『小さな恋のうた』佐野勇斗 単独インタビュー
歌と俳優業の線引きはない
取材・文:浅見祥子 写真:日吉永遠
“モンパチ”ことMONGOL800による大ヒット曲から着想を得た物語を『羊と鋼の森』『雪の華』の橋本光二郎監督が映画化した『小さな恋のうた』で、佐野勇斗が単独初主演を果たす。舞台は沖縄。佐野演じる主人公の亮多は高校の友達とバンドを組み、やがて東京のレーベルからプロデビューの声がかかる。「待ってろ東京!」と盛り上がる彼らを、思いもかけない試練が襲う……。亮多役で緩急の効いた演技を見せた佐野が、沖縄での撮影や役づくりについて明かした。
初めて聞いたのに、どこか懐かしい曲
Q:楽曲「小さな恋のうた」はご自身の中で初めて、これが欲しい! と思ってネットで購入した曲だったとか。この曲のどこに惹かれたのでしょうか?
メロディーかもしれません。最初は学校で授業を受けているときに音楽室から聴こえてきたので、歌詞はよくわかりませんでした。いい曲が流れてきたな、なんだろうこのいい曲? と思って。不思議ですけど、初めて聞いたのにどこか懐かしい気がして、すぐに自然と口ずさんでしまうようで。そんなところに惹きつけられたのかもしれません。
Q:亮多を演じる上で、モデルにした人などはいますか?
特にいませんが、亮多は自分と似ている面が多かったんです。真面目なところじゃなく、ちょっとふざけているときの僕に。いつもは真面目とおふざけが7:3くらいなのですが、亮多を演じるときはその比重を逆にしました。特に映画の前半はそういうイメージでしたね。
Q:亮多は大きな事故に遭遇し、その前後で人格が大きく変化します。二役を演じるような感覚だったのでは?
そうですね……あのシーンは難しくて。その前後でのお芝居の緩急、ギャップがきっと映画として面白いだろうと思い、演じる上で意識していました。映画の前半で橋本監督に「思っていたより激しい亮多でビックリした。でもそれがよかったよ!」と言っていただいて。よかった……と。
Q:亮多は劇中、心情が大きく揺れ動きますよね。すんなり寄り添えましたか?
それが出来たんですよね。台本を読んだ段階では、めちゃくちゃ難しいな! と思ったのですが。楽器練習など、クランクイン前に半年間のリハーサルがあり、バンドメンバーの関係性などはそこで出来上がっていって。だからこそ自然と演じられた気がします。
音楽の力を改めて実感!
Q:楽器の経験はまったくなかったそうですが、劇中で弾いていたベースはいまでも続けていますか?
劇中で演奏したのはベースなんですけど、実は趣味でギターも始めたんです。もともと持っていたのですが、インテリアとして部屋に飾っていただけで。でもこれをきっかけに、「小さな恋のうた」から弾こうと思って練習しています。楽器って面白いです。これまではすぐに飽きてしまったのですが、少し弾けるようになるとどんどん面白くなりますね。
Q:「小さな恋のうた」には「やさしい歌は世界を変える」という歌詞があります。佐野さんはボーカルダンスユニット「M!LK」のメンバーとしても活動されていますが、音楽の持つ力をどのように感じていますか?
この映画を通して改めて実感しました。亮多やバンドのメンバーはそれぞれに悩みを抱えています。そうした悩みや立ちはだかる壁のようなものを歌によってぶち壊し、みんなでひとつになる。歌ってスゴイな! と思って。「M!LK」の活動もやはり音楽があるからこそファンの方とつながれるし、メンバーとも切磋琢磨しながらがんばっていける。音楽の力って、意外と身近で人生の中で大きなものかもしれません。
Q:ライブだと、よりそうした実感がありますか?
そうですね。観客としてライブへ行くのも好きですが、自分がナマで歌い、お客さんに喜んでいただくのが好きです。
完成した映画を観て泣いた
Q:沖縄ロケはいかがでしたか?
昨年10月ごろから約1か月半、途中に別の仕事で東京へ戻ったりしましたが、基本的にずっと沖縄にいました。水族館に行きたい! と思っていたんですけど、意外と遠くて行けませんでした。それで近くの公園へ行き、お年寄りの方が運動するための遊具があったので、それで遊んだりして……沖縄感はあまりなかったかも(笑)。でもエキストラのみなさんはもちろん沖縄の方だし、10~11月なのに半そでで充分なくらいに暑く、そういうところで沖縄らしさを感じていました。
Q:出来た映画を観た感想は?
なんか、自分が主演をやらせてもらった映画でこんなことを言うのはあれなんですけど……めちゃくちゃ面白かったです!
Q:言っちゃいましたね(笑)。
言っちゃいました(笑)。映画を観る前にプロデューサーの方から「すっごい面白いから! 本当に出てよかったと思うぞ」とハードルを上げられて。あ、ありがとうございます! と言いつつも、そんなにハードルを上げられても……と思ったのですが、実際に観たら、初めて自分が出た映画で泣きました。というか、これまでも泣いたことはありますが、1回目はどうしても自分のお芝居の粗探しになるんですよね。今回ももちろんそうしたシーンはありましたが、強く感情移入し、とても客観的に観られました。母親も観てくれて、いままででいちばんいい演技だった! 内容も面白かった! と言ってくれたんです。
Q:身内に褒められると、自信が持てそうですね。
でも母親はなんでも、面白かった! と言うんです(笑)。おばあちゃんもそう言ってくれました。
これほど年下が多い撮影現場は初めて
Q:劇中では「M!LK」の活動と違い、亮多を演じながら、その心情の変化を表現しながら歌うわけですよね?
そういう意味では「M!LK」のときも、演技とは違いますが、曲によって気持ちの上で歌い方を変えたりします。聴いてくださる方に歌を伝えようとするので。例えばバラードならその歌詞を、ちゃんと感情を込めて歌う。だから今回、演技だから特別に感情を込めよう! とか、亮多としてある人物に向けて歌おう! などと、ヘンに構えることはありませんでした。
Q:歌うシーンでは、頭を使っていろいろと考えているのでしょうか?
ぜんっぜん考えてないです。もう、とにかく楽しむ! 逆に、下手に考えないようにしようと思っていました。だからある意味、自分の素に近いかもしれません。やんちゃなところやパワフルさが、少し増したりはしていますけど。
Q:歌うことと俳優業の線引きはありますか?
それが……ないんですよね。ないと言ったら違うのかもしれませんが、スイッチを切り替えるという意識はあまりなくて。歌も俳優もありがたいことにどちらのお仕事もいただけているので、いただいたお仕事ひとつひとつきちんと全力で取り組もうと思っています。スイッチの切り替えというのはありません。
Q:『羊と鋼の森』でも組まれた橋本監督が「ここ2~3年で責任感が大きく育ったのでは?」とおっしゃっていました。
監督に「成長したな!」と言っていただいたのですが、本当かな~!? 意識はしていませんが、主演をやらせていただいたりして、多少は考えるようになったのかもしれません。これまでは引っ張って下さる先輩についていくだけでしたが、これほどに年下のメンバーが多い現場は初めてでした。昔から尊敬する先輩である山崎賢人(「崎」は「たつさき」)君とドラマで共演させていただいたとき、主演だった賢人君はいい意味で僕の思う主演のイメージと違っていました。部活のキャプテンのように、さあいこうぜ! とみんなを引っ張るのではなく、スタッフさんとも仲良くしてその現場を楽しんでいた。それで主役って、楽しい雰囲気づくりが大事なのかな? と。まずは自分のことをきちんとやりつつ、ヘンに気負いすぎず、現場の雰囲気が少しでも楽しくなったらいいなと思っていました。
21歳になり、すっかり大人っぽくなった佐野勇斗。昨年から主演映画が続けて公開され、俳優としても一歩一歩成長していることが、会話の隅々から伝わる。一方でやんちゃなキュートさ、場を一気に明るくする愛嬌はそのまんま。映画『小さな恋のうた』の亮多にもそんな彼が持つプラスのエネルギーがストレートに反映され、哀しみを背負った物語を支える。的確な演技力にも磨きがかかり、見た目の男らしさもシャープさを増した。演技について、これからの自分について、つい真面目に語り過ぎたと思ったのか、照れて笑った顔もまたキュート。
映画『小さな恋のうた』は5月24日より全国公開