『ダンボ』コリン・ファレル 単独インタビュー
ティム・バートンのチームは奇妙な家族みたい
取材・文:編集部・市川遥
『チャーリーとチョコレート工場』など独特な世界観で知られるティム・バートン監督が、ディズニーの名作アニメーション『ダンボ』をオリジナル脚本で実写映画化。主演のコリン・ファレルが演じたのは、負傷して戦争から戻ったばかりのサーカスの元スターにして、ダンボの世話係になるホルトというアニメには登場しないキャラクターだ。14年ぶりに来日したコリンが、30年来のファンだというバートン監督との初タッグや、ダンボとの共演について語った。
“人間版ダンボ”のようなキャラクター
Q:あなたが演じたホルトは、人間の世界においてダンボのような立ち位置のキャラクターですよね?
そうなんだ! ダンボの苦しみと僕のキャラクターの苦しみは対になっているよね。ダンボは母と離れ離れにさせられ、ホルトも戦争に行くため子供たちと離れ離れにさせられた。ホルトは戦場に行って腕を失い、家に戻った時には肉体的にかつての自分とは変わってしまった。心もかつての彼とは変わってしまったんだ。彼はもはや自分が誰だかわかっていないと思うし、だから子供たちのこともわからなくなってしまっている。ダンボがアウトサイダーであるように、彼もアウトサイダー。これはダンボが母のもとに戻る物語であると同時に、ホルトが子供たちの心を取り戻す物語でもあるんだ。
Q:彼にはとても複雑な背景があります。
この映画の初めで、ホルトは変わってしまった世界と向き合わないといけないし、深い悲しみ、喪失感、母が死ぬ時に子供たちの傍にいてあげなかったという罪悪感を抱えている。だけど、ティム(・バートン監督)はそうした全ての要素を、できる限りシンプルな方法で扱いたがっていると感じた。とてもスウィートな映画だけど、センチメンタルになりすぎないように気を付けていたんだ。だから僕もエモーショナルすぎず、シンプルに。観客に無理やり押し付けるんじゃなくて、彼ら自身で感じてもらえるようにしようとしたよ。
乗馬はお手の物!
Q:ホルトは馬の曲芸乗りですが、コリンさんも乗馬は得意ですよね?
でも少し練習したよ! 最後に馬に乗ってからちょっと時間が空いたから……多分数年乗っていなかったかな。馬は大好きなんだ(笑)。この映画を含めて4作で馬に乗っている。『アメリカン・アウトロー』『アレキサンダー』『ニューヨーク 冬物語』とね。やることも毎回少しずつ違って、『アレキサンダー』ではゾウや馬や500人の人間が集まったクレイジーなバトルシーンだったし、『ニューヨーク 冬物語』では僕と馬だけのシーンだったけど、ニューヨークの街中での撮影だったから違った意味で危険があった。今回は炎のシーンがあったんだ。だから難しくもあったけど、楽しかったよ。馬はホルトの物語においても重要な役割を果たしているしね。
Q:片腕での乗馬は難しくはなかったですか?
実はそれは問題なかったんだ。15年~20年前にアメリカのカウボーイたちから乗馬を学んだんだけど、西部劇では銃を撃つから、もともと片手で乗らないといけなくてね! それに馬はとてもよく訓練されていて賢いから、首の周りを触るだけで方向転換してくれるんだよ。
とってもかわいいダンボとの共演
Q:ダンボとの共演はどうでしたか?
(※ひそひそ声で)……ダンボは本当はいないんだよ!(笑)。エド・オズモンドという俳優を知っている? 彼がダンボの代わりにそこにいたんだ。彼のダンボの演技は本当に素晴らしかった。腕を長く見せるために2本の金属の棒をつけて、「トゥトゥトゥトゥッ!」って動くんだ。ダンボみたいに僕たちを見上げたり(※実際にかわいくやってみせる)、とても美しかった。ニコとフィンリー(ホルトの子供たちを演じたニコ・パーカー&フィンリー・ホビンズ)とも話したけど、彼の演技がとても助けになったんだ。
Q:完成版でのダンボは、想像していたものよりかわいかったですか?
彼はとってもかわいい! とってもね。それに喜び、ちゃめっ気、悲しさ、孤独、恐れといったダンボが経験する気持ちが伝わってきて、心を動かされたよ。彼らが生み出したダンボはとても美しいと思った。
Q:エドさんがいたといえども、ダンボとのシーンはイマジネーションが必要だったと思います。俳優という仕事自体も、イマジネーションを使いますよね? それと同時に、自分の実際の経験から相応しいものを引っ張り出してくる感じなのでしょうか?
自分の経験が、イマジネーションによって倍増される感じかな。人生で感じたこと、見たもの、やったことというものがあるわけだけど、たとえ違う世界にいて違う経験をしたとしても、感じる怒り、悲しみ、喜び、痛みは同じだ。だからそうした感情を取り出して、違った文脈に置くためにイマジネーションを使うんだ。誰もが子供の頃は自然に想像して、イマジネーションを使って自分だけの世界を作ったりする。そして大人になるとそれを忘れてしまう。僕は自分のそんな部分を生かしたままにする仕事をしている。だから楽しいよ!
夢のようなティム・バートンの世界
Q:ティム・バートン監督との仕事は夢だったそうですね。
『ピーウィーの大冒険』を観て以来、30年来のファンなんだ。『ビートルジュース』『シザーハンズ』『エド・ウッド』など彼の作品全てが好きだし、新しい世界に連れて行ってくれるだけでなく、主人公と心がつながることができるのが気に入っている。疎外感、孤独といったテーマが共通していて、それは本作でも同じ。ティムのイマジネーションが作り上げた世界に足を踏み入れるのは、素晴らしかった! サーカスのパフォーマーたちが至るところに、毎日いるんだ。最初にドリームランド(バートン監督流の巨大テーマパーク)のセットを訪れた時、20頭の馬、10台の車、500人の人々、美しいセットにサーカスのテントがあったんだけど、それら全てが一つの建物の中にあるんだ。全て室内で撮ったんだよ。ドリームランドに初めて足を踏み入れた時は夢のようだった。
Q:バートン監督作品常連の俳優も勢ぞろいしています。
マイケル・キートン、ダニー・デヴィート、エヴァ・グリーンだね。何だか機能不全の奇妙な家族みたいで(笑)。その中に入っていくのはクールでスウィートだったよ。
Q:ファンタジー映画では少し演技の仕方を変える必要があるのでしょうか?
ファンタジー映画に限らず、どの映画でもその映画独自のトーンがあるのだと思う。それは全ての映画が必ず持っているもの。だからそれが何なのか理解して、その世界、そのルールに適合しないといけない。『ロブスター』でも『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』でもそうだった。キャラクターに正直に、その真実を見せようとするのはいつでも同じだけど、そのやり方は映画のトーンによって変わってくるんだ。
Q:バートン監督とのタッグで一つの夢がかなったわけですが、次にかなえたい夢はありますか?
あまりそういうことは決めていないんだ。次はコゴナダ監督の『アフター・ヤン(原題) / After Yang』に出演する。彼と仕事をするのを楽しみにしているよ。彼は数年前に『コロンバス(原題) / Columbus』(ジョン・チョー主演)を撮っていて、それは小規模だけど美しい映画だったんだ。こんな風にこれからも一日一日、少しずつ進んでいくつもりだよ。
びっくりするほど穏やかで優しいコリンは、子供たちを深く愛するホルト役にぴったり。『アレキサンダー』のプロモーション以来14年ぶりの来日となった理由についても、「いつでも来られたはずなんだけど、 仕事で海外に行くことが多いから、仕事じゃない時は自分の子供たちと一緒にいたいんだ。でもここにいるのが好きだよ。いい気分。心配しないで」と2児の父としての顔で語る。この日もあと3~4時間で出発しないといけないほど限られた滞在となったが、「次はもっと長くいられるように頑張るからね」とほほ笑んでいた。
(C) 2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved
映画『ダンボ』は3月29日より全国公開