『君は月夜に光り輝く』永野芽郁 単独インタビュー
朝ドラ後の不安はすぐに消えた
取材・文:坂田正樹 写真:日吉永遠
第23回電撃小説大賞を受賞した佐野徹夜の原作を映画化した純愛ストーリー『君は月夜に光り輝く』で、難病を患いながらも前向きに生きる女子高生・渡良瀬まみずを繊細に演じた女優の永野芽郁。NHKの連続テレビ小説「半分、青い。」で、長期にわたり主人公・鈴愛(すずめ)役を務めたことから、本作のクランクインを迎えた際は、「映画の現場が久々すぎて、期待と不安が入り交じった感じだった」と戸惑う気持ちもあったと明かす。そんな永野が“まみず”という新たなキャラクターと真摯に向き合った撮影の日々を振り返った。
原作の表紙の世界観に魅せられた
Q:脚本だけでなく原作も読まれたそうですが、全体の感想とヒロイン・まみずの印象を教えていただけますか?
原作を初めて手に取ったとき、表紙のイラストがすごくきれいで、どこか儚さも感じました。主人公を照らす光にはどんな意味が込められているのか、この青さは人が泣いていることを表しているのだろうか……いろんなことを考えながら読み進めていくうちに、「なるほど、そういう意味だったのか」と、一人で納得する部分も。まみずというキャラクターの強さの中に隠れている弱さや脆さみたいなものだったり、内面と外見が全く違う雰囲気だったり、相手とかみ合っているようでかみ合っていない会話だったり……そんな世界観が感じられ、すごく面白いなと思いました。
Q:朝ドラ直後、鈴愛役がまだ体に染み込んでいる中、久々に映画のヒロインも務めたわけですが、プレッシャーは大きかったですか?
そうですね。現場の雰囲気も全く違っていて、「いったい、どんなテンポで撮影していくんだろう?」という期待と不安が入り交じった感じでした。映画はワンシーンにじっくり時間をかけて撮っていくことが多いじゃないですか。その感覚があまりにも久々すぎて。逆に朝ドラは、ワンシーンが一瞬で去っていく感覚だったので、最初は戸惑うだろうなと思っていたのですが、今回の現場は、ワンシーンに対してどんどん進んでいく感じだったので、不安はすぐに消えましたね。
Q:それはやはり、月川翔監督の存在が大きかったからですか? 演者のやりたいことに耳を傾けてくださる方だとお聞きしていますが。
大きいと思いますね。お芝居をするときも「1回やってみようか」とわたしたちに託し、監督自身がそこに寄って来てくれる。とても心が大きくて、柔らかくて、人を引き込む力がすごくある方。現場全体が監督についていく、いや、気がついたらついていっちゃっている感じですね(笑)。だから撮影もスムーズなのだと思います。
空回りするくらい明るいヒロインにしたかった
Q:まだ高校生なのに余命宣告されてしまったまみずは、明るく前向きに生きようと努力します。永野さんは彼女をどのように捉え、演じようと思いましたか?
病気を患っているからといって、ずっと下を向いているようなまみずにはしたくなかったですね。空回りしてしまうくらいの明るさがあってもいいんじゃないかなと。でも、前向きに見せようとしている分、時おり“抜ける”ときがあって、ふとした瞬間に弱さが垣間見えてしまう……そんな風に彼女を捉えて演じました。だから、あまり難病というところを重要視していなかったです。「病気だから」よりも「まみずだから」が先にくる感覚で、病気をあとに付けていった感じですね。
Q:自然でとても素晴らしい演技でした。まだまだ「鈴愛ちゃん」と呼ばれる機会も多いと思いますが、この映画を観た方は、絶対に「まみずちゃん」と呼びたくなると思います。
ありがとうございます! そう言っていただけると、素直にうれしいです。やはり、朝ドラを観て知ってくださった方が多かったので、どうしてもその印象が強くなってしまうと思うのですが、鈴愛役にめぐり会えたからこそ、今の自分があるので、とても感謝しています。今回は、わたしが演じることによってまみずのキャラクターを壊したくなかったし、とにかく全身全霊を込めて演じさせていただきました。自分の演技を客観的に評価することはできないので、絶対的な自信はないですが……監督に「OK!」と言っていただいたので、それを信じたいと思います。
匠海くんとは会話がなくても苦にならない
Q:まみずに好意を寄せるクラスメイト・岡田卓也役の北村匠海さんとの共演はいかがでしたか? 劇中では振り回す永野さん、振り回される北村さんと、かなり素が出ていたようにも見えました(笑)。
そう言われてみれば、そうかもしれませんね。まみずが明るく楽しげなときはアドリブが結構多かったですし、卓也との妄想シーンは全てアドリブと言ってもいいくらい。完全に北村匠海と永野芽郁で会話をしている感じでしたね(笑)。もちろん役を演じてはいるのですが、お互いにちょいちょい素の顔が出るというか。
Q:北村さんとかなり相性が良かったようですね。
そうなんです! びっくりするくらい。すごく人見知りだと聞いていたんですが、「それ本当かな?」と思うくらい一瞬で仲良くなりました。地方ロケにも行って、大部屋で待機している時間が結構あったんですが、会話がなくなっても全然平気。「あれ? 幼なじみだっけ?」「前世で会っていましたっけ?」レベル(笑)。よくわかりませんが、深いところでつながっている感じがしますね。
代行体験、お願いするなら「免許」を埋めたい?
Q:病室を出られないまみずが卓也に“代行体験”を頼んでムチャぶりするところが可愛かったです。
そうそう、まみずがやりたいことを卓也が代わって体験し、それをスマホの動画で見せてあげるんですが、あれ、いいですよね。ショッピングモールをぐるぐる回るシーンは、実はわたしも現場にいて、カメラの横からスマホで北村くんに本当に指示を出していたんです。モニターを見ながら、「上、上!」とか、「回って!」とか言っていたので、北村くんのリアクションはほぼリアル(笑)。彼がおどおどしているのを見るのがすごく楽しかったです。
Q:永野さんご自身がもし“代行体験”をお願いするとしたら、どんなことをしてほしいですか?
そうですね……あ、そうだ!(ピンと来た表情で)運転免許証の「種類」という欄があるじゃないですか。大型とか、中型とか、原付とか。あそこの欄を全部埋めたいという願望があるので、まずは、わたしの代わりに全免許を取得してほしいですね。そのあと、運転している人の目線で映像を撮って(もちろん撮影は別の方にお願いして)、それをスマホで見せてほしい!
Q:斬新な発想ですね(笑)。
普段、大型トラックとか乗らないじゃないですか。だから、運転士の目線でその景色を見たいし、免許証が全部埋まるとかっこいいかなと思って。
Q:なるほど。着眼点が独特ですね(笑)。
あれ? そうですか? もう少しロマンチックな方が良かったかな。
Q:本作はスマホデートが見せ場にもなっているので、永野さんが考える理想のデートも教えてください。
外は疲れちゃうから、家で映画をひたすら観る、ですね。やっぱりラブストーリーがいいかな。最初は字幕なしで観て「どうしちゃったんだろうね?」なんて言いながら、次は字幕ありで内容がわかって大号泣するとか(笑)。あ、でも、洋画のラブストーリーって急にセクシーなシーンになって気まずくなること、ありますよね。やっぱりここは楽しく『ワイルド・スピード』とかにしておきます!
実に天真爛漫な永野だが、今年成人を迎えるにあたっての抱負を聞いてみると、「20歳だから、という改まったものは何もありません。年齢の区切りに関係なく、日々『後悔しない生き方』を心掛けているので」とキッパリ。とても19歳とは思えぬ発言にたくましささえ感じるが、その一方で、「免許証の欄を全部埋めたい」という誰も思い付かない斬新な発想で、周囲の空気をほんわかさせる。永野がそこにいるだけで、何かが起こりそう……この天性の魅力は、誰にも真似できない。
ヘアメイク:KUBOKI(ThreePEACE)/スタイリスト:岡本純子
映画『君は月夜に光り輝く』は3月15日より全国公開