『L・DK ひとつ屋根の下、「スキ」がふたつ。』上白石萌音 単独インタビュー
“壁ドン”の撮影は修行のよう
取材・文:浅見祥子 写真:高野広美
2014年公開の話題作『L・DK』からキャストを一新して、高校生の三角関係を描く『L・DK ひとつ屋根の下、「スキ」がふたつ。』。今作では、恋愛映画初挑戦となる上白石萌音がヒロイン・西森葵を演じた。物語は、杉野遥亮ふんする柊聖と秘密の同居生活をしているところからスタート。そこに横浜流星演じる柊聖のいとこの玲苑がアメリカからやってきたことで、波らん含みの恋模様が展開していくことに。“壁ドン”などの胸キュンなシーンに体当たりで挑戦し、等身大の主人公にふんした上白石が撮影を振り返った。
技術は意識せず、自然体で
Q:前作『L・DK』はいつご覧になりましたか?
出演が決まってからです。これでもかというほど女子の憧れが詰め込まれていて、毎秒ごとにキュンとなりました。お話をいただいたときは「ぜったい嘘だ!」と思っていたんです。自分がキュンキュンする役をやるなんて、何かの間違いか、人違いだろうと思ったくらい。これまでも少女漫画の実写映画化作品に出演させていただいたことはあるのですが、主人公の恋を応援したり、邪魔したりするような立場だったので、真ん中で翻弄される柄じゃないし、なぜ私? と、はてなマークが浮かびました。
Q:葵は柊聖のようなイケメンとラブラブで甘え上手。下手をしたら女子を敵に回しそうなキャラですが、演技で意識したことはありますか?
葵を八方美人にしたくないという気持ちがありました。心からの情熱で動いていれば、真っ直ぐさが伝わるはずだと。好意を振りまいてその気にさせたりするのではなくて、葵は純粋で天然ともいえそうなほどに真っ直ぐなんです。原作を読んで切ないほどだったので、技術的なものは意識せずに、自然体でできたらいいなと思っていました。
Q:葵には弱い部分と強い部分がありますね。
そこが人間的ですよね。すぐヘコむけれど生命力が強い。でも、彼女自身が強いわけではなくて、いろいろな人に支えられて引き上げられる、そういう強さです。私は台本を読んで救われたセリフがあったんです。憧れである柊聖の恋人が葵だと知った玲苑が「なんでこんな普通の女が!?」と言うんです。そのときに「だから私なのかな?」と。特別な子ではなく、柊聖の恋人と聞いて疑ってしまうくらいに普通の子でいいんだと思ったんですよね。
ヒロイン・葵に似ているところ
Q:上白石さんと葵が似ているところ、似ていないところは?
私はごくごく平凡で、葵と同じように奥手なタイプです。だから葵は、女の子が共感できる役柄なのかなと。似ていないところは、葵って家事の手際がすごくいいんです。私も料理は好きですけど、じっくりやって、何をするにしても時間がかかります(笑)。別にこだわり抜いているわけじゃないんですけど、ゆっくりやるのが好きなので。
Q:壁ドンとか顎クイなど、キュンとくるシーンがたくさん登場しますね。恋人にやってほしいと思ったものはありますか?
ええ! なんだろう。やはり「申し訳ない」と思ってしまいますね。でも、髪の量が多くて長いので、毎回ドライヤーで乾かしてほしいかも……ちょっと視点が違いますね(笑)。
Q:壁ドンの撮影はいかがでしたか?
総じてアクションでした。殺陣のように、一手一手を決めておかないと美しくならない。恋愛映画は動作の美しさというのも見どころだと思うのですが、綿密に決めてやらないとダメだと思うんです。現場で撮影の準備をしているあいだ、2人して廊下の隅で自主練習をしていました。黙々と壁ドンの練習をするのは、まさに修行でしたね(笑)。
柊聖も玲苑も、自分にはもったいない!
Q:恋人役の杉野遥亮さんの印象はどうですか?
本当に紳士な方でした。撮影初日の1カット目から壁ドンだったので、『L・DK』という作品の洗礼を初めに受けたような感じでした。壁ドンっていろいろな種類があるのですが、杉野さんは「こうやったら痛くないかな?」「こうすれば体勢がきつくない?」と私のことを第一に心配してくださって。自分より他人のことを自然に考えることができる優しい方でした。
Q:2人のあいだに割り込んでくる玲苑役の横浜さんはいかがですか?
お二人は、それぞれが違うベクトルの気遣いの方です。横浜さんはちょっかいを出しながら気遣うような、幼なじみのようなところがあって、冗談を言いながら明るく楽しく、そこに気遣いが垣間見えるんです。
Q:葵と玲苑の出会いの場面で、つまずいた葵が玲苑のズボンを下ろしてしまうシーンはタイミングが絶妙でした。
原作にもあるのですが、ショッキングなシーンなのでこだわりがありました。あれこそアクションでしたね。飛び込んでズルっと下ろすわけですが、何度も練習できませんから、イメトレをたくさんしました。極寒での撮影だったので、一発で決めないと、という思いもありました。
Q:柊聖と葵はラブラブなところから始まりますよね。関係性をどうつくったのでしょうか?
いかんせん1~2年付き合っているという設定だったので、空気感は難しくて。杉野さんとは最初の会話も「どうしましょうね?」でした。でも、変な慣れ合いがないカップルで、長く一緒だけど初々しいというか、瑞々しさを失っていないなと思っていたので、深く考えず、台本にあることを自然にやりました。
Q:上白石さんは柊聖と玲苑、どちらがタイプですか?
どちらも自分にはもったいない(笑)。撮影中は葵として柊聖を思っていましたが、2人はまったく異なるので、タイプが分かれるだろうなと思います。刺激的な恋愛がしたいなら柊聖で、何を考えているのかな、なぜあんなことを言うんだろうと、相手に心を揺さぶられる。結婚して温かな家庭を築き、子煩悩なパパになりそうなのは玲苑だと思います。子どもと同じ目線で遊びそうですよね。どちらも素敵です。
自分の子どもが恋愛をしている姿を見るような恥ずかしさ
Q:完成した映画を観た感想は?
誤解を恐れずにいうと、観られたもんじゃないですね、自分が恋愛している姿は(笑)。どうしても客観的に観られませんでした。撮影からタイムラグがあるので「よくやったなあ」という感慨深さもあって。自分の子どもが恋愛しているのを見るのも、こんな気持ちなのかなとも思いました。
Q:柊聖にキスされたあと「おかわり!」と言っていましたね。
あれは台本にないんですよ。現場で川村泰祐監督が思いついたのですが、監督は誰よりも乙女でした。次々にフレーズが出てくるんです。自分では言わないセリフなので貴重な経験でしたが、監督が何を思いつくのかシーンごとにドキドキでした。
Q:主題歌の「ハッピーエンド」も歌っていますね。
実は、以前にandropの内澤崇仁さんに曲を提供していただいたことがあって。そのとき候補にあった楽曲を、今回の主題歌として歌わせていただくことになりました。内澤さんも曲を完成させたいと思ってくださっていたようで、歌詞を映画に寄せたものにしていただきました。キャッチーなメロディが耳に残る、恋をした女の子がトキめいちゃうような曲です。
Q:上白石さんが今後、挑戦していきたいことはありますか?
やはり留学はしたいです。先日初めてロンドンへ一人旅をして、ウェストエンドで舞台を観て、本物に触れて愕然として。こういうふうになりたい! という野望のようなものが湧きました。たくさん旅をして本物をいっぱい観て、たくさんインプットしたいと思っています。
女優としてのみならず、声優としても確かな演技力で知られる彼女。『舞妓はレディ』『君の名は。』『ちはやふる』と代表作があるにもかかわらず、まだ21歳というから驚きだ。女優として輝かしい未来しか見えないように思えるが、本人は「自信がなくて……」と真顔でこぼす一面も。そんな彼女だからこそ、葵という等身大のヒロインをキュートな女の子として演じ切ったのだと思う。
映画『L・DK ひとつ屋根の下、「スキ」がふたつ。』は3月21日より全国公開