『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』渡辺謙&マイケル・ドハティ監督 単独インタビュー
素晴らしい怪獣を生んだ日本へのお返し
取材・文:神武団四郎 写真:高野広美
誕生から65年、怪獣の代名詞として世界的な人気を誇るゴジラ。ハリウッド超大作として製作された本作は、ゴジラが最強の敵キングギドラと激突するスペクタクル巨編だ。本作のキーマンで、長年ゴジラを追い続けてきた科学者・芹沢猪四郎を演じるのは、ハリウッドでも大活躍する渡辺謙。核によって生き続けるゴジラに複雑な思いを抱く芹沢を、圧倒的な存在感で演じている。監督は『X-MEN』シリーズで原案や脚本を手掛けてきたマイケル・ドハティ。公開を前に来日した二人が、その舞台裏や互いの素顔を明かした。
新たな『ゴジラ』に込めた強い思い
Q:この作品にどのような気持ちで臨まれたのでしょうか?
渡辺謙(以下、渡辺):前作『GODZILLA ゴジラ』のあと、成功したら2本目もあるよねって話はしていたんです。でも、やっぱり脚本次第じゃないですか。実際に読ませていただいたら、ゴジラがキングギドラと戦う『三大怪獣 地球最大の決戦』や『怪獣大戦争』などオリジンの魅力を生かした素晴らしい脚本だったので、「参加します」と即答でした。
マイケル・ドハティ監督(以下、監督):誕生から65年というゴジラの歴史をたたえるような、そんな映画にしたいと思って臨みました。僕は子供のころからゴジラの大ファン。長い間ずっと大切にしてきたし、その重みもわかっているつもり。そんな思いを込め、素晴らしい怪獣を生んだ日本の皆さんにお返しさせてもらったということです。
Q:芹沢猪四郎に対する思いをお聞かせください。
渡辺:芹沢は、ある種の願いを託す相手はゴジラだという思いを持っています。もちろんゴジラが信じるに足りる存在か、誰にもわかりません。そもそも、どういう行動原理で動いているか理解できないですから。ゴジラは核をエネルギーにしていますが、彼の父親は広島で被曝しています。自己矛盾を含め、複雑で苦しい思いを持って演じました。
監督:芹沢はゴジラの本質を伝える役割を担っています。彼だけが、ゴジラが人間と怪獣が共存するための鍵だとわかっているんです。芹沢はゴジラと向き合い、恐れず触れ合うことさえしています。なぜなら彼はゴジラを理解し、敬意を持っているからです。僕にとっては、誰よりも共感を覚える人物ですね。
監督はいたずら仕掛け人だった?
Q:撮影にあたってお二人でどのような話し合いをしたのでしょう?
渡辺:マイケルがよく示唆してくれたのが、モナークという組織の中における芹沢の立ち位置です。陣頭指揮を執るのは芹沢だから、君がリーダーシップを発揮しないとだめなんだと。科学者ではあるけれど、率いる立場にあるとつねに意識しました。
監督:謙さんは積極的にアイデアを出してくれました。中でもお気に入りが、芹沢がゴジラに対峙(たいじ)するところ。私が書いたセリフは英語でしたが、読み合わせで謙さんはセリフを日本語で話されたんです。その響きがよかったし、独白なので母国語の方がしっくりくる。おかげで完璧なシーンになりました。ほかにも彼の父親の形見である懐中時計の使い方など、たくさんアイデアをもらいました。
Q:モナークの施設や飛行基地アルゴなどセットも見応えありました。
渡辺:セットにヘリの発着場があったし、最初にゴジラが登場するガラス張りの基地も巨大なセットでした。アメリカから南極、メキシコと移動したので、とてつもない長旅をしたなって感じですよ。ストーリーの上だけですけど(笑)。
監督:僕としては、怪獣に直面した人類が知恵や技術を持ち寄り、脅威を乗り越えようとしていると伝えたかったんです。日本の『ゴジラ』シリーズでも、メーサー砲やスーパーXなど、いろんな兵器や装備がしっかり描かれていました。
Q:一緒に仕事をしていかがでしたか?
渡辺:マイケルはクールで理路整然としたタイプですが、実はいたずら好きで何度も仕掛けられました。たとえば芹沢が基地のモニター越しに会話するシーン。本番でモニターが点いたら、なぜか『SAYURI』の僕とチャン・ツィイー(アイリーン・チェン博士役で出演)のラブシーンが映し出されたんです。深夜でみんな疲れ果てていて、それを見ながら「イェーイ」なんて変なテンションで盛り上がって(笑)。
監督:謙さんもユーモアのセンスがある、とても楽しい人でしたね。それにかっこいいでしょ? ただ電話帳を見ているだけで絵になる男はいませんよ(笑)。いま横にいるから言ってるわけじゃありません(笑)。
ゴジラや怪獣たちの描写のこだわり
Q:怪獣の演出で、監督がこだわった部分を教えてください。
監督:もっともこだわったのが、日本のオリジナル映画に敬意を示すこと。というのも『ゴジラ』シリーズの怪獣たちは、ただ暴れ回るだけでなく明確なキャラクターを持っています。どこか知性を感じるし、怪獣たちの間にも憎しみやシンパシーなど感情が見えるので、そこを大切にしました。
渡辺:今回は出てくる数が多いじゃないですか。そのひとつひとつの登場の仕方がとても印象的なんです。音楽もそうだしライティングもそう。まるで歌舞伎の見得のように、怪獣たちそれぞれが型のようなものを持っている。センセーショナルでしたね。
監督:僕自身、生き物が大好きなので、爬虫類や昆虫、鳥類などいろんな動物の動きを研究しました。“怪獣らしさ”を生かしつつ、自然界から生まれた生き物らしさを出したかったんです。
猛威を振るうゴジラが暗示するもの
Q:この映画は怪獣と人類の共存がテーマのひとつになっています。実際に怪獣がいたら共存は可能だと思いますか?
渡辺:怪獣という姿になるとフィクショナルな感じがしますが、いま世界各国で起こっている自然災害は、逃れられないものですよね。アメリカではハリケーンやトルネードがあるし、日本には地震がある。その猛威を科学の力で予知したり防げるのか、そしてどう受け入れるかは近々の課題です。すべてブロックするのがよいとは思わないけど、人命は守りたいというそのバランス。科学と文明と社会はトライアングルであるべきじゃないかな。自然を怪獣にたとえると、とても現実的な話なんです。
監督:もし怪獣が出てくるボタンがあったら、ためらうことなく押しますよ(笑)。僕が思うに、ゴジラたち怪獣は自然界を象徴する存在。だから人類は、彼らと調和し共存しなければなりません。大昔から人類は自然災害を神話として伝えてきたし、神として崇めた文明もありました。それが忘れ去られ、いまやおとぎ話になってしまった。自然との共存について、僕らはもう一度考えなければならないと思います。
日本のゴジラが海を渡ったことの意味
Q:日本で生まれた『ゴジラ』をハリウッドでリメイクする。そこに出演されるのはどういうお気持ちなのでしょうか?
渡辺:前作のときは、いよいよゴジラが本格的に世界に出るぞ、という思いがありました。でも映画が公開された後、日本のゴジラから世界のゴジラに変わったのを肌で感じたんです。発祥は日本ですが、いまやゴジラは世界中で愛されている。今回は、そんなゴジラ映画に出るんだと強く感じましたね。
監督:ゴジラは平和親善大使だと思うんです。日本で戦後10年も経たないうちに誕生した『ゴジラ』がアメリカに輸出され、それ以来、子供から大人までたくさんの人々を魅了してきた。そしていまや日本とアメリカが協力し、新しい『ゴジラ』を作っている。つまり人々を平和につなぐ大使のような存在ですね。僕はゴジラにノーベル平和賞を与えるべきだと思っています(笑)。
渡辺:それはいいね。でも、それって誰がメダルを受け取るの?(笑)
監督:ゴジラ本人ですよ(笑)。ゴジラを演じてきたスーツアクターに受け取ってほしいな。
ユーモアを交えてフランクに語る渡辺と、ほほえみながら静かに語るドハティ監督。一見すると好対照だが、互いに相手の受け答えをフォローするなど息の合ったところを見せつけた。もっともトークが盛り上がったのはドハティ監督のいたずらの数々で、引っかけられた渡辺も楽しそうに振りかえった。遊び心を大切にする大人たちだからこそ、観客を乗せる映画が作れるのだと実感させられた。
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映画『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』は5月31日より全国東宝系にて公開