよってわたしは言いたいです(笑)。
Q:この作品を観て、注意する人が増えるでしょうね。
もちろん、落とさないのが一番なんですけど、今回、落としても、ロック解除のパスワードがわからなければ悪用されないのではないかとも思いました。だから暗証番号とパスワードは複雑にすればするほどいいのかな。それから、写真とか見られたくないものは最初から撮らない方がいいですよね。わたしは撮らないから、万が一、落として見られても困るものがないんですけど。
面倒は見てもらうより、見るタイプ
Q:落とさない秘訣など、あるのでしょうか。
鞄に何でもしまうし、乗り物を降りるときは必ず無意識に確認してるんですよね。その場を立ち去るときはいつもそう。逆に落としたり、なくしたりしたことがないから、気をつけようと思ったこともないです。性格なんでしょうね。お店とか出るときは人のことも気になっちゃいますね。すぐ見つけて、「これ誰の? 忘れてるよ」とか言うことが多いです。
Q:では、田中圭さん演じるボーイフレンドの富田が落としたスマホを麻美が代わりに取りに行ってあげるような行為は理解できそうですね。
どちらかというと面倒を見てもらうよりは見る方ですね。人に頼ったりしないけど、頼られることは結構あります。だからもし、自分も麻美と同じ立場なら、取りに行くかな。
Q:事情を抱えていて、感情をほとんどあらわにしない麻美はなかなか役づくりが難しかったのではないですか。
普通はやらないことをやっている人なんですよね。文字で読むとすごく面白いんですけど、生身の人間が演じるとなると、もしかしたらみんなから拒絶反応を起こされるんじゃないかという不安がありました。観てくださるみなさんがそういう気持ちに陥ることなく、「この先、どうなるんだ?」というミステリーの方に引き込まれてほしいという思いがあったので、そのためにはどうしたらいいのかというのをずっと考えてやっていました。
間近で感じた田中圭の魅力
Q:撮影は順撮り(台本どおり撮影を進める方法)ですか。
クライマックスの遊園地のシーンは最後の方に撮れたんですけど、過去のシーンでクランクアップしているので、順撮りではなかったんです。バラバラですね。監督には「このシーンまではこういう風にお客さんに見せておきたい」というプランがあったので、撮影するシーンの前にちゃんと伝えてくださって話し合えたので、順撮りでこそなかったものの大いに助かりました。監督との息はすごく合っていて、現場では監督を信じてやるだけという意識でいました。
Q:最初と最後の落差がすごいのはさすが中田監督作品です。
シーンシーンで違う映画かのように雰囲気が違いますので、飽きずに2時間観ていただけるのかなと思います。
Q:スマホを落とした張本人、富田役の田中圭さんは今すごい人気ですね。
長くお仕事をしていれば、いいことあるのかなって勇気をいただきました。たぶん、田中圭さん自身が急に魅力的になったわけではなく、当たり役に出会えたその前も後も変わってないんじゃないかなと思うんです。コツコツと経験を積んできて、ちゃんと役者として誠実にやってきた方だからこそ、今があるんじゃないかという気がしています。
30代になって変わったこと
Q:北川さんも10代より20代、20代より30代とどんどん輝いて、美しくなってきていると思います。
やっぱり10代の頃は怖いもの知らずで楽しんでやれていた部分があったんですけど、20代になってくると主演をさせてもらうようになり、責任も出てきて、考え込みやすい性格なので悩むことも多かったです。本当にいろいろな時期がありました。経験だけは自分のものだから。積み重ねてきた自負はありますけど、年々、仕事がしんどいような気もするし、技術面や映画の撮影の段取り的なことなどわかってきたこともあるから、楽になっている部分もあります。それでも立場も変わってくるから、苦しくなることもありますし、ほんといろいろです。きれいになったかといわれると、重力で肉が落ちてきて、すっきりしてきたのかなというぐらいですね(笑)。
Q:自信を持って生き生きと仕事をしている印象を受けます。
自信は若い頃の方があった気がします。若かったから、怖いものなんて何もなかった。今は慎重になっているところがありますね。昔は「間違いない」ってドーンと構えてやっていたけど、最近は1カットごとに「このお芝居でよかったのかな」と思ってしまう。監督のおっしゃっていることも反映したいし、自分が考えてきたものもどこかに取り入れたい。でも、それが必ずしも正解ではないかもしれない。ただ、30代を迎えたくらいから、結婚をしたこともあり、いただける役の幅が大きく広がってきました。それはわたし自身の幅が広がったわけではないと思うのですけど、今までやれなかった役や今回のようなこれまで挑戦したことのない作品やNHKの大河ドラマもやらせてもらいました。30代になって、何だか新しい挑戦が多くて、そのひとつひとつに一生懸命、取り組んできたことだけは嘘じゃないって自信を持って言えます。
Q:新しいヘアスタイルも話題になっています。
シャンプーが楽です(笑)。実はこの作品のために伸ばしていたんです。「すごくきれいな黒髪だから狙われる」という設定ですから、髪がほんとに重要でした。洗うたびに退色していって徐々に茶色っぽくなってしまうので、1週間から10日に1回は美容院に行って、真っ黒に染めていたんです。トリートメントもしなければならないので、頻繁に美容院に行っていたんですが、この髪型にして、1か月に1回くらいで済むので、生活は変わったし、気分もちょっと軽くなった気がします。
歳を重ねるごとに輝きが増していく彼女。それは単なる外見の美しさだけでなく、内面からにじみ出る、どう生きてきたかが反映されてのことだろう。初出演したNHKの大河ドラマ「西郷(せご)どん」の篤姫役が高評価されたばかりで、今度は本作のようなエンターテインメント性の高いミステリーで主演を務める。今やベテラン女優の域に達しつつも、果敢にチャレンジし続ける。守りの姿勢はまだまだ先。もっともっと咲きほこっていってほしい大輪の華である。
(C) 2018映画「スマホを落としただけなのに」製作委員会
映画『スマホを落としただけなのに』は全国公開中